川久保玲が切り拓くComme des Garçonsの新時代

妊婦のような膨らみ、亀裂の入った腹部、誇張された女性の身体。川久保玲がクリエーションの新たな道を提示した。

by Susie Lau; translated by Nozomi Otaki
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04 October 2018, 7:00am

新生Comme des Garçonsと評された2019年春夏コレクション。最初に登場したモデルは、身体のラインに沿うきらびやかな黒のコートをまとっている。彼女がターンすると、ファスナーから妊婦のような緩やかなカーブを描くお腹がのぞく。白い髪は、首の後ろで無造作に束ねられている。年を重ねて知恵を身につけ、世の中に嫌気がさしたかのようだ。彼女は、トム・ウェイツのしわがれた声に合わせて歩いていく。彼女のお腹に宿ったのは子どもではない。新たなアイデアだ。

このコレクションは、Comme des Garçonsがまたとないタイミングで迎えたターニングポイントだった。オーディエンスは活気を取り戻し、希望に満ち溢れていた。そう、私たちは今でも服に普遍的な真実を見出すことができるのだ。これまでの10シーズンで、布がふんだんにあしらわれ、表面に様々な装飾が施された、重みを感じる彫刻のようなルックなど、パワフルな服作りで限界に挑んできた川久保玲。しかし突如として発表された声明文によると、そのようなアプローチはもう新しくない、と彼女は悟ったらしい。川久保玲は内面を見つめることを選んだのだ。「これからのComme des Garçonsが目指すのは、外見からはっきりわかるデザインや表現ではなく、内面、奥深くにあるものをデザインすることです」。ブランドの主軸となるスタッフはいるものの、川久保玲は今もComme des Garçons唯一のデザイナーだ。その重責は計り知れず、切り裂かれたブレザーコートの肩にも重くのしかかる。

現代において、私たちの内面はしばしば偽られ、覆い隠される。不都合な真実が公になったり(ブレット・カバノー氏の公聴会の中継や報道によってショーが中断された)、SNSでプライベートを公開しているいっぽう、私たちの内なる自己は、今までになく不可侵なものとなった。その下腹部の〈縫い目〉を切り開くことによって、川久保玲は私たちの思考を鈍らせているものを暴いたのだ。

テーラードジャケットのサイドシームからのぞく、腰から尻にかけて張り出した球根のようなボトムスは、川久保玲の1997年の〈Lumps and Bumps(直訳:腫れ物)〉コレクションを彷彿とさせる。しかし、そのカーブはもっと緩やかで、私たちを驚かせるというより、見覚えのある何かを連想させる形だ。私たちはみんな共感を覚えたはずだ。私たちには、腰や腹だけでなく、心にものしかかる重荷がある。袖口からチェーンが垂れ下がる、タトゥーのようなボディスーツもそれを物語っていた。何が女性を縛っているのだろう。仕事? 家族? 外見への過度な期待? それとも、それら全てをもたなくてはいけないというプレッシャー? 腹部に意味を宿していながらも、触れたり身に付けたりできる衣服を通じて、川久保玲はこのような疑問を投げかけている。

業界を牽引する女性が減っている現状が嘆かれているファッションウィークで、川久保玲はそれを再確認し、手綱を取り戻し、自身をさらけだすことで、今までになく重要性を増した普遍的な真実を明らかにした。彼女の声明文は次のように締めくくられる。「暗闇のなかを手探りで前に進むのは危険です。でも、Comme des Garçonsはそうするべきだ、と私は信じています」。今回Comme des Garçonsが成し遂げたように、なぜもっと多くのデザイナーが手探りで前に進み、人びとを啓蒙する道を切り拓かないのか、と疑問に思うかもしれない。ただ、繰り返しになるが、川久保玲は常にひとりで闘ってきた。そしてファッション事業の新たな運営手法を生み出し、おのずと創造性が低下しつつあったブランドを立て直したのだ。

This article originally appeared on i-D UK.

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