『ツイン・ピークス』のサウンドトラックを作った男

これを夢の仕事と呼ばずしてなんと呼ぼう?

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01 November 2017, 12:59pm

自分の仕事が『ツイン・ピークス』の音楽づくりだったらと想像してみてほしい。デヴィッド・リンチのために曲を集めて、音楽を作り、報酬を得られる仕事を。『ツイン・ピークス』の劇伴を任せられているディーン・ハーレイは、リンチと長年にわたり協働を続けている。彼は、リンチがロサンゼルスに持つ<Asymmetrical Studios>(映画『ロスト・ハイウェイ』にも登場するあの家)を運営しており、『ツイン・ピークス』の劇伴と音楽監修を任されている。さらに、『The Air Is on Fire』(2007)、『The Train』(2011)、『Crazy Clown Time』(2011)『The Big Dream』(2013)など、リンチがこれまでに制作してきたアルバムを共作し、プロデュースも手がけるほか、リッキー・リーやダーティ・ビーチズといったアーティストたちのプロデュースも行ってきた。今回『ツイン・ピークス The Return』制作にあたり、彼は劇中のバー<Twin Peaks Roadhouse>で演奏するバンド選びを手伝い、エピソード5ではリンチの実子ライリーと架空のバンドを結成し、そこでドラムを担当している。

『ツイン・ピークス The Return』のためにハーレイが制作したサウンド・デザインを集めた『Anthology Resource Vol. 1: △△』がリリースされたが、それに続いて、同番組関連のアルバム2枚が発売された。『Twin Peaks (Music From the Limited Event Series)』は、劇中の<Twin Peaks Roadhouse>で演奏をするバンドの音源を集めたコンピレーションアルバム。もう1枚の『Twin Peaks (Limited Event Series Soundtrack)』は、グラミー賞を受賞したオリジナル版『ツイン・ピークス』サントラを生み出したアンジェロ・バダラメンティの音楽を主に収録したアルバムだ。

オリジナルのサントラが生まれた経緯をご存知だろうか? リンチは、バダラメンティに「アンジェロ、風のような存在感のサウンドにしてくれ」と指示した。そして完成した「Laura Palmer's Theme」を聴いたときには「なにひとつ変えるな」と命じたそうだ。悲しみが揺らめくようなその音を聴いたリンチは、「ツイン・ピークスが見える」と涙を流した。オリジナル版のサントラはリンチが撮影を始める前に作られたものなのだ。聴くものを『ツイン・ピークス』の世界に引き込んでしまうジャジーな音楽は、ロマンスと暴力の曖昧な境界線を行き来し、ノスタルジアと説明のつかない悲しみを感じさせる。このサントラは、ポップ・ミュージックに大きく影響を与えた。これまでに、スカイ・フェレイラやバスティル、モービーらが『ツイン・ピークス』のサントラをサンプリングやカバーし、音の世界観の参考にしたと公言している。。Xiu Xiuもまた、2016年に『ツイン・ピークス』をカバーしたアルバム『Xiu Xiu Plays The Music of Twin Peaks』をリリースしている。バダラメンティの『ツイン・ピークス』サントラは、いつの時代も煌々と輝くひとつの指標であり続けているのだ。

バダラメンティのアイコニックな音楽や<Twin Peaks Roadhouse>で演奏するバンド選び、そしてデヴィッド・リンチに新しい音楽を紹介することについて、ディーン・ハーレイに訊いた。

—デヴィッド・リンチとアンジェロ・バダラメンティが協働していた頃について、ご存知のことがあれば教えてください。
かなり初期から何年もアンジェロはニューヨークのダウンタウンに曲作り用の部屋を持っていて、彼らはよくそこで音楽づくりをしていた。そうして生まれたのが『Floating Into The Night』やオリジナル版の『Twin Peaks Soundtrack』。エンジニアのアート・ポリーマス(Art Polhemus)が持っていた<Excalibur Studio(このドキュメンタリーにも登場する)>によく行っていたそうだよ。そのスタジオは、タイムズスクエア周辺にあったんだ。デヴィッドはそこを「東欧の雰囲気——一時的な目的のために作られたような、無骨な空間」と言ってとても気に入っていたよ。当時はおしゃれなスタジオがなかった。だから、二人にとってあのスタジオが心地よかったんじゃないかな。

—そんな80年代からどう変化しましたか?
僕がデヴィッドと仕事をし始めた頃、彼はことあるごとに「もしアンジェロがニュージャージーに住んでいなかったら、彼と毎日仕事をしてただろうね」と言っていた。彼はロサンゼルスに暮らしていて、アンジェロはニュージャージーへと引っ越していたんだ。いつだったか、アンジェロのアシスタントのジム・ブルーニング(Jim Bruening)と話していて複数の地域をつないでセッションを可能にする「Source-Connect」というソフトの話になった。「ほぼリアルタイムで、世界のどこのスタジオで演奏した音でも、完全な解像度の音質で聴けるようになる」と。そのソフトがあれば、まるでアンジェロがデヴィッドのスタジオで演奏しているかのような環境が作れるわけだ。そして、今でいうFaceTimeのようなアプリを使って、お互いの顔を見ながら会話もできるから、デヴィッドはアンジェロにその場で指示を出すこともできる。かつてふたりがニューヨークでやっていたことが、離れていてもできるようになった。デヴィッドは最新テクノロジーが大好きだから、この方法に飛びついたよ。最先端技術を利用できるのは楽しかったし、彼とアンジェロが、以前のように制作に取り組むことができるのが嬉しかった。『ツイン・ピークス』のアイデアが生まれる以前にも、デヴィッドはすでにこの技術とやり方を完全に理解していて、僕に向かって「インターネットを使ってアンジェロと音楽づくりをしたい」と言ったんだ。

—バダラメンティによる『ツイン・ピークス』サントラをアイコニックにしている要素は、いったい何なのでしょうか?
アンジェロの音楽性だと思う。彼が作り出す掛留音・サスペンションは、誰にも真似できない。彼の音楽的言語とその言語が作り出す世界観——サスペンションを最大限に利用して、聴いた人の感情を掻き立てるんだ。ふたつのコードがせめぎあって、そこに新しいコードが生まれる。そうしてできあがったコードは和音であり、不協和音でもある。ロマンと暴力の共存に惹かれてしまうように、このサウンドに引き込まれるんだ。不協和音は、調和に干渉する暴力的要素、和音は複数の音がロッマチックに共存するものでしょう?

—デヴィッドとバダラメンティの才能が集結すると、どんな魔法が生まれるのでしょうか?
アンジェロがさっき話したような音楽を作り、デヴィッドが彼をさらにプッシュするというのが、二人のやり方。デヴィッドははいろんな感情を持っているけれど、それを「悲しい」とか「暴力的」なんていう次元で表現したくはないんだ。観るものが胸を切り裂かれるような、完全に動揺してしまうようなものを作りたいんだ。過激な表現のなかに、独自性を生みたい人なんだよ。

—シーズン3の『ツイン・ピークス The Return』は、前作までの『ツイン・ピークス』にはなかった「静寂」を使って独自のムードを作り出しているように感じます。
それがデヴィッドなんだ。彼は、映画でもドラマでも作りながら「これが正しい」とよく言うんだ。これは彼の制作プロセスがいかに抽象的で無形のものかを物語っていると思う。音楽に溢れた映像が正しく感じるときもあれば、山と谷のように音楽と静寂のコントラストが生まれることで正しいと感じるときもあるんだろうね。

—劇中に登場するバー<Twin Peaks Roadhouse>で演奏をするバンドのチョイスは物議をかもしていますが、アプローチして断られたバンドやアーティストもいたのでしょうか?
断られはしなかったけど、単に参加できなかったアーティストたちはいたね。デヴィッドが何度もアプローチしたけど、スケジュールが合わなかったとかね。彼の撮影手法だと、アーティストを事前にブッキングするのが難しいんだ。あるバンド(僕の大ファンのバンド!)に「ぜひRoadhouseに」って交渉を続けたんだけれど「1〜2ヶ月中には時間ができる。それまで撮影しているなら是非」と——そういうのが通らないのがデヴィッドの現場なんだ。

—デヴィッド・リンチに新しい音楽を紹介するのが仕事だなんて最高ですね!
僕が新しい音楽を紹介することが多いけど、彼も「聴いてみてくれ」と、僕が知らないバンドの音楽を聴かせてくれたりもするんだ。新しい才能を見つけると、デヴィッドは夢中になる。彼の音楽の趣味は実に幅広いよ。僕が一方的に紹介するんじゃなくて、デヴィッドはYouTubeやなんかで色んなライブを積極的にチェックしているんだよ。

—『ツイン・ピークス The Return』で知ったザ・カクタス・ブロッサムズに夢中です。
彼らには驚いたね。ああいうエネルギーを持ったアーティストを探していたんだ。「聞いたことのないバンドだな。いったい何者なんだ?」って思った。大興奮でデヴィッドに教えたよ。「どんなアーティストを見つけたんだ?」と訊くデヴィッドに「エヴァリー・ブラザーズがRoadhouseで演奏してくれると言ったら、起用する?」と彼らを褒めちぎった。すると興味をもった彼は嬉しそうな様子で「そんなの不可能だろう」って言ってた。最高に楽しい瞬間だったね。