Photography Tom Emmerson

NYで遊ぶ女性スケーターたちの日常と友情 映画『スケート・キッチン』

サンダンス映画祭で上映された、スケートシーンの性差別の現実とスケーターたちの絆を描く『スケート・キッチン』。クリスタル・モーゼル監督と本作に出演したスケートクルー〈The Skate Kitchen〉のメンバーに話を聞いた。

by Ryan White; translated by Nozomi Otaki
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31 October 2018, 6:57am

Photography Tom Emmerson

「ねえ、あのスケボーの映画に出てたでしょ!」と『スケート・キッチン』の主演俳優たちは、最近よく声をかけられるという。実在のスケートクルー〈The Skate Kitchen〉を中心とする劇映画は、ここ数ヶ月で、私生活でも友人同士のキャストたちを、地元の有名人から世界的なスケート・スターの座へと押し上げた。「電車で誰かがこの映画の話を始めると、知り合いでもない別の乗客が『なあ、俺もその映画観たよ』と話しかけたりする」とニナ。「それを見てヤバいなって思ったんです」

ここはロンドン中心部の映画館の控え室。本作に出演したディディ、カブリナ、ニナ、アジャニーが私の前に座っている。彼女たちが経験を積んだ俳優でないことはすぐにわかるだろう。携帯をいじりながらソファでくつろぐ4人の無頓着でくだけた様子は、現実世界でもスクリーンのなかでも同じだ。右隣の椅子に座るクリスタル・モーゼル監督は、時折「みんな!」と呼びかけて注意を引き戻そうとしたが、彼女たちはインタビューにあまり興味がないらしい。

「自分たちの記事はいっさい読んでません。駄作といわれても気にしないし、面白いと思ったひとは直接伝えてくれるので」とアジャニー。「もし自分のことを悪く書かれたとして、どうすればいいんですか? 誰かにメールしてもらって修正させる? そもそもそのメールは読んでもらえる? 私には自分を表現できる自分だけのプラットフォームがあるから、もっと私のことを知りたいなら情報源を確かめればいい」。〈情報源〉とはもちろんInstagramのことだ。劇中と同じように、4人はしきりに画面をスワイプしては腕を伸ばし、見つけたばかりのスケートビデオを披露し合っていた。

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Kabrina

今回のように、映画で本人役を演じたひとをインタビューするたびに、まるで役になりきっている俳優を取材しているような、不思議な気分になる。例えばニナは、彼女が演じたカートそのひとだった。振る舞いもユーモアもファッションもほぼ同じだ。クールで、ドラッグ常習者のように無気力で、落ち着き払った、典型的なニューヨークのスケーターだ。劇中でカートが初登場するのは、チームに所属していないカミールが初めてスケートパークを訪れたさい、カートがジャネイに向かって「ねえジャネイ! さっきあの子にアソコをまさぐられた!」と叫ぶシーンだ。カミールを演じたレイチェルはロングアイランド出身で、インタビュー当日はニューヨークにいた。

ディディは「彼女が演じたジャネイよりずっと面白くてお調子者」、と監督は説明する。劇中と同様、実生活でも友人をカメラで撮影しているカブリナは、「何でも撮る女の子」と街なかでよく声をかけられるという。「そのカメラ知ってる、『スケート・キッチン』に出てたでしょ、っていわれます」

本作を制作する前、モーゼル監督の代表作といえば、サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門でグランプリを受賞した『The Wolfpack』(2015、日本未公開)だった。マンハッタンのローワーイーストサイドで、外界から隔離され自宅学習で育てられた7人兄弟を追った作品だ。監督は同作で、子どもたちが信心深い両親の〈外に出るな〉という命令に背き、徐々に教えに逆らい始める姿をとらえた。監督はある日偶然、1番街でこの兄弟に出くわしたという。それと同様に、監督がスケート・キッチンを知ったのも、地下鉄でニナとレイチェルに出会ったのがきっかけだった。

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Dede

「クリスタルが近づいてきて、ショートフィルムをいっしょにつくらないか、って声をかけられたんです」とニナ。「『いいね、面白そう』ってアドレスを教えて、次に会ったときに、Miu Miuというブランドのための映像をつくりたい、といわれました。『メンバーは他にもいるの?』って訊かれたので他にも女の子のスケーターを紹介して、みんなでクリスタルといっしょに出かけました。そのときつくったショートフィルムのウケが良かったから、長編映画をつくったんです」

〈ウケが良かった〉どころじゃない、とアジャニーは付け加えた。「良い反応ばかりだった」と彼女は今年のサンダンス映画祭での上映を振り返る。「女の子だけで、多様性があって、しかもファッショナブルなスケートクルーを、みんなすごく気に入ってくれました」

今回、モーゼル監督は『The Wolfpack』のようにただ日常を傍観するのではなく、彼女たちの生活についての脚本を書き、Miu Miuのショートフィルムのようなフィクションを撮ろうと考えた。しかし、その脚本は全て実生活に基づいている。「メンバーと出かけて話を聞き、会話を書き留めました」と監督。「彼女たちからの情報がすごく役立ちました。みんないろんなアイデアを持っていたので。1週間の出来事を話してもらったり、私たちがいっしょに体験したことも取り入れています」

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この映画は「部分的には」事実に忠実だ、とディディはいう。「スケートパークのエネルギーとか、私たちの友情はかなり正確に描かれてる。いつもいっしょにいる仲間とつくったから、実際の出来事とはちょっと違ったとしても、リアルに感じられるんです」

事実に忠実か否かはさておき、『スケート・キッチン』はこれまで数々のスケボー映画が描けなかった場所、時代、世代の真実を見事に描写してみせた。スケートボードについてだけではない。ニューヨーク、Instagram、ドラッグ、女の友情、セクシュアリティ、家族との関係、ユースカルチャー、これらすべてにまつわる真実を描いている。

その良い例が、レイチェルがめちゃくちゃなナイトライフの洗礼を受けるパーティの場面だ。騒がしく大荒れのシーンだが、19歳の若者たちのパーティでの体験を、無理につくりあげたわけでも誇張しているわけでもない。盛り上がりが最高潮に達した瞬間をとらえているだけだ。実際に友人を大勢集めてパーティを開いたからこそ生まれたエネルギーだ。「会場にいたのは知り合いか、知り合いの知り合いだけでした」とニナは明かす。「この街の限られた仲間が集まりました。私たちが準備したんですが、みんなが来ちゃったから、本当にパーティが始まってしまって。私たちが大騒ぎしたんじゃなくて、自然と盛り上がっちゃったんです」。これは今に始まったことではない、とモーゼル監督は指摘する。「私がニューヨークに来た1998年も、若者は同じようにブルックリンでバカ騒ぎしてましたよ」

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Nina

街で気づかれるようになった以外、彼女たちがスケートパークで過ごす時間は変わっていない。「『ハリウッド女優だ!』なんて冷やかされても、私はきっぱり否定します」とディディ。「誰にもキャーキャーいわれないし。みんな、映画に出る前から私たちのことを知ってるから」

『スケート・キッチン』は現代的な作品で、ノスタルジックな90年代のラリー・クラーク的手法に頼らずストーリーに命を吹きこんでいる。しかし、2018年になっても女性スケーターへの偏見はなお存在し、本作はこの問題を細やかに描写している。スケートスポットを共有する彼女たちと男性だけのスケートクルー、両者間の対立や亀裂が、脱力感が漂う物語に大きく影響する。そこで登場するのがメインキャスト唯一のプロの俳優、ジェイデン・スミスだ。

彼女たちが先駆者となったおかげで、現実世界も変わりつつあるが、それでもまだ努力は必要だ。「女性スケーターは前よりも受け入れられるようになった」とディディ。「スケートシーンに加わって自分の居場所をつくり、『何といわれようと私はここにいる』といえば、リスペクトしてもらえるはず。最初にどう振る舞うかで全てが決まります。特にニューヨークでは自信を持つことが大切。打ち解けさえすればフレンドリーな場所だし、周りからも一目置かれるようになります」

アジャニーもこう言明する。「スケートボードを始めたばかりの頃、パークで滑るひとりの女の子を見て、あの子は私たちの仲間だ、と思った。今では女の子にとっても男の子にとっても、女性スケーターは当たり前の存在になってきています」

女性でも男性でもどちらでもなくても、「なかに入ってもビクビクしてればすぐに追い出される」とディディは一蹴する。彼女たちのいう通り、恐れを知らない者だけが〈スケート・キッチン〉に仲間入りできるのだ。

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Ajani
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Crystal Moselle
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映画『スケート・キッチン』は、5/10(金)より 渋谷シネクイントほかにて公開。

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This article originally appeared on i-D UK.

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