グレース・コディントンの伝記を一足先に覗いてみよう

伝説のファッションエディター、グレース・コディントンの作品をまとめた『Grace: The American Vogue Years』。『The New Yorker』誌や『Vanity Fair』誌でファッションディレクターを務めたマイケル・ロバートが『Grace』に寄せたエッセイからの抜粋を交え、グレースにしか描き出せなかった世界観に迫る。

by i-D Staff
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12 September 2016, 4:57am

Photograph: Fabien Baron. Courtesy The Condé Nast Publications. 

グレース・コディントン(Grace Coddington)の作品を集めた本としては2冊目となる『Grace: The American Vogue Years』には、彼女がアメリカ版『Vogue』のクエイリティブ・ディレクターに就任して作り出したエディトリアルに加え、雑誌での掲載には至らなかったページなどが多く収録されている。

この本は、様々な意味で素晴らしい。現代は根っからのロマンチストにとって世知辛い時代だ。ファッション誌の特集記事は、夢想家たちの特権でもなんでもなくなっている。グレースが出した最初の本は、ロマンチストや夢想家たちが夢見るファッションの世界が雑誌のなかに存在していた時代、そしてファッションが織り成す物語や、美しい服によって紡ぎ出されるコーディネイト、そしてそれを和らげる広大な風景の開放感に捧げられた1冊だった。

2冊目となる『Grace: The American Vogue Years』は、前作同様に美しく力強い内容だが、技術の進化によって可能となった技巧的な表現により一層目を向けた作品となっている。収められている作品がどれも素晴らしいのは言うまでもない。しかし、そこには素晴らしいの一言では片付けられない、気骨と都会性、そしてクールな怒りとでもいうべきものが感じられる。「ファッションを人生になぞらえている」とグレース自身は話す。グレースは依然として何を偶然に委ねることもなく、全ての章にこだわった。「何事も早くなんて済ませられないのよ。衝動的に動くことはあっても、ちゃんと考える時間は必要」だからだ。グレースは『Vogue』のアート部門で、自らが手がけてきたページすべてに目を通し、印刷屋へ発送するまでは文字どおり作品に覆いかぶさるように立ちふさがっていた。

Jamie Hawkesworth. Caroline Trentini in Louis Vuitton; hair, Didier Malige; makeup, Hannah Murray; set design, Piers Hanmer; New York, December 2015. Courtesy The Condé Nast Publications (pages 346-7) 

ファッション写真を作り出す人気スタイリストたちには、それぞれの世界観がある。ハード、セクシー、ミニマリズム、細いけれど健康的なスタイル——どんな世界観であっても、グレースが手掛けたファッションページには、写真の永遠のなかに捉えられたイノセンスや赤毛の女性などのモチーフも手伝って、どうしても詩的な奥行きが生まれてしまう。モデルたちは幻想的な場所を、その環境には似つかわしくない、しかし不適切とも見えない服で歩かされる。他のモデルたちは、グレースが子供時代を過ごしたアングルシー島を彷彿とさせる霧深く陰湿な風景のなかにメイクもヘアブラシもなしに取り残される。グレースのページでは、キャリアを始めたばかりの彼女の生活を反映するように乳児が登場したりと、家族もまた大きな役割を担う。そして、30年も前に合理性の国アメリカに拠点を移したにもかかわらず、コディントンというファッションの語彙に繊細に縫いこまれたヨーロッパの寓話的世界とイギリス的な斬新性が滲み出る。

今日、グレースが築き上げた上品なアメリカンスタイルは『Vogue』誌にとって普遍のスタイルとなっている。結婚生活に問題を抱える郊外の夫婦を50年代スタイルでまとめてダグラス・サークの映画のように表現するにしろ、鼻っぱしの強い田舎のカウボーイとその恋人を納屋で捉えるにしろ、その裏に描いた物語がどんなものであれ、コディントンの焦点はそこに写された洋服にある。「洋服を見せていなければ、それはファッションフォトではない」と、グレースは力強く言う。あるデザイナーはこう言っていた。「グレースはどんなコレクションでも、そのなかからキーとなるアイテムを選びます。目立ってキーとなりそうなものでもなく、もっとも人気が高いものでもない。でもコレクション全体を象徴するもの、もっとも印象に残ったものを選ぶのです。その能力が、グレースを偉大なエディターたらしめているのだと思います」

Tim Walker. Kate Moss in Givenchy Haute Couture; hair, Julien d'Ys; makeup, Stéphane Marais; set design, Andy Hillman; Paris, April 2012 (page 334)

Mert Alas & Marcus Piggott. Kendall Jenner in Louis Vuitton and cast of wonder.land (costumes designed by Katrina Lindsay); hair, Shay Ashual; makeup, Lisa Eldridge; set design, Andrew Tomlinson; London, December 2015. Courtesy The Condé Nast Publications (pages 246-7) 

Arthur Elgort. Liya Kebede in Donna Karan Collection and André 3000; hair, Recine; makeup, Aaron de Mey; styling for André 3000, Anthony Franco and Shawn Barton; set design, Mary Howard; New York, January 2005 (page 208)

Arthur Elgort. Karen Elson in Dolce & Gabbana and male model in Marc Jacobs and Louis Vuitton; hair, Didier Malige; makeup, Gucci Westman; set design, Mary Howard; New York, November 2003. Courtesy The Condé Nast Publications (pages 194-5) 

Peter Lindbergh. Edie Campbell in Saint Laurent; hair, Jimmy Paul; makeup, Stéphane Marais; Morocco, June 2013. Courtesy The Condé Nast Publications (pages 112-3) 

グレース・コディントン『Grace: The American Vogue Years』はこちらで購入可能。

Credits


Text Michael Roberts
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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