モダンな恋人たち:Paul Smithインタビュー

現在、東京・神宮前のギャラリーで「THE SECRET LIFE OF THE PENCIL」展を開催しているポール・スミス。i-Dは来日していた彼にインタビューを行い、50年代のウエストロンドンの様子、Paul Smithのロゴが手書きの理由、好きな「愛」の小説について話を聞いた。

by Sogo Hiraiwa
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26 October 2016, 9:20am

2017年春夏のコレクションでは、平和に向けてオプティミスティックで力強いメッセージを感じました。近年は悲しいニュースを聞くことも多いですが、やはりクリエーションにも影響はありましたか?
ポール・スミス(以下:P.S.):そうだね。「ハッピーでポジティブなものを作ろう」と思わせたね。オールブラックのコレクションを想像してみてほしい。モデルたちもしかめっ面でランウェイを歩く――そんなのは僕の世界観とは違う。今シーズンのコレクションは楽しげでスマイルに溢れたものにしたかったんだ。モデルを微笑ませるにはちょっとした工夫が必要だけどね。

今季のコレクションは、60年代にウエストロンドンを闊歩していたカリビアンたちのスタイルにインスパイアされたとお伺いしました。カリブ系移民や当時の街の印象を教えてください。
P.S.:そう、だからラスタカラーを取り入れたんだ。18歳の頃、僕はよくノッティングヒルに行っていてね。映画の影響もあって今では高級住宅地になってしまっているけど、当時は、美しい建物が並びながらもどこか打ち捨てられたような雰囲気が漂うエリアだった。1950年代ロンドンへと移住してきた西インド諸島の人たちは、家賃が安いノッティングヒルに住んでいたんだ。1960年代後半、僕はロンドンに頻繁に通うようになって、ノッティングヒルの友達の家に寝泊まりさせてもらっていたんだけれど、いつでもレゲエやダブミュージックが聞こえたものだよ。建物のなかでも、外に居ても聞こえてね。当時は「シェビーン」と呼ばれた違法バーや、夜通し続くパーティが盛んだったんだ。公園や古いフラットにいつもひとが集って、音楽や料理でもてなしてくれた。キッチンには肉料理がグツグツと湯気をたてていて、好きなだけ食べていいんだ。18歳の頃からそんな文化に触れていたから、今回のコレクションはとてもすんなり作ることができたよ。

ロンドンはとても多文化的な都市ですよね。移民はロンドンに何をもたらしていると思いますか?
移民が笑顔をロンドンにもたらしてくれたし、いまロンドンにある独特のリズムや音楽を作り出したのも彼らだと思う。ポジティブなスピリットもね。それから、彼らのスーツの着こなしも――移民としてロンドンに移り住んできたとき、彼らは揃ってスーツを着ていたんだ。彼らがスーツを買うほどのお金があったのかどうかは分からない。誰かからもらったのかもしれない。ネットで「西インド 1950年代 ロンドン 移民」と検索すれば、当時の写真を見ることができるはずだよ。ダブルのスーツを着て、大きな美しいタイをしめて、とにかくスタイリッシュなんだ。彼らは船でロンドンに乗り付けてね。今では無理だけど、当時は船がテムズ川から上っていってイーストロンドンまで直接入れたんだ。「ドック」と呼ばれる巨大な停泊場に船を停めてね。

現在、移民はヨーロッパで大きな問題となっていますね。
P.S.:そうだね。でも現代の移民問題は以前とは違う、とても悲しい理由で起こっている。かつての移民は、望んだ人が自身の選択として移住をしていた。イギリスはそのおかげで多様な文化を育むことができたわけだよね。でも現代は、戦争などの恐怖から逃れるために移民を余儀なくされている。移民を受け入れる国も彼らに来てほしくないわけじゃない。問題は彼らを受け入れる術を知らないということなんだ。100万人いれば、それだけ必要になる水の量も食料の量も増える。でもそこにはそれだけの人の生活を支えられるだけの仕事がない。100万人の人間が人間として最低限の生活を求めて流れているのに、いく先々の国はどこも負債に喘いでいる――昔とは状況が違うよね。移民の人数も以前は数百人、数千人だったものが、今や100万人なんだから。

2016年秋冬シーズンでは、メンズとウィメンズのコレクションに統一感がありましたね。意識してのことですか?
P.S.:可能なかぎり、ウィメンズとメンズのコレクションに統一感を生もうとはしているけれど、いつもそうなるとはかぎらないね。

最近はメンズとウィメンズを1つのショーで発表するブランドも多くみられます。このトレンドについてはどう見ていますか?
それらしく聞こえる理由をつけてメンズとウィメンズのコレクションをひとつのショーで発表しているけど、みんな考えていることは「そろそろ一緒に発表して出費を抑えよう」ってことだと思うよ(笑)!

現在「THE SECRET LIFE OF THE PENCIL」展が開催しています。Paul Smithも手書きのロゴですよね?
P.S.:ブランドロゴを手書きにしたのは、会社を立ち上げた当時、グラフィックがすごく流行っていて、僕は周りの誰とも違うことがしたかったからなんだ。それで手書きにしたんだよ。

今でも手で書くのは好きですか?
スタジオで服のデザインをする際――今シーズンのウィメンズ・コレクションは特に、多くの服に手で直接ペンティングを施したんだ。デジタルでの処理は行うけど、もとは全て手描きだよ。鉛筆やペンを使うのが好きなんだ。だってミステイクができるんだから。友人の工業デザイナーはある日、ドアノブをデザインしていてね。ノブの絵を描いているときに電話がなって、受話器をとろうとして鉛筆を持っていた手が動いてしまったんだ。そこで偶然生まれた曲線が、人の手にしっくりくるシェイプを生み出して、このノブで彼は大成功を収めたんだよ。偶然できた線が、それを解消するカタチを生んだんだ。

「偶然から生まれた産物」ですね。
P.S.:自転車の事故を起こして、プロ選手を諦めざるを得なくなるまで、ファッションデザイナーになるなんてことは考えもしなかったからね。悪いことが起こったからこそ生まれる良いものもある。

今でもタイピングはしますか?
P.S.:以前はよくタイプライターを使ったよ。昔のタイプライターが素晴らしいのは、強くキーを押せば、文字にその強さが滲み出るんだ。だから文字によって色が濃かったり薄かったり、バラつきがあるんだ。『オン・ザ・ロード』で有名な小説家のジャック・ケルアックとビート世代の作家の展覧会が先日、パリで開かれていたんだけれど、そこにはケルアックがタイプライターで打った原稿が展示されていて――とめどなく続く元の原稿が展示されていたんだけれど、そこに見る印字にはすべてケルアックの指から発せられた力が見て取れたよ。彼は「G」を強くタイプするんだよ!

ご自身は写真も撮られていますね。写真の魅力とはなんでしょうか?
P.S.:現代は、誰もがカメラの付いたスマホを持っている。誰でも簡単に、瞬時に写真を撮り、見て、それをヴィジュアル日記のように構成して世界のひとびとと共有することができるのは素晴らしいことだよね。
僕の写真観は、父親が言っていたところの「瞬間を捉える」というものをベースとしている。誰かが何かをしているところでもいいし、美しくても変でも何でもいい――その瞬間を捉えるんだ。アンリ・カルティエ=ブレッソンやジャック=アンリ・ラルティーグもそうした写真観をもっているけど、ふたりの才能は突出しているよね。僕の父親も写真を撮るのが上手かった。父は地元でカメラクラブを発足したひとなんだよ。彼は「よく見ろ、人間は見ているようで、本当は見えていないんだ」と僕にモノの見方を教えてくれた――だから僕はヴィジュアル感覚に長けているのかもしれないね。

ご自身ではどんな写真を撮るのでしょうか?
僕のInstagramは見たことあるかな? 友達やら何やら、日々の生活のなかで「瞬間を捉えた」写真ばかりだよ。ドラムスティックとかね。たまにシリアスな写真を撮ったりすることもあるけど、全体的には些末なものを写真に収めてアップしているんだ。僕のInstagramが人気なのは、多くのひとがどことなく悲しい現代にあって、可笑しみがあったり、可愛かったりするものをアップしているからなんだと思う。

あなたのアートコレクションについて教えてください。どんな作品を集めているのでしょうか?
P.S.:このあいだアートコレクションについて訊かれたとき「僕はコレクターじゃないよ」って答えたんだ。でもよくよく考えたら同じ種類のものをたくさん買い漁ってしまっているのも確かで、そう伝えると彼は「それをコレクターと呼ぶんです」って笑っていたよ。だけど僕が言いたかったのは、例えば腕時計のコレクターは所有している腕時計ひとつひとつのことを深く理解しているわけだよね。でも僕のアートコレクションには孫が描いた絵やジャコメッティの彫刻、バンクシーの絵と、まとまりがない。「直感で選ぶ」としかいえないんだ。本能で選んで買っているうちに、まとまりもない多様なコレクションになってしまうんだよね。僕は単にクリエイティブな世界に興味があるだけなんだ。油絵に写真、グラフィックデザインや建築、工芸も好きだしね。目を楽しませてくれて、想像力を掻き立ててくれるものが好きなんだよ。

アートとファッションはどのような関係にあると思いますか?
P.S.:多くのファッションデザイナーが、そこに密接な関係性があるって考えていると思うよ。だけど僕はそんなことはないと思っているんだ。アーティストや展覧会、映画に影響や感銘を受けることはあっても、それは"影響"でしかない。まったくの個人的な意見としては、ファッションはアートではない。反対意見も多いだろうけど、僕はファッションを「クリエイティブな仕事ではあるけどアートではない」と考えているよ。

i-D Japan最新号のテーマは「modern love」です。「愛」と聞いて思い浮かぶ映画や音楽、小説があれば教えてください。
P.S.:僕のコレクションと共通するテーマだね。最新コレクションでちょうどベルトのバックルがピースサインのアイテムも作ったよ。「愛」で思い浮かぶのは、D.H.ロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』だね。それからジョナサン・リッチマン&ザ・モダン・ラヴァーズっていう素晴らしいバンドがいるよ。「愛」っていうから思い出しただけだけど。でも良いバンド名だし、音楽も素晴らしいよ。「パブロ・ピカソ」という曲で、リッチマンは「僕が道を歩けば誰もが僕をバカだと思うけど/ピカソが歩けば誰もが彼に熱狂する」って歌っているんだ。名声について歌っているんだろうね。

今は愛なき時代です。世界に愛を取り戻すにはどうすればいいと思いますか?
P.S.:Paul Smithは世界に愛を取り戻そうと頑張っているよ。僕も僕の会社もコレクションもね。僕たちは地に足が着いていて、リアルで、オープンなんだ。ポール・スミス&ザ・モダン・ラヴァーズだね。

Paul Smith Spring/Summer 2017

Credits


Text Sogo Hiraiwa
Photography Takao Iwasawa

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