スモーキーな歌声とピアノを自在に操るダイアン・バーチ

2009年、アルバム『Bible Belt』でデビューしたNYのシンガーソングライター、ダイアン・バーチ。その類まれなる歌声から“新時代のキャロル・キング”との呼び声も高く、またスタイリッシュなルックスも手伝い、日本にも多くのファンを抱えている。ビルボードライブでの来日公演のため東京を訪れた彼女に、3月に正式リリースされた新作EP『Nous』やアーティストとしてのこだわりについて訊ねた。

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maj 24 2016, 11:20am

Bible Belt』と『Speak a Little Louder』、2枚のアルバムを経て、新作EP『Nous』はどんな作品としてまとまったと思いますか?
これまでの2作はレーベルを通してのリリースだったから、時間もかかったし、プロデュースされすぎだと感じていたの。だからセルフプロデュースに挑戦してみた今回は、もっと静かでシンプルな作品を目指したわ。無駄を削ぎ落としつつも、私は通常は正反対とされる要素を並べて表現するのが好き。黒と白、光と影、マスキュリンとフェミニン、といったように、矛盾するものにこそ美しさがあると思う。この考え方は『Nous』にも、反映されているわ。

曲を作る際、どんなものからインスパイアされますか?
難しいわね。でも、興味を持っているのは、人間の心の在り方や分子物理学。詳しいわけではないんだけど、ある理論によって、表層からは見えない内面が私たちの行動を決めている、とかね。それから、そういった現実の世界を超越するイマジネーション。私も、別の世界に連れて行ってくれる音楽を作りたいと努力してるわ。あとは、痛みね。幸せや太陽の光というより、もっとダークなものに惹かれるわ。もちろん音楽は愛しているけれど、あまり他のアーティストの作品は聴いてこなかったの。ダンスしたい気分の時以外は、むしろ静寂のほうが好き。

今回のEPが「完成」したのは、Bandcampにアップロードする数時間前だったのだとか。それはちょっと極端ですが(笑)、完成した作品をすぐにリスナーに届けることは、どんな意味を持ちますか?
アルバムのために曲を書いた後のプロセスに長く時間を取られると、リスナーの元に届く頃には「もう聴きたくない!」って思っちゃうこともあって(笑)。もちろん、新作の中には何年も前のアイデアを形にした曲もあるんだけど。それにCDだと、国によって手に入ったり入らなかったりするじゃない? デジタルなら全世界に発信できるし。あとは、楽しみにしてくれているファンから「新曲を聴けるのはいつ?」と訊ねられた時、「クリスマスまでに届けるわ」と約束するとモチベーションも上がる。音楽産業の構造が変わっても、リスナーとの信頼関係は変わらないものだから。

BandcampやApple Musicなどリスナーとのタッチポイントが増える中、今後アルバムというフォーマットも変わっていくのでしょうか。また、あなたにとってCDなどフィジカルなメディアは今どんな存在ですか?
私にとってはストーリーを語ることのできるフォーマットも大切だから、シングルやEPだけでなく、今後もアルバムを作っていくと思う。私自身、映画や本でもデジタルを介した作品に触れてはいるものの、フィジカルに残るクリエイションにも思い入れがあるから、今回もリミテッドエディションでアナログとカセット、それからCDやTシャツも作ったわ。音楽に触れられる機会はいろいろあったほうがいいと思うし。

たとえばTシャツのようにサウンド以外でダイアン・バーチを語るもの、写真やPVなどにも積極的に関わっていくタイプですか?
音楽はさまざまなアートフォームと関わるものだと思うから、アイデアがあれば積極的に伝えているわ。でも、もちろん音楽にも、スタイルにもこだわりが強いほうだから、いつもオープンでいたいと心がけてもいるの。違うジャンルのアーティストとコラボレーションをしたり、サイドプロジェクトではピアノの演奏に徹してみたり。私はとにかくプロダクトが好きで、実はいつか自分でフレグランスを作ってみたい!こだわり抜いた結果、高額になりすぎちゃって、誰も手を出せないかもしれないけど(笑)。でもそんなフレグランスがひっそりとどこかに存在している、って素敵じゃない?

京都で撮影されたショートフィルム「KYOTO MON AMOUR」も素敵でした。
2年前に日本に来た時、大阪でのサウンドチェックの時に素晴らしいスタインウェイのピアノに出逢って。ピアノにもヴァイヴがあるから、「このピアノで何か録音しておかなくちゃ!」って即興で何テイクか弾いてみたの。京都に移動した後には映像を撮り始め、それならフィルムにしようということになって。全てはピアノとの出逢いが始まりだったのよね。不思議な経験だった。フィルムのコンセプトについては、今回も一緒に日本に来ている映像作家のメシャカイが詳しいわ。

(以下、メシャカイ・ウルフ)
僕はその時初めて日本に来たんだけど、ストリートの喧騒と、伝統的でセクシュアルでさえある室内空間とのコントラストに、日本ならではの魅力を感じた。ダイアンを撮影する上で、そんなムードを反映したかった。その後、録音したピアノのサウンドをコラージュし、ビル・エヴァンスの『Conversations with Myself』のように、ピアノ同士が会話しているような構成にしたんだ。

もう日本には何度も来ていますが、お気に入りの場所は?
いつもいろいろなところに行っては感動しているんだけど、後からどこだったのか訊かれると答えられないのよね(笑)。でも、原宿のヴィンテージショップやゴローズは好き。あと、場所はわからないんだけど、ツーリストで溢れていない日本人向けのレストランも好き。「よし! 他にアメリカ人はいないわね」とうれしくなるわ(笑)。それからやっぱり、京都ね。芸者や市場、懐石料理は本当に最高だった。

ユニークな歌声とピアノを弾く姿、どちらも魅力的ですが、あなたにとって声と楽器はどんな表現ツールですか?
デビュー前にはLAのレストランやホテルでピアニストをしていたから、私にとってピアノとは、サウンドスケープを作るもの。もしかすると他のミュージシャンとは違うかもしれないけど、ピアノでリズムとテンポを刻み、その上でこそ歌声を自由に漂わせられるというか。うまく言えないけど、お互いに補完し合う存在ね。

LA時代、プリンスとセッションしたこともあるんですよね。彼との思い出があれば教えてください。
ピアノを弾きながら自分の音楽を作り始めた頃、プリンスが私の演奏を見たそうなの。数週間後に家に招待され、ハングアウトしながらセッションもしたわ。ちょうど、いろいろなレーベルとの契約話が持ち上がっては立ち消えたりして自信を失っていた時期だったんだけど、彼は私の曲を聴き、「音楽のスタイルこそ違うけれど、きみは同じような感性を持っている気がする」と言ってくれて。世界的なレジェンドからの言葉には、大いに励まされた。私にとっては、とても大事なモーメントよ。

Credits


Interview & Text Misho Matsue
Photography Ko-ta Shouji