「平成最後の東京コレクション」ベストモーメント:前編

“ディストピア”に佇む気丈な女性を想像したmalamuteから、愛憎入り混じるヒューマニティーを宿したJenny Fax、東京ストリートのエネルギーが渦巻くJiedaによる「平成最後の東京コレクション」を締め括る最高のフィナーレまで。

by Tatsuya Yamaguchi
|
30 March 2019, 1:00am

街中にある巨大なクレーンや工事現場を覆う白い壁に目が慣れてしまった。東京ならではの都市開発計画があるのだから、宮下公園の小橋が解体され、謎の立体構造物の一部になっていることを美醜のものさしだけで語るのはナンセンスだ。が、半年ごとにAmazon Fashion Week Tokyo(AFWT)のメイン会場のひとつである渋谷ヒカリエ9階に訪れて渋谷駅周辺を見下ろしたとき、その変貌ぶりに、期待感の裏で物寂しさを抱く人は少なくない。もちろん悪いことばかりではないが、個人的な思い出や記憶に結びつく場所、もしくは単に居心地が良かったり好きな風景が「顔の見えない何者かによって壊される」感覚といえば伝わるだろうか。

1553886687810-01_P3191624
malamute. photography photomaker.

「工事中の渋谷駅をかいくぐって歩いたとき、不安や恐怖の感情が湧き上がってきた」と話すmalamuteの小高真里がショーとデザインで描いたのは、“ディストピア”だった。映画からヒントを得る彼女によれば、遺伝子操作によって生まれた人類が多数をしめる超管理社会でコンプレックスを抱えて生きる人間の逞しさを描いた『ガタカ』、悠久の年月を生き、あらゆる時代のものに触れてきたヴァンパイヤ(人間の風貌だが、人間のようには生きられない)が主人公の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』が今季の着想源だ。

1553886712649-02_P3191665
malamute. photography photomaker.

ゴールドのフィルムシートと人工的で強烈な光を放つ白熱灯が四方に設置された近未来感覚のある空間に、彼女が志向する“気丈な”女性がニットドレスやフリル付きのスーツを身にまとって現れる。その姿は眼にした現実に打ちひしがれているようにも見えるが、それぞれ個性が際立っていて、凛然としている。ある日本人モデルの瞳は、黒ではなく“異端的な”緑色に。ヘアは、生まれ持った資質を暗示する遺伝子構造をかたどっている。

古めかしいアンティーク調の花柄だが、スポーティな伸縮性ハイゲージニット・ドレス。発想次第でポンチョにもなるノルディックフック付きのウールストール。テーマやインスピレーションを編み地や服地の製法に織り込むmalamuteは、インターネットを介することで現代は過去と現在が一体化していて、人の内面のテンションは外的な影響と自分の選択次第でいかようにも変化するのだと示した(忘れかけてはいなかっただろうか)。自分の外側の世界が変貌を遂げたとき、私たちには選択の時間が迫ってくる。少し先の未来予想図と、そこで生きるかもしれない人間の複雑な内面について訴えたmalamuteに、彼女が女性について考えるようになったきっかけである赤い薔薇を何本かおくりましょう!

1553886733617-03_P3191457
malamute. photography photomaker.
1553886767841-04_P3191354
malamute. photography photomaker.

例えば、未来を想像しにくいディストピア的な世界——今の日本は?——にひとりで立ちすくんだとき、その人の内面の動きとはどんなものだろうか? きっとその感情のうごめきを表す言葉のひとつは“孤独”だ。じゃあ、その隣に信頼して手をつなぐことができる誰かがいたとしたら? そんな連想が加速したのは、螺旋階段のある会場で開いたJenny Faxのショーだった。

1553886784308-05__V9A0541
Jenny Fax. Photography Wakaba Noda.

女の子の合唱で歌われたRadioheadの「Creep」が、こんなにも痛烈な愛憎の唄に聴こえるだなんて思いもしなかった(この名曲には、トム・ヨークが過ごした劣等感のある幼少期が投影されているという話もある)。モデルは膝下まで伸びる長髪で、頬には傷をコンシーラーで“隠した”跡がある。色柄とディテールは“可愛らしい”けど、ずり落ちたスカートやレースワンピースを着た、どこか陰りのある少女がランウェイにいる。デザイナーのシュエ・ジェンファンにはいつも、観る人の内にある優しさと、普段は他人にはみせない——例えば、怒りにも似た——何かを同時に揺さぶられる。誰かのために飾られ、本音を隠す建前ってどれだけ必要なのだろうか。無理して傷口に触れないようにすれば良いのか。招待状に書かれた一文を拝借するなら、「公園でひとり、焼酎を飲みたい」女の子だってたくさんいるのだ。

1553886802838-06__V9A0488
Jenny Fax. Photography Wakaba Noda.

彼女とスタイリストのロッタ・ヴォルコヴァがつくるストーリーは明快だ。レースやフリル、パステルトーンとデザイン上で繰り返される明らかな少女のモチーフ、指先まで覆う繭(母のお腹のなか?)のようなドレス、アクセサリー(シルバニア“ファミリー”的な熊のフィギュアのお腹には穴が、ポップなケーキには指が突っ込まれている!)にある狂気性、家族の面影、そして赤ちゃんを模したスペシャルなピース……。心の内側にあるイノセンスと痛々しさは隣り合わせで、女の子、(たとえライフステージが変わっても)女性、あるいはお婆さんと呼ばれるようになる時代も、ある一人の人生のなかでは、螺旋のように決して分断されていないのだ。Jenny Faxの世界には、誰かの背中に手を添えるような、まごうことなき無二のフィーメイルゲイズがある。ショーが終わった会場でこっそり鼻をすする音がした。きっと花粉症のせいではない。

1553886840553-07__V9A0473
Jenny Fax. Photography Wakaba Noda.
1553886858664-08__V9A0490
Jenny Fax. Photography Wakaba Noda.

「タクシー車内のカメラで撮影した乗客の顔写真から性別を推定して広告を配信する仕組み」で某社が国から行政指導を受けたという報道があった。テクノロジーとして最新だとしても、顔だけでセクシャリティを判断し、外見と個人の嗜好性を直接的に結び付けるのは、なんとも旧時代的だ。一方、世の中はカメラだらけ。その録画映像が何に使われるのかも本当のところはわからない。人の固定観念や監視社会に対する気づきを与えてくれたのは、「クラシックとモダン、繊細さと大胆さ、マスキュリンとフェミニン、相反する様々な要素をアッセンブルし(…)脱構築的なジェンダーレスコレクション」をコンセプトに掲げるDRESSEDUNDRESSEDだ。

1553886875883-09_No7_No8_2
DRESSEDUNDRESSED.

デザイナーの北澤武志は、自身の「多面的な」個人性に向き合った回答を「ポートレイト」というタイトルにのせた。黒が主体でジャケットやコート、ショートパンツを、いささかフェティッシュ(倒錯的)なトーンに変換。ニコイチのメンズルックだけで構成され、かたやクリーンな素顔で、かたや見るからに怪しい黒いマスクを被っている。短いランウェイを経て、警察署の取調室を模したスペースに彼らが入る演出である。

“犯罪者”はマスクの方だと直感させられるが、解像度の低い防犯カメラ風の映像を通してスクリーンに映し出されたのはマスクを被っていない方の奇行の数々だった。クッションを唐突に引き裂いたり、中には「do something boring(つまらないことをしろ)」というメモを見せつける者も。人の内面とは善も悪も一体化しているのだろうが、それよりも気付かされたのは、風貌(外観)にまつわるステレオタイプが私たちの“直感”をいまだに支配しているということだった。何事も見た目によらないのではないか? こんな複雑な存在を、はたして人工知能は代替できるのか?

1553886901763-10_Finale2
DRESSEDUNDRESSED.

Jenny Faxも然り、5日間のうちに発表したいくつかのブランドで顔を覆い隠すデザインがあった。覆面、マスク、バラクラバ(タイガーマスクから能面、アノニマス、ヴェネチアの仮面まで、古今東西のマスクの歴史はかなり興味深い!)。表情は隠れて匿名的だが、その人が何者で、どんな思想を持っているかを、時にすべからずあらわにするものでもあるのだ。

1553886942276-11_9222957
SIIILON. Photography Kyohei Hattori.
1553886964558-12_9222968
SIIILON. Photography Kyohei Hattori.

血の気がひいたモデルが纏う、フリルドレスやトランスペアレントなワンピース。ピアノの旋律と、モデルが四角いランウェイを2周するという強迫観念ともとれる演出で、狂気的な——『アダムスファミリー』のような——世界をみせたSIIILONにも、顔を覆うフーディがあった。胸もとには「What are you so serious about? Just chill out(何をそんな真剣に考えているの? ゆっくりしなよ)」「Be yourself(あなたらしく)」と刺繍されている。身を隠したくなる誰かにとっては、光明のような言葉にちがいない。

1553886987357-13_S3K7627

AFWTの大トリ、Jiedaが私たちのテンションを劇的に押し上げ、東京ストリートの無類のドライブ感と自由なマインドを思い出させてくれた。ミックス&レイヤード、カラーリング、あるいはレイブ的高揚感。複雑な導線を疾走するように進むモデル、街の高架下のボロい蛍光灯のように点滅する照明。90年代後半から昨今までストリートを彩ったスタイルの数々と熱量が、目眩くフラッシュバックする。フィナーレで「平成最後の東京コレクション」と刺繍された特攻服を着て登場した藤田宏行が作り上げた15分間のショー空間に渦巻くエネルギーには、街と人(外と内)のつながり、そして個性とは何かという刺激的な問いがあった。これ以上にない、最高のフィナーレ!

「平成最後の東京コレクション」ベストモーメント:後編はこちらから

1553887023520-14_S3K7625
Jieda. Photography Shun Komiyama.
1553887040130-15_S3K7634
Jieda. Photography Shun Komiyama.
1553887056026-16_S3K7777
Jieda. Photography Shun Komiyama.

Credit


Text and Edit Tatsuya Yamaguchi

Tagged:
Features
tokyo fashion week
amazon fashion week tokyo
afwt
19aw