Z世代の夢と希望を追求する『The Future is Fluid』

Gucciによる〈Chime For Change〉キャンペーンの一環として、ジェイド・ジャックマンとZ世代発のシンクタンク、Irregular Labsが手がける短編フィルムが公開。

by Willy Ndatira; translated by Nozomi Otaki
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06 February 2019, 7:07am

英国人映像作家ジェイド・ジャックマンが、自身の最新作で焦点を当てたのは、15〜25歳の世界中の若者13人。彼らが暮らすのは、ケープタウン、ロンドン、シンガポール、メリーランド、リオデジャネイロ、カナダ、ムンバイ、アラブ首長国連邦、南アフリカ。彼らは流動性を特徴とする〈Z世代〉だ。

1ヶ月に及ぶ慌ただしい作業と旅のすえに完成した『The Future is Fluid』は、世界中のZ世代の、ある瞬間を切り取った作品。教育、保険、公正に焦点をあて、ジェンダーの平等を訴える声を集結し、強化することを目的とするGucciのプロジェクト〈Chime for Change〉の一環として制作され、今年1月、サンダンス映画祭で上映された。本作は2013年、ビヨンセとサルマ・ハエックを発起人として始動したプロジェクトの歴史に、新たな1ページを書き加えた。Chime for Changeは、ZINEから映画まであらゆる媒体を通し、香港やブラジルにおいて女性が直面している問題に取り組むことができるリーダーの育成、イタリアにおけるジェンダーに起因する暴力問題に取り組むなど、今後も様々な活動を展開していく予定だ。

「すべての人は平等に創造されたのです」とGucciのクリエイティブディレクター、アレッサンドロ・ミケーレはプロジェクトについて語る。「私たちは誰もが、自らの信じることのために立ち上がり、声を上げる権利をもっています。臆することなく自己を表現するZ世代に接するとき、いつか自由と平等の未来が実現するかもしれない、という希望を私に与えてくれます」

『The Future is Fluid』はメッセージだけでなく、映像の構成でも、流動性というテーマを掘り下げている。すなわちドキュメンタリー、ミュージックビデオ、ファッション動画のハイブリッドだ。作中で直接的に流動性が言及されるのは、ジェンダーやセクシュアリティの話題においてが主だが、スタジオから誰かのベッドルームやラグビー場へと移り変わっていく映像によっても表現されている。さらに英語、ポルトガル語、イタリア語と使われる言語も流動的に変化していく。本作の核となるのは自己認識、誠実さ、寛容。そしてもっとも重要なのが自由だ。すなわち愛する自由、思うままの自分を表現する自由、他者を認め、受け入れる寛容さだ。

争いが増加し、分裂、憎悪、恐怖を煽る指導者が牛耳るこの世界において、本作でZ世代が伝えるメッセージは、別の道を指し示している。彼らが提示するのは、私たちが共存していくための新たな可能性について議論する勇気だ。本作に登場するリオデジャネイロ在住の23歳の有色人種のトランス女性、ガビのストーリーのように、この勇気には非常に高い代償が伴うかもしれない。ガビと彼女の仲間たちは、ホモフォビアに起因する暴力を受けながらも、「自分のストーリーを声高に叫び続ける」勇気を失うことはない、とガビは作中で明言する。

偶然にも私はサンダンス映画祭に向かう前に、ポーランド人社会学者、ジグムント・バウマンの論文を読んでいた。現代社会や未来の〈液状化〉という概念を生み出した人物だ。彼によると、今の世界では、個人のアイデンティティ、仕事、人間関係などあらゆるモノ・ひとが絶えず流動化している。常に変化し続ける社会に順応するには、自ら進んで流れに身を委ね、柔軟性を身につけ、世界のあらゆる場所に心地良さを見出すべき、というのがバウマンのアドバイスだ。

世界の現状を鑑みれば、右翼ポピュリズムや保守主義の台頭、トランスフォビア、ホモフォビア、反移民感情の高まりの原因が、柔軟性のなさや恐怖であるのは明らかだ。二元的なシステム、不寛容、孤立主義は、どこか遠くのディストピアの話ではない。今の政情や生活のなかで、私たちは身をもって体感しているはずだ。奴隷制、ホロコースト、宗教戦争など、人間の残虐極まりない行ないのはじまりは、このような柔軟性のなさや恐怖だったのだ。

『The Future is Fluid』でZ世代の若者たちが表現する流動性とは、排除ではなく受容を促し、自分自身を認め、人間の定義の限界を押し広げる価値観だ。彼らが掲げる愛、尊敬、誠実さ、寛容のメッセージを見過ごすわけにはいかない。

This article originally appeared on i-D UK.