ロンドン・ファッションウィークに帰ってきたクラブ感

ロンドン・ファッションウィークで次々に発表された各ブランドの2017年春夏コレクション。新たな世代の気鋭デザイナーたちがファッションの底抜けな楽しさを復活させ、それにメガブランドが続いた。

|
sep 26 2016, 1:30am

molly goddard spring/summer 17

ニューヨーク・ファッションウィークは、Marc Jacobsのノスタルジア漂うクラブキッズ讃歌のランウェイショーで幕を閉じた。世界に同時発生したクラブ文化のスピリットが見事に蘇ったようなショーだったが、そのスピリットはロンドンにも及んでいた。チュチュの女王モリー・ゴダード(Molly Goddard)は、ランウェイのスタート地点にモデルたちを配してレイヴ会場さながらの演出を打ち出した。ティーンの頃に憧れた壮大なファッション業界をレイヴに見立てたのだ。「世界は惨めなものでしょう?だから、ファッションだけでも楽しくと思うわけよ。お金も使いたい放題で、バカバカしいまでのことができた時代のショーをよく見るの。それをこのショーでも再現してみたかった——予算の規模がまったく違うけど」とゴダードは、スピタルフィールズ・マーケットを会場にイギリスファッション協会が開催した「NewGen」ショーのバックステージでそう言い、微笑んだ。

Molly Goddard spring/summer 17

「このコレクションは『遊びに出るティーンの私』がテーマ。あの頃は、みんなが、他の人たちと違う服装をしていかに周りから抜きん出るかを考えていたわ。自分たちで洋服を作って、カスタマイズもしたりして——ひとと同じなんてイヤだった」。この言葉は、ゴダードが作り出した軽さと可愛さの世界観を如実に物語っている。例えば、ところどころに大きくホールを配したオレンジ色のゆったりしたワンジーの上にパウダーグレーの透明なチュール調ドレスを重ねたスタイルや、半裸の上半身にノスタルジックなフォルムのパンツを合わせた上からロイヤルパープルのフリルが覆うスタイルなどは、ゴダードならではの世界観だ。そこには、彼女が述べていたような、往年のファッションショーへのノスタルジアを楽しむような力が感じられた。「往年のファッションショー」とはいっても、Thierry MuglerやJean-Paul Gaultier、John Gallianoなど、当時大きな話題を呼んだ大規模なショーを指しているわけではない。10年前、自然史博物館にテントを張り、Gareth Pughが開いたショーがロックコンサートさながらだった、あの時代のロンドン・ファッションウィーク——この街のファッション業界が今ほど理路整然としていなかったあの時代、女性らしさをことさら強調するプレッシャーもなかった、あの時代感を、ゴダードは懐かしんでいるのだ。

Molly Goddard spring/summer 17

「ショーは楽しくもなりうるんだということを見せたかった。見ていて楽しくないショーってあるでしょう?」とゴダードは話した。そしてすぐに「いや、言い方が悪かったわね」と他の言葉を探した。だが、他の表現を探す必要などない。彼女の言う通りなのだ。ゴダードをはじめ、若い世代のロンドンデザイナーたちは、少しずつではあるが着実に、ロンドンファッションにかつての狂気を呼び戻そうとしている。全体主義的に中流階級化されているロンドンという街自体に、「もっと楽しくいきましょうよ」とけしかけるように。

Matty Bovan spring/summer 17

Ashley Williams、Mimi Wade、Paula Knorr、Marta Jakubowski、Sadie Williams、Shrimps、Ryan Lo、そしてMatty Bowanらが、ロンドン・ファッションウィーク開催から2日間におよび、ロンドン狂気のマジックを次々に繰り出してくれた。土曜の朝にFashion East主催のショーの一部としてコレクションを発表したMatty Bowanは、女の子向けのおもちゃ「マイリトルポニー」さながらの世界観で見るものを圧倒した。そこには、今ではもう絶滅してしまったクラブキッズがまだイキイキとしていた10年前、アンダーグラウンドシーンがInstagramに殺されてしまうようなことなど誰も想像しなかった10年前の、この街のファッションシーンが感じられた。

House of Holland spring/summer 17

現在はファッション業界の歯車の一部となっているGareth PughやHenry Hollandでさえも、まだ自分たちが小さくもパワフルな新進気鋭デザイナーのグループの一員としてロンドンファッション界に新風を送り込んでいた10年前を彷彿とさせるコレクションを発表した。Henry Hollandは10年前、スローガンTシャツ満載のコレクションを発表し、当時創刊間もなかったファッション週刊誌『Grazia』がこれに数ページを割いて特集を組んだ。今季コレクションでHenry Hollandはそのコレクションを彷彿とさせるスローガンTシャツを多数発表。なかには「モリー・ゴダードを見ていると興奮する(You make me hard, Molly Goddard)」などと書かれたTシャツもあった。一方のGareth Pughは、ショーの最後にビジュアルアーティスト、マシュー・ストーンのTシャツを着て登場。そこには「楽観——それは、クリエイティブな反乱(Optimism as creative rebellion)」と書かれていた。

Gareth Pugh spring/summer 17

Simone Rochaは、デビュー後間もなくファッション業界への参入を果たしたブランドだが、そのガーリーで感情に訴えるデザインのコードと価値観をもって、彼女は新世代ロンドンデザイナーを代表する存在となっている。今季、彼女は写真家ジャッキー・ニッカーソン(Jackie Nickerson)が撮った牧場の女性の写真にインスピレーションを受けたというコレクションをロンドンのサウスワーク教会で開催した。アイルランドのナショナル・ギャラリーにて大御所ペインターたちの作品に混じり展示されていたニッカーソンの写真に感銘を受けたのだそうだ。

Simone Rocha spring/summer 17

ニッカーソンの写真と並列されていた油絵の作者のひとりは、ウィリアム・ジョン・リーチ(William John Leech)。彼が描いたカトリック系学校の女子生徒が、今回のSimone Rochaコレクション最大のインスピレーションとなったという。化繊と自然素材の風合いを融合した服にイギリス刺繍を多用し、破壊因子的なミックスとなったこのコレクションは、仄暗い教会のなか、少し卑猥にさえ見えた。なんともロンドンらしい。Simone Rochaが描いた女の子たちは、教会にもクラブにも同様に場馴れした印象を与えた。ベラ・ハディッドがオープニングを務めたドナテッラ・ヴェルサーチによるVersusのショーを食い入るように観ていた人気歌手のゼイン・マリクやジジ・ハディッド——彼らを見ていると、Simone Rochaガールたちのクラブナイトが容易に想像できた。Versusのショーは大々的にロンドンを意識したものではなかったものの、それでもその底抜けに愉快なショーは、ロンドンが今でもユース特有の楽しい力にみなぎる都市として評価されているのだと再認識するには十分だった。

Simone Rocha spring/summer 17

Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.