BLACK LIGHTS:山本耀司と蜷川実花

色彩豊かな作品で知られる写真家・蜷川実花が映したYOHJI YAMAMOTO 2017-18年秋冬パリコレクションは、その山本耀司の世界をモノクロで捉えるという一点において挑戦的で、その臨場感を言葉なくして語る威風凛然としたルポルタージュのようだった。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Raihei Okada
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27 September 2017, 12:41pm

どういった経緯で蜷川さんにオファーしたのでしょうか?

山本耀司(以下、Y):それが説明できないんです。彼女の写真はしょっちゅう見ていたけれど、今年1月のメンズコレクションに秋元梢さんと一緒に来場してくださって初めてお会いしました。それで、今回の撮影のことは、その瞬間に決まってしまった(笑)

蜷川実花(以下、M):そうですね。私には、とてもドラマチックで。父(演出家の故・蜷川幸雄)が亡くなってから、クローゼットにあった服をいっぱいもらったんです。そしたら耀司さんの服ばかり! そのショーに伺ったときにも父の特別な想いが宿っている服を着て、実際に耀司さんとお会いすることができて。そしたらふわぁっと……(笑)

Y:多くの言葉を交わすことなく、ふわぁっと、浮上するように今回のことが決まったね。

シルバーのアクセサリーを見せながら

M:耀司さん。このアクセサリー覚えていますか?

Y:ああ、覚えていますよ。

M:実はこれ、私の誕生日に父が買ってきてくれたんです。

Y:そうなんだ!

M:この話をするのは初めてなんですけど、これは長い間私が一番大切にしているもの。「天使のような顔して、気にくわないものは全部ぶち壊せ!」「お前はそんな人生を歩めよ」という言葉と一緒に、割と大人になってから授かったネックレスで、大事な日には必ず身につけているものなんです。その意味合いと存在が、私にとって大事なことだから。

Y:お父さんが言った通りにやっている(笑)

M:「その通りにやっているね」って、みんなに言われます(笑)。耀司さんに対する想いというのは、父から引き継いだものでもあるんです。上手く言葉にできないけどスペシャルで……

Y:大袈裟に言うと、親戚の感覚なんですよ。蜷川幸雄さんとは心のコミュニケーションをさせていただいていた。そのお嬢さんなので、親戚の娘のようなもの(笑)

蜷川さん、パリコレに密着された率直なご感想をお聞かせください。

M:もの凄く面白かったです。そして、この上なく幸せな体験でした。コレクションの本番は私が言うまでもないですが、その裏側には高揚感や緊張感があって、とにかくエネルギーに満ち溢れているんですね。それを写真で捉えよう、と。私はコレクション前日のモデル・オーディションをされている時から入らせてもらって、本番までのすべての過程をともに体験できて……

Y:あっという間で、濃密だったでしょう?

M:本当にあっという間でした。

Y:僕ね、いわゆるリハーサルをやらないんですよ。パリに着いた翌日、まずは朝10時半からモデルのキャスティング(オーディション)をする。色々なタイプのモデルに、私服で、2〜3人ずつ歩いてもらってその場で即決していく。その時点から実花さんがずっと撮ってくれていた。僕は次の日に向かって集中しているから、当然カメラを意識していないし、実花さんがどこにいるのかも知らない。だから、ああ、こんな写真を撮っていたんだと後で見せてもらう楽しさがあったね。

近年では絵画展「画と機」の開催やコレクション・ミュージックをご自身で手がけられたり、多岐にわたる創作活動が見受けられますが、枯渇することのない創造の原動力とは何でしょうか?

Y:つまり、馬鹿なんじゃないかな?(笑)。まあ、何かしていないと死にたくなっちゃうんだ。僕は昭和18年に生まれ落ちて、人間だとか大人とかいう存在に気づいた瞬間から、いわゆる"社会"と対面したくない、大きくなっても絶対に"こういうやつら"の中に入りたくないと、ガキの頃、4〜5歳からそういう思いがあったので。こんなところで話すことではないんですけど、戦争で夫を失ったうちの母はが苦労しているのを見て、当時、父が帰ってこない理由を子どもながらに色々と調べたんですね。徴兵されたのは昭和19年の話です。その年は、もう敗戦が決まっていたでしょう? そんな時でもまだ36歳の男を兵隊にして連れていくという当時の日本軍。そこからずっと大人に腹が立っているから、要するに、捻くれているんですよ、ガキの頃からね。

怒りが胸に?

Y:そうですね。苦労して、運良く既製服が売れるようになり今があるけれど、もしそうでなければ、もしかすると何か罪を犯してしまっていたかもしれないと思います(笑)。誤解してほしくないけど、要は、ちがう"気晴らし"をしていただろうからね。

i-D Japanの読者をはじめとして、若者たちに向けてメッセージをいただけますか?

M:やはり、身の丈を知ることばかりせずに、もっと無理してもいいのにと思っていて。何事も大変だから面白い、苦しさの果てにあるものがあるし、実際に私もそういうことばかりしてきた。その末に、今回のように大先輩とご一緒できたのだと思っています。だって今の話もそうですけど、 "神様の言葉"のようなことを受け取れるわけじゃないですか(笑)。だから若い人たちは皆、もっと自分自身に対して焦るべきだし、私は今でもそうだから常にオーバーワークで走り続けているのです。

Y:オーバーワーク、いいなあ。……すごく難しいですね、この話は。日本という国が今どうなっているか、というところから始めなくてはいけないでしょ? 結局、ある時期の経済成長にうかれて、子どもへの躾、家庭教育を怠ったと言えるのでしょう。僕が大好きで読むようにしている、伊集院静さんの「悩むが花」という『週刊文春』の人生相談コーナーがあるのですが、彼に言わせると「18歳になったら人間は大人」だと。それで大人がすべきことをしょっちゅう返答として書いている。ところが、まさに実花さんが言った理由で、彼が言うところの「大人」に今の若い子はなりきれていない。要するに "spoiled(甘ったれ)"。日本の現状では自分で何の努力をしなくても食べていける環境もあるところにはありますから。僕が印象的だったのは昨年、「保育園落ちた、日本死ね」って書いた人がいたじゃないですか。あんなような若い人の怒りが、もっと日本に広がってこないといけない。そういう意味で、精神的にハングリーでないと。では、蜷川さんを脅かすような写真家が出てきているか、あるいは僕を脅かすような若手のデザイナーが出てきているかというと、あんまりいないよね(笑)

M:ふふふ(笑)

Y:ただ、東ヨーロッパのある地域にはいますよ。やっぱりね、若者はハングリーで貪欲じゃないといけない。かと思うと、日本は今、乳幼児の5、6人に1人は貧しいという国。それを何とかしたいと思うけど、一軒一軒の家庭の事情が違うから手の打ちようがない。それでも何とかしようということを、友人の松岡正剛さんと話しているんだ。もっとやりたいことがあるんです、実は。松岡さんが僕の絵画展のカタログに書いてくれた原稿の、後半のくだりの最初の一文。「今の日本はクソだ」って。だったらクソじゃなくしなきゃ、ねと。そういう一緒にやろうぜっていう仲間が、僕より若い世代でいえば、今回空間を創ってくれた谷川じゅんじさん。僕たちの次に、彼や、彼の世代が日本を何とかしてくれないと、と思っていますから。

Yohji Yamamoto × Mika Ninagawa: BLACK LIGHTS
日時:9月9日(土)〜10月10日(火) 11:00〜20:00
場所:ヨウジヤマモト青山本店
住所:港区南青山 5-3-6

Exhibited All Photography by Mika Ninagawa, 2017
©2017 mika ninagawa. All rights reserved.

YOHJI YAMAMOTO (FEMME) 2018 年春夏パリコレクションを
パリ現地時間 2017 年 9 月 29 日(金)20:30 よりライブ配信

ファッションウィーク真っ只中のパリ。9月29日(金)に発表が差し迫っているYOHJI YAMAMOTO(FEMME)2018 年 春夏コレクションのショー模様がライブ配信される。パリ・セーヌ河岸にある Les Docks - Cité de la Mode et du Design(レ・ドックス - シテ・ドゥ・ラ・モード・エ・デュ・デザイン)の会場より、リアルタイムで「YOHJI YAMAMOTO」Official Website からの配信をお見逃しなく。

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