エディターズレター:英i-D編集長より

2016年の締めくくりであるi-Dの最新号が発売した。カバーにはサシャ・レーンが登場し、日本での発売が待ち遠しい一冊に。

by Holly Shackleton
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02 December 2016, 11:52am

なんという1年だろう。2016年は世界でテロが横行し、各国で難民や移民が溢れ、イギリスがEU欧州連合からの離脱を決定し、トランプがアメリカの次期大統領に決まるという、現実を受け止め難い年――常軌を逸した者たちに世界を乗っ取られているようにすら感じてしまう、そんな1年だった。しかし、そんな現代だからこそ、私たちは前を向き、歩を進めなければならないのではないだろうか。悪夢ばかりが続いた印象があるが、2016年にはポジティブなものも生まれたように思う。世界中で志をともにする仲間が見えた。そして団結の意識が生まれた。敬意、慈悲の心、ひとの立場になって想像すること――これは、今後も私たちが大切にしていくべき宝だ。わたしたちは今、ともにこの現状を生きている。だから、お互いを思いやり、助け合わなければならない。わたしたちはコミュニティなのだ。今号を制作する過程で、劇的な変化を見せる世界情勢に振り回されずにいるのは不可能だった。i-Dは世界の写真家たちに声をかけ、選挙結果を受けて恐怖におののき、それでもそこに希望を見出そうとするストリートの若者たちを記録(ドキュメント)してもらった。ユースの票の多くがヒラリー・クリントン候補に投じられていたとの結果が公表されたものの、同時にユース世代の投票率が依然として低かったことも判明した。イギリスEU離脱の是非を問うた選挙でも同じことが言えるが――もし投票に行かなかった若者が選挙に参加していたら、果たして結果は違ったのだろうか?

今号で、写真家ゾーイ・ガートナーは自身初となるi-Dの表紙撮影を行なった。スタイリングはジュリア・サー・ジャモア、モデルには今年注目のスターであるサーシャ・レイン。フロリダのビーチで、アカデミー賞受賞映画監督アンドレア・アーノルドによって見出され、同監督の最新作『アメリカン・ハニー』での演技が批評家と観衆から絶賛された。そのサーシャに、トランプが率いる新たなアメリカについて、そして現状と未来にどう取り組んでいくのかについて質問すると、彼女は「ルールや概念は、覆されなくちゃならないときがあるんだと思う」と答えた。「教室の隅に貝のように押し黙って静かに座っていたクラスメイトなんて、誰の記憶にも残らないでしょう? 私は、自分が持つエネルギーで人々の心を動かしていきたい」。すでに今後3本の映画出演が決まっているサーシャ。2017年は彼女の年になりそうだ。映画界を大きく揺り動かしそうなもう1本の作品がある。バリー・ジェンキンス監督による青春映画『ムーンライト』だ。この映画で主役を務めたアシュトン・サンダース(Ashton Sanders)は、子どもから大人へと成長する過渡期の少年の姿を、痛々しいまでに温かい視点で解釈し、体現した。そのパフォーマンスに多くの観客が涙した。「この映画を観たひとには、他者に向けた想像力と愛で心を満たして映画館をあとにして欲しいんだ」とアシュトンはi-Dに語ってくれた。まだ『ムーンライト』を観ていないという読者は、是非すぐにでも観てほしい。

『Power to the Party』では、AFROPUNKを立ち上げ、今年9月にイギリスでの開催を実現してくれたマシュー・モーガンがi-Dの取材にこたえてくれた。「俺が子どもの頃は、黒人のオルタナティブ・シーンなんてなかった」と彼は話してくれた。「そんなアイデア自体、誰も思いつかなかったんだ。俺はAFROPUNKを、人々がお互いについて知り、学び、話し合い、そしてお互いを解き放ち合える空間にしたい」――SZA、Cakes Da Killa、Lady Leshurr、グレイス・ジョーンズを起用したこの一大パーティは、大勢の才能によって作り上げられた空間だった。今号では、それらの縁の下の力持ちたちにも迫っている。さらには、ハックニー教会でギグを開催し、i-Dのチームを陶酔させたAwful Recordsを取り上げている他、i-Dの音楽チームがデイヴ(Dave)からザ・リズム・メソッド(The Rhythm Method)、レイヴ(Rave)までニューヨークのホットな人物に迫った。また、スパイク・リー監督最新作『Chi-Rag』をテヨナ・パリスと語ったり、トップの座を夢見るリル・ヨッティに迫ったり、ホッパー・ペンにスケボーを教わったりと、盛りだくさんの号だ。

古きものは廃れ、また新たなものが生まれる。どうか良いお年を。来年は、これまで以上にアートと希望が大きな意味を持つ1年になる。だから、描き続け、書き続け、デザインを続け、みんな夢を見続けてほしい。i-Dより、心を込めて――Happy New Year!

編集長 ホリー・シャクルトン(Holly Shackleton)

Credits


Photography Zoë Ghertner
Styling Julia Sarr-Jamois
Sasha wears all clothing Louis Vuitton spring/summer 17 
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.