多様性とタブー:大沼茂一×ヤブノ・ケンセイ、キャリア20年の二人展

ヒステリック グラマー渋谷店にて開催された大沼茂一とヤブノ・ケンセイの二人展「WHY YOU」。二人の作品から見えてくる、現代における“差異”の重要性と、社会に対する“反抗”のアティチュードとは?

by Taro Nettleton
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18 April 2019, 8:00am

3月15日から3月31日までHysteric Glamour渋谷店にて大沼茂一とヤブノ・ケンセイの二人展「WHY YOU」が開催された。大沼茂一は1999年に『広告批評(No. 224)』でホンマタカシ、大森克己、佐内正史、若木信吾、都築響一とともに「写真新時代」という特集で紹介され、ヤブノ・ケンセイは同年に、当時南青山にあったIDÉE Galleryで初個展を開いている。二人は昔からの遊び仲間でもあり、ともに若くして評価された作家である。すでに過去4回共同展示の経緯を持つ二人にはどのような共通点があり、今回の展示にどのような試みがあったのかを検討してみた。

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ヤブノ・ケンセイの最も代表的な作品は、黒い背景に白で描かれた斑点とも漫画の効果線ともいえる手描きの模様。COMME des GARÇONSとのコラボレーションでも知られるその柄は、様々な形や媒体で発表されてきたが、作家自身がもっとも力を入れている作品はその模様をまとったオブジェたちであろう。それらは具象的でもあるが、架空の生物のようでもあり、『スター・ウォーズ』のカンティーナ(酒場)のシーンに登場する宇宙人たちをも思い起こさせる。今回そのオブジェたちはギャラリーの中間に設置された、広場を彷彿させるプラットフォーム上に立っていた。それらのあいだには適当な距離が置かれ、互いに特に親密な関係を持っているわけでもなさそうだ。その距離感と一貫性に欠けたフォルムは、特にピエール瀧がコカイン使用の容疑で逮捕され、マスメディアでスケープゴートにされる最中、多様性を守り、増殖させる都市空間の重要性を訴えているようであった。

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KENSEI YABUNO No. 35 H120mm×W530mm

それらの作品群は1948年にアルベルト・ジャコメッティが製作した「Piazza」をも思い浮かばせるが、ジャコメッティの広場に立つ人たちは極度に痩せていて、細長く、近代都市という不良環境によって存在感を削ぎ取られたように見えるのである。一方、ヤブノのオブジェたちは極めて肉質的であり、ところどころ肌色に塗られた部分もある。なかでも、作品「No. 35」は、ルネッサンス以降のヌード画にみる横たわった裸婦像のようでもあったが、その体には首も顔もなく、背中にはサイクロプスのような目が描かれていた。尻をこちらに向けるそのフォルムにはもちろんエロチシズムも感じさせるのだが、さらに重要なのは観者が安易にはその身体ないし性別やジェンダーについての知識を得られず、カテゴライズできないことである。観者の私たちもオブジェと一時的に空間を共有しながら、それらの表層を超えた知は求められない。 他者から知を引き出そうとせず、理解を要求しないまま共存することこそが倫理的な社会関係であり、 今回のヤブノ・ケンセイの作品はそういった社会の模型のように思えた。

一方、大沼茂一の写真作品は倫理というよりはモラル、そしてタブーをテーマにしており、それは80年代後半に米国でキリスト教右派がロバート・メイプルソープとアンドレ・セラノの写真が不道徳で冒涜的だと訴え、検閲を求め繰り広げた、カルチャー・ウォーズを思わせた。

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今回展示された写真のほとんどは、作家自身が作った丸や三角形、十字など、複雑な形の額に収められた。ポップで明るい色調と、宗教、政治、食物や排泄物といった被写体との対局性をグラフィカルに魅せる作品群であった。ガストの看板やハンバーガーの広告写真を撮ったものから、古典的に美しい壁に映った歩行者のシルエットの写真など、日常的な風景から、金のうんこのオブジェやトランプ大統領の頭、ハンバーガー、そしてプラスチックのスケートボードなどのキッチュな既製品を組み合わせたアッサンブラージュ、さらには修道女がフェラチオしているシーンやナチスの切手を反転させた写真があり、それらを全体的に見ると、ポストモダンな価値の平坦化を表している様にも思えるのだが、気になるのは、なぜ、いま東京でナチやキリスト教へのタブーを扱うのかである。

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(左)SHIGEKAZU ONUMA 最後の食事 (右)SHIGEKAZU ONUMA 斜陽

1980年代後半の米国とは違い、日本ではキリスト教右派の存在は極めて薄い。しかしながら大沼のスケート文化との関わりを考えると、前述の写真の文脈だけでなく、90年代に発表されたマーク・マッキーなどによるスキャンダラスなグラフィックが描かれたデッキも見ていたと考えられ、こういった反抗的なアティチュードが骨に染み付いているのは想像できる。1999年の『広告批評』の特集に関しても、大沼はコマーシャルな場に全く違うイメージと文脈をねじ込むことを望んでいたと説明する。自身の作品制作に専念している現在の大沼は、商業的な仕事にレイプされたと語っていたが、そう思うと今回の作品が、クランプスやデストロイ・オール・モンスターズなど反体制的文化の象徴を次々と大衆向けにリパッケージしてきたHysteric Glamourで展示されたことは極めてアイロニックである。今の社会政治的文脈に対応せずにはクリティカルな態度もスタイルとして消費化されてしまうであろう。

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SHIGEKAZU ONUMA

1972 年、東京生まれ。日本の写真家。アメリカのRhode Island School of Photography を卒業後、『DUNE』や『Monocle』など、国内外の雑誌や広告を中心に活動。2002 年にはアートデイズより写真集『HELLO MY NAME IS SHIGEKAZU ONUMA』を発表。主な個展に『静騒』(FOIL GALLERY/2009年)、『八式』(FOIL GALLERY/2011年)、『青い』(limart/2011年)、『終わらない始まり』(limart/2012年)などがある。

KENSEI YABUNO

1975年、北海道生まれ。イギリスのCamberwell College of ArtsでFine Artを専攻。limart、THE LAST GALLERY、新宿伊勢丹などでペインティング、立体作品を発表。『アイデア』や『vice』、『DAZED & CONFUSED』など国内外の雑誌にも作品を提供する。また、BIGACTIVEがディレクションを担当したBECKのアルバム『The information』(2006年)および同アルバム収録のシングル曲『CELLPHONE'S DEAD』のジャケットに作品を提供し、「D&AD AWARD」を受賞。COMME des GARÇONSの2011年春夏ウィメンズコレクションに、作品がテキスタイルとして採用された。

HYSTERIC GLAMOUR SHIBUYA

東京都渋谷区神宮前6-23-2 1F
tel. 03-3409-7277
『WHY YOU』展とのコラボレーションTシャツも発売中。

Credits


Text Taro Nettleton(Assistant Professor of Art History, Temple University Japan)
Edit Sakiko Fukuhara