Photography Matt Tammaro

PowellがティルマンスとコラボしたEP『Spoken By The Other』を語る

アンダーグラウンドテクノ最重要レーベルの一つDiagonalを主宰するOscar Powellと写真家ヴォルフガング・ティルマンスによる『Spoken By The Other』が発売。このコラボはどのようにして生まれたのか? パウエルに話を聞いた。

by Felix Petty; translated by Nozomi Otaki
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28 November 2018, 8:25am

Photography Matt Tammaro

2016年にリリースしたEPで高評価を得た写真家ヴォルフガング・ティルマンス。以来彼は、フランク・オーシャンやローマン・フリューゲルらとともに、セクシーなダンスチューンから静かで詩的なエレクトロ、ノスタルジックなシンセポップまで、実に多彩な楽曲を生み出してきた。そんな彼のキャリアと同時期に頭角を現し始めたのが、ロンドンを拠点とするミュージシャン・Powell(パウエル)。スリリングで野生的、ジャンルにとらわれない多様なエレクトロニック・ミュージックで知られるクリエイターだ。

ヴォルフガングが音楽活動に本腰を入れたのは最近だが、音楽は写真のテーマやインスピレーション源として、常に彼の作品のいち部であり続けてきた。2017年テート・モダンで行われた回顧展では、彼は〈Playback Room〉プロジェクトの一環として1980年代のシンセソウルグループCOLOURBOXの楽曲に焦点を当てた作品を展示し、会場内のスペース〈ザ・タンク〉で深夜イベントを開催した。ヴォルフガングがPowellに出会ったのは、この回顧展の会場だった。ふたりはすぐに打ち解け、「特に大きなプランはない」まま音楽による実験を始めた。

Powellの楽曲「Freezer」のMVの監督をヴォルフガングが務めたほか、デュオとして数回ライブ出演も果たしたふたり。そんな彼らは今回、『Spoken By The Other』と題されたEPをリリースした。主にスタジオでライブ収録された本作には、ふたりの声と音による実験が収められている。美しくポエティックなトラックから、緊張感の漂う、歌詞の少ない抽象的なサウンドまで、楽曲は多岐にわたる。ヴォルフガングとPowellどちらにとっても、これまでになく刺激的な作品だ。

先行公開されたファーストトラック「Feel The Night」に続き、11月16日にXL Recordingsから発売された『Spoken By The Other』。Powellに電話インタビューを行ない、本作について詳しく聞いた。

──ふたりで音楽活動を始めたのはいつですか?

制作期間は長いですが、ちゃんとした始まりがあったわけじゃないんです。それぞれ遊び半分で音楽をつくり、サウンドを送り合ったり、スタジオで会ったりするなかで自然に生まれました。そのうちに、ふたりでつくった楽曲を発表したいね、と。

──おふたりで何度かライブにも出演していますね。それがEP制作のきっかけだったのでは?

そういうわけでもありません。去年は〈Berlin Atonal〉に出ました。いっしょにライブをしてほしいと頼まれたんですが、ふたりでステージで立つのが想像できなくて。準備もできてなかったし何をするかも決まってなかった。個人的にはトラウマ的な公演でしたが、こういうつらい経験こそが面白いアイデアにつながるんでしょうね。

──これからのライブの予定は?

正直、いっしょにライブツアーをして互いに負担をかけたくないし、その必要はない、と僕らは思ってます。それぞれやることは山ほどあるし、僕もスタジオにいるほうが好きなので。自分の曲をパフォーマンスするのが落ち着かないんです。僕の音楽はアイデンティティと深く結びついてるから、しんどくなる。もしライブで失敗すれば、「何をやってるんだ」と自分を追い詰めてしまう。うまくいけば最高、でも失敗すればどん底。諸刃の剣なんです。

──〈失敗は学びへの近道〉といいますよね。失敗によって、もっと前向きでクリエイティブになれるかもしれませんし。

たしかに音楽においても、人生においてもそうだと思います。

──今回のEPは、おふたりの今までの作品とはかなり違います。

僕ら双方にとって新しい何かを模索しました。ヴォルフガングの声はとても独特です。無垢で柔らかく、彼のメッセージは純粋でシンプル。普段自分の音楽には取り入れないモノです。そういった要素を反映するには、新たな表現方法を探らなければいけなかった。つまり今回は、自分の〈安全地帯〉の外で制作したんです。不安にもなりましたが、そういう気持ちは良いコラボレーションの証拠でもありますよね。

──自分に挑み、後押ししてくれる存在が必要なんですね。楽しみと不安が半々、という感じでしょうか。

まさにその通りです。ずっと同じことを続けるわけにはいかない。僕自身、同じことの繰り返しにはすぐに飽きてしまう。100%自信を持てないことをやるほうが好きです。意外性があるので。

──正直、今回のEPはもっとあなたらしい仕上がりになると思っていました。

全部のトラックをスタジオでいっしょにつくり、ライブ収録したから、いつもと違う作品になったんでしょう。僕たちがふたりで形にした音楽なんです。サウンドや声を結びつけ、それらが互いに影響を与え合い、新しい世界を切り拓くために、いろんな方法を模索しました。そんな実験から生まれたのが今回のEPです。

──声の輪郭が曖昧になり、音楽に溶け込んでいくようですね。

EP全体についてはどう思いました?

──支配される感じが好きです。荒削りで抽象的なサウンドにワクワクします。ヴォルフガングの飾らない声や、美しさ、柔らかさとのコントラストが見事です。

〈荒削り〉という感想は初めてです。

──そうですか?

そういう意見もあるんですね。

──あなたの他の作品ほどグルーヴィじゃないからかもしれません。そこまでグルーヴ感を追求していない気がしたんです。

グルーヴィな曲もたくさんつくったんですが、どれも満足できなかったんです。作品に合わない感じがして。しっくりこなかったので、最終的にもっと直接的なダンストラックをつくることにしたんです。

──〈荒削り〉という言葉はふさわしくない?

僕にとっては柔らかく優しいサウンドです。繊細さ、透明さ、開放を表す音です。聴くと不安になる、という感想はほぼありませんでした。

──もちろんです。ひと言で言い表せる作品ではありません。「Feel The Night」はとても柔らかく開放的です。「Rebuilding The Future」の楽観的な雰囲気はとてもヴォルフガングらしく、ナイーブともいえるかもしれません。

〈ナイーブ〉は良い表現ですね。「Doucement」ではヴォルフガングはひたすら「アイ・ラブ・ユー」と繰り返しています。この美しくシンプルでイノセントなメッセージを音楽にも反映したかった。ナイーブ、柔らか、開放的…。僕が好きな言葉です。

──EPのなかでもいちばんストレートな「Feel The Night」について、もう少し詳しく教えてください。

僕らがつくったなかで、いちばん最初に満足できたトラックです。やっと自分たちの期待を超える曲がつくれた、と。

──シンセのメロディが美しいですね。キラリと光るものがあるというか。

まるでコードが歌声を運んでるみたいですよね。これはあっという間に完成しました。何人かに音源を送ったらみんな気に入ってくれて。この曲は僕らふたりが楽曲制作を続けていく原動力になりました。

──このEPは既存のどんな作品にも似ていません。だからこそ、とても興味深い。自らのために、自らのうちに存在する。そんな作品です。

たしかに、何に例えたらいいのか僕も思いつきません。でも僕らがつくる音楽はすべて、頭のなかにある既存の何かの寄せ集めです。去年僕は、エレクトロ・アコースティックしか聴きませんでした。ダンスミュージックは今でも大好きだけど、しばらく聴いてなかった。今のダンスミュージックのカルチャーに興味がなくて。面白いモノがないとか、そういうことではなく、クラブに入り浸ってると自分の作曲プロセスに良くない影響を与える、と気づいたんです。フロアが盛り上がるかどうかという基準だけで判断するようになってしまって。そういったことが、今回のコラボレーションにも影響しています。

──今回のコラボレーションを経て、これからあなたがつくる音楽は変わるでしょうか?

他の物事に目を向けるきっかけにはなったけど、だからといって、この先ずっと同じような作品をつくり続けるわけじゃない。今つくってるモノは、まだ言葉では説明できないんですが…。もし今回のEPを難解だと感じるなら、次に僕がやろうとしてることは全くわけがわからないと思います。

──今回のEPを聴いたリスナーからはどんな反応が返ってくると思いますか?

最近結婚したんですが、妻に教えられたことのひとつが「期待はするな、自分でコントロールできないことを気に病むな」 です。この世界には、僕らの集中を妨げる物事がごまんとある。僕は創作に愛とエネルギーを注ぎ込み、何かをアウトプットし、形にできればいい。それだけで充分です。

This article originally appeared on i-D UK.