luxury is in the detail:ラグジュアリーは細部に宿る

クリス・ヴァン・アッシュが考える極上のラグジュアリーは、彼の家から始まる。彼にとって最もパーソナルなこの空間を赤裸々に語ってくれた。

by Anders Christian Madsen
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23 June 2016, 1:44am

いつの時代もDiorは、私たちに贅沢のなんたるかを示してきた。クリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)は、ランウェイを白いバラで覆ったかと思えば、別のコレクションでは会場の天井から巨大なシャンデリアを吊るす。Diorはどこまでもラグジュリアスなのだ。パリにあるDiorのアトリエは全て、一等地であるモンテニュー大通り周辺に位置する。カーダシアン/ジェナー家がランチをし、ロシアの大富豪の婚約者たちがウェディングドレスのフィッティングをするのもこの通りだ。

そんなDior Hommeのクリエイティブ ディレクターであるクリス・ヴァン・アッシュにパリで1番ラグジュリアスな場所でインタビューしたいと言ったら、自分の家を提案してきた。「スパかなんかにしてとは言わないよ」と彼は言う。アパートメントは、品があって住みやすい17区で、エトワール凱旋門からもさほど遠くない場所にある。彼にとって、どこよりも安らぎを与えるプライベートな空間だ。17区に住むつもりはなかったという彼だが、パリには珍しいアーチ型のドアから広がるテラスを見て、その部屋に決めたという。「それに、ここならオフィスまで5分で行ける。まさに天国だよ」とクリス・ヴァン・アッシュは話す。

ファッション業界は今、混乱の中にある。ラグジュアリーブランドのVETEMENTSやBurberryが、コレクションで発表をした服を待たずにすぐ買えるシステムを発案し、Diorのウィメンズデザイナーを務めていたラフ・シモンズは退任の理由のひとつとして、「やることは山のようにあるのに、時間が少なすぎる」とコメントを残している。ラグジュアリーの概念が変わりつつある今だが、クリス・ヴァン・アッシュにとってラグジュアリーは常に必須なものだった。「もし、ラグジュアリーが安心できる平穏なところだとしたら、いま居るこの場所はとても快適で、まさにラグジュアリーだよ。僕はここで充実した生活を送っているんだ」と話す。

現在、クリス・ヴァン・アッシュは彼氏と2匹の猫と暮らしている。猫の名前は、フリーダとディエゴ(フリーダ・カーロとディエゴ・リヴェラが名前の由来だ)。インタビュアーがピエール・ジャンヌレの高級家具の上でメモを取っていると、猫たちは代わりがわりに登ってくる。彼は50年代のミニマリズムに夢中で、家具ほとんどがフランス製で、デンマーク製は好みでないようだ。「今のファッション界におけるラグジュアリーが何かって? いい質問だね。最近は本質的な価値よりもヴィジュアル重視になってきてしまっているような気がする。ベタに聞こえるかもしれないけれど、時間と自由こそがラグジュアリーだと思うよ」。両立させるのが難しい要素ではないかと言うと、「クリエイティビティの面では創造する自由があってすごく楽しいよ。仕事が本当に好きなんだ。時間的な面でも苦しんではいない。フルタイムで仕事量は多いけど、辛くはない。週末なんかは楽しく過ごしているし、いい毎日を送っているよ」と彼は応えた。

Dior Hommeのクリエイティブ ディレクターに就任してから今年で10年になる彼は、現在39歳。ラグジュアリー界を牽引する立場にまでキャリアを積み、その実績とともに彼の住む家もステップアップしていった。

パリに移住したのは、18歳の時。業界で実績を残すまで、屋根裏部屋のような、市内のスタジオフラットを転々としていた。彼は当時のフラットを思い出しながら、「居心地はそこまで悪くなかったけど、石の床で、狭くて冷たい空間だった。生活が少しずつ潤うようになり、思い描いていたフランスっぽいものになっていった。今の家にはすごく満足してるし、長居したいと思っているよ」と語る。彼が初めて購入した高価なものは、2つの体が包帯でぐるぐる巻きにされていたロバート・メイプルソープの写真だったという。それらは今でも壁の1番見えやすい場所に飾られている。写真とデザイン本が多く並ぶ本棚沿いには、写真家のウィリー・ヴァンデルペールがDior Hommeの2016年春夏の広告用に撮影した、ベルギーのアーティスト、リナス・ファンデ・ヴェルデの黒い絵が2つ飾ってある。「これは木炭で描かれている。絵をガラス張りのフレームに入れたんだ。本当はそのまま飾りたかったんだけど、こうしないと猫たちがめちゃくちゃにしちゃうからね」

彼は毎日、一定のサイクルを保って生活している。11時か12時に起きて、トーストかシリアルを食べる。そして新聞を読み、テラスのドアから外を眺める。Dior Hommeでの彼は、ストイックで綺麗好きとして知られている。「日課っていうものが好きなんだ。順序に沿うこともね。でもこの順序を壊したいと思えるほどの人やモノはとても貴重」と、彼が言うと、猫たちが入ってきた。「セラミックの食器や陶器を集めることと猫を飼うことほど非合理的なものはないよ」と笑いながら一瞬、コーヒーテーブルの上にあるクリスティン・マッカーディの壺に目配せする。「彼氏に『自分はごく普通の人間だと思う』って言うと彼はいつも『信じて、絶対に違うから』って言い張るんだ」。おそらく彼は、近代的なものにラグジュアリーを感じていないが、クラシカルで古典的なものが大好きなようだ。「土曜はテラスで本を読むか、ギャラリーに行くか、家でゆっくりと過ごしているよ。大して面白い答えじゃなくて、ごめんね」と、淡々と日々を語る一方、「読むに値する記事や、本当に美しいファッションストーリーを載せている雑誌は、もうほとんどなくなってしまっている。スピードやリズムがこれ以上加速する必要なんて全くないよ。大切なのは質。もっと深く掘りさげていく必要があるんだ。だから、僕たちは、1歩引くべきなんだと思う。ハイファッションとは、ハイストリートファッションのようにスピード性があるべきものではないんだ。生産するのがより難しくて、もっと複雑なんだ」とモードの現状を語る。ラグジュアリーを創造する彼らを責めるべきではないのかもしれない。「とりあえず、僕が言えることは、家がもし家事になってしまったら、まず先に救出するのは猫たちだけどね」

Credits


Photography Willy Vanderperre 
Styling Mauricio Nardi 
Text Anders Christian Madsen
Hair Anthony Turner at Art Partner
Make-up Lynsey Alexander at Streeters using Estée Lauder Make-up
Models Nathan Dionisio, Koen Verdumen at Success, Etienne Martinet at 16MEN. Dylan Roques, Paulius Meskaukas, Otto Vainaste, Trè Samuels at Bananas
All Clothing Dior Homme 
Translation Aya Tsuchii

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