魅惑的なゾーイ・ブルーの世界

アーティスト、女優、デザイナー……様々な才能と、魅惑的な美しさをも併せ持ったゾーイ・ブルー・サイデルに、あなたもきっと魅了される。

by Tish Weinstock
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20 May 2016, 7:40am

「ファンタジーの世界に生きていたいの。そのほうが断然いい」とゾーイ・ブルー・サイデル(Zoe Bleu Sidel)は話す。1994年10月23日にこちらの世界に生まれて以来、ゾーイはこの世に順応できずにきたという。女優ロザンナ・アークエットを母親に持ち、レストランオーナーのジョン・サイデルを父親に持つ彼女だが、5歳の時に両親は離婚。以来、母ロザンナと共にロサンゼルスに暮し、アーティストや哲学者が多く集ったことで60年代に有名になったスピリチュアルの聖地、ビッグサーのエサレン研究所(Esalen Institute)に通った。俳優一家アークエット家の一員(叔母は、アカデミー賞女優のパトリシア・アークエット)であるゾーイには、名優の血が脈々と流れている。「家族はいつも、演劇のテクニックを使った遊びをしていたの。時々、子供の私もそのゲームに入れられたわ」と彼女は当時を思い出しながら話す。「ママと色んなキャラクターを演じて遊んだわ。色んな時代や人物を演じてね」

15歳のとき、彼女は、周りで起こったことに直感的に反応する演劇法、マイズナーテクニック(Meisner Technique)を学び始めた。「自分を脱ぎ捨てて、自分の最もみっともない部分をさらけ出さなきゃならないの」とゾーイは説明する。自分自身でいることに違和感を覚えていたゾーイは、この"自分を脱ぐ"という概念に深く共鳴した。「自分の身体が嫌いで、周りの女の子たちと違う自分がイヤで仕方なかった。背も低くくて、小太りだったし。『もっと脚が長くなってくれれば』って考えたりもした」。この彼女自身とイメージとの乖離が、初となる女優の仕事を彼女に運んでくることとなった。それが、ジア・コッポラの監督デビュー作『パロアルト・ストーリー』(2013)でのジャック・キルマーとの共演オファーだった。それ以前にもソフィア・コッポラの『ブリングリング』(2013)に少しだけ出演していたゾーイだったが、『パロアルト・ストーリー』はそれとは少し違っていたのだと言う。「抵抗があったの」と考えながら彼女は話す。「スクリーンにさらされて、自分がどう見えるかをコントロールできないということが怖かった。そんなこと、あの時の私にはできなかった」。ゾーイはオファーを断り、学業に専念した。

やがてゾーイは、大好きだったファッションを通して、ようやく自らのイメージとうまく付き合うことができるようになった。「自分自身に居心地の悪さを感じていたからこそ、服を着て良い気分になりたかったのよね」。ベルベットのリボンにヴィンテージのスリップ、エドワード朝のレースとアイボリーのヴェール、そして年中付けているクリスマスジュエリーなど、彼女のスタイルは夢のような世界観を放っている。「みんな、『なになに? 近くでルネッサンスフェアでもやってるの? どこどこ?』って言ってくるのよ。私は綺麗なものを着るのが好きなの。綺麗なものを着ていると、自分までが美しくなったように思えるから」。バラの蕾のような唇にマホガニーの髪、そして雪のように白い肌を持つ彼女は、移ろいゆく流行を気にも留めない浮世離れした人形のように美しい。「祭壇に取り残された花嫁みたいでしょう?」と彼女は笑う。「『大いなる遺産』に出てくるミス・ハヴィシャムみたいで。髪にも心にも蜘蛛が巣を張ってるの」

ゾーイは、ファンタジックな服を集めているだけではない。親友でアーティストのアリエール・チアラ(Arielle Chiara)とダリウス・コンサリー(Darius Khonsary)と立ち上げたファッション集団「Nautae」の活動の一部として、服も作っているのだ。「最初はふざけて遊んでいただけだったの」とゾーイは説明する。「シープスキンのラグを切って、付け毛と混ぜてみたり、1920年代のスリップにラテックスの樹脂をペイントしてみたりしてね。でも、それを実際にしっかり作りたくなったの」。ランウェイを使った従来のコレクション発表のあり方にうんざりしていた彼女たちは、自らシナリオを書いた演劇を通しての作品発表を思いついた。「これは、私たちが見た夢をベースにして書かれたものなの」とゾーイはショーについて説明する。40通りのルックスが登場するこの演劇は今年9月にニューヨークで公開されるという。出演者は、様々なジャンルから、普通とは違った基準で選ばれるようだ。「"長身でスリム"にはもう飽きあきしてる。みんなもそうだと思う。私はリアルな人間が見たいのよ。ただ容姿だけを買われてそこにいるんじゃなく、個性のあるリアルな人間をね」。また、SHOWStudioのニック・ナイトと共に、Nautaeのコレクションを発展させたビデオも制作する予定だ、と彼女は話す。昨年、ニックがInstagramを通してゾーイにコンタクトを取ったことからこのプロジェクトは始まったのだそうだ。

髪やラテックス、スリップを使ってファッションを楽しみ、ハープを奏でる姿を夢みているだけが彼女ではない。ゾーイは昨年1年間を、セックス人身売買根絶運動家のルチーラ・グプタ(Ruchira Gupta)率いる「Apne Aap Women Worldwide」との取り組みに費やしている。Apne Aap Women Worldwideは、インドで横行する性的奴隷問題の被害者を助ける団体だ。この問題に対し、ゾーイは親近感をもって向き合っている。「私は子供のころ、家庭内でレイプされた経験がある。誰にも言わずにいたけど、その記憶で私はズタズタになったし、内側から壊された気分だった。でも、ようやくそれを話せるようになって、助けを得ることもできた」と彼女は話す。「レイプの被害者になるということは、そこに恥の観念がついてくる。私は、犠牲者の女性たちが立ち直れるよう手助けがしたいの。私自身、まだ完全に立ち直っているわけじゃないけどね」。昨年、レイプ被害の経験を初めてカミングアウトしたゾーイには、多くの反応が寄せられた。「私のインタビューを読んで自信を得て、レイプ被害について両親に話すことができたっていう子が何人もいたわ。私と同じような体験をした女性が、被害を口にするだけの強さを見つけるのを、なんとか手助けできたらと思うの。1番大事なのは、その事実を受け止めて話すこと。今でも、レイプ被害をなかったことにしている女性は多いと思う」。昨年はトランスジェンダーの女性たちとも多くの時間を過ごしたという。トランスジェンダーは彼女にとって、身近なテーマでもある。叔母のアレクシス(Alexis Arquette)が性転換手術を受け、性適合していく過程をじかに見てきたからだ。「トランスジェンダーの人たちには頭が上がらないわ」とゾーイは興奮ぎみに話す。「みんな、自信に溢れていて、その辺の女性なんかよりよっぽど美しいと思うわ。くだらない連中の戯言や嫌悪、敵意と常に戦っているの、あの人たちは。彼女たちのおかげでどれだけ良い変化が生まれたか。そんな勇敢な人たちと出会えて、とてもありがたく思っているわ」

ゾーイの今後の活躍にも目を離せない。ジェイムズ・フランコの出演も決まっている、18世紀初頭の精神病院を舞台にした映画『The Institute』と、レズビアンの吸血鬼を描いた『Mother, May I Sleep With Danger』両作での主演にも抜擢されている。ゾーイは名声に興味などあるのだろうか? 「名声って変なもので」言葉を慎重に選んで続ける。「注目を集めている立場をどう活かすかが問題なの。有名人としての立場をうまく使って、社会や政治、地球環境にまつわる問題を提起していく人たちを、心から尊敬しているわ。どう使うかが大事なの」。いま世界の注目を浴びているゾーイ、彼女の未来はきっと明るいに違いない。

Credits


Text Tish Weinstock
Photography Daria Kobayashi Ritch 
Zoë wears dress Rick Owens. Jewellery model's own.
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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