Louis Vuittonとアフリカの伝統衣装をリミックスする男

パリのColetteで初のショーケース開催を予定している写真家ハッサン・ハジャジ。彼はプラスチックのマットから空き缶、地元マーケットで安く手にいれたプロップまで、ありとあらゆるものを使ってアフリカをカラフルに表現したポートレイトを撮り続けている。

by Sarah Moroz
|
05 October 2016, 7:10am

ハッサン・ハジャジ(Hassan Hajjaj)は、人物であろうとファッションであろうと、被写体にみなぎるエネルギーと自信を写真に捉えるフォトグラファーだ。彼の作品はどれも、ファッションフォトグラフィーとポートレイトを融合した世界に、アフリカが染み渡っている。モロッコに生まれ、現在はロンドンとマラケシュを行き来する生活を送っているハジャジの作品には、それらふたつの異なる文化の影響が見られる。被写体に選ぶのは、彼が直接的に知る友人や家族で皆、クリエイティブな人々ばかりだ。今年4月に行った1日だけの撮影で完成したという本シリーズ。作品のなかに見る被写体のいきいきとしたエネルギーは、撮影現場へふんだんに持ち込まれた食べ物と音楽によるものだろう(「ちょっとしたパーティーみたいになったんだ!」とハジャジはいう)。ラックに掛けられた服を次から次へと被写体に着せ、そこにカラフルなソックスやハット、サングラスなどハジャジが地元のマーケットで安く手にいれた小物を合わせて捉えた写真を、ハジャジのデザインが引き立てる。フォトフレームもまた、彼の世界観に職人芸の香りと奥行きを与え、ハジャジ作品をハジャジ作品たらしめるのに一役買っている。そして、手織りのプラスチックマットや空きカン、引き伸ばされて表面にペイントを施したタイヤといった小道具が、これらのポートレイト作品にさらに独特な素材感を生んでいる。

パリのColetteで開かれた自身初となるショーケース『Stylin'』で、ハジャジはオリジナルの陶器に加え、Reebokとのコラボレーションでユニセックスのスニーカー(9月発売予定)、そしてアフリカ人ミュージシャンたちの図像を大胆に配したリバーシブルのシルクジャケットなども手掛けた。ハジャジは、これまでになくフランスに受け容れられていると感じているという。「モロッコ人とフランス人の間には、『トム&ジェリー』的な関係性がある」と、ハジャジはモロッコがフランスの植民地であった歴史に触れて語る。Colette以外では、アメリカのメンフィスにあるブルックス美術館での個展や、ロンドンのカムデン・アーツ・センターでデザイナーのデュロ・オロウ(Duro Olowu)がキュレーションを手掛けるグループ展への参加が予定されているハジャジ。ラマダンのため断食中であるにもかかわらず、温かく社交的でイキイキとした彼に、伝統装束をリミックスすることについて、ふたつの異なる文化のあいだに生きることについて、そして写真の被写体とコネクトすることへの渇望について聞いた。

写真と服飾デザイン、そして陶器と、あなたの活動は多岐にわたりますが、最初に興味を持ったのはどれだったのでしょうか?
「卵が先か、鶏が先か」ということだね。僕はもともとアーティストとして活動を始めたわけじゃなかったけど、幸いなことに幼い頃からミュージシャンや写真家の友達に囲まれて育ったんだ。写真はただの趣味だった。1980年代には、趣味で写真を撮り続けながら、ロンドンのコヴェント・ガーデンに小さなブティックを開いたんだ。そこにDJやバンドを呼んで——夜はイベントを催したものだよ。昼から店内を装飾したりしてね。アシスタントスタイリストとして、ミュージックビデオの制作にたずさわったりもしたよ。フォトグラファーとしての活動を本格的に始めたとき、そういった経験がすべて役に立ったんだ。様々なことを手当たり次第にやっていた当時は、ただがむしゃらにすべてをこなしていただけだったけど、今ではあの時期を"学びの時期"だったと感じているよ。
1984年に、R.A.P.というレーベルとショップを立ち上げた。僕はテクニカルなデザイナーじゃなく、ただ生地を見つけて、スケッチをして、その通りに縫ってもらうだけ。そういう服作りしか知らなかった。自分のショップのためだけに服を作っていたんだよ。それがどういう経緯でか、僕の友人でファッションデザイナーのアミネ・ベンドリオイシュ(Amine Bendriouich)とColette用にアフリカン生地で作ったボマージャケットを12種作ったり、チュニジアでファッションウィークに参加するようになった。Reebokとのコラボレーションに関しては、デザイナーの友達から紹介を受けて、秋物のデザインも手掛けることも決まっているんだ。

あなたはロンドンとマラケシュを行き来して生活しているわけですが、どうやって2つの文化間でバランスを保っているのですか?スタイルに関しては、それがどう影響しているのでしょうか?
生まれたのはモロッコで、13歳のときに引っ越したんだ。1993年には娘が誕生して、それからは半年をマラケシュ、残りの半年をロンドンで過ごしてる。どちらの街にいても、僕は外国人だよ。ロンドンでも外国人、マラケシュでは、海外に住んでいるモロッコ人と認識される。だから、心地よく感じられる場所は自分で見つけなければならなかったんだ。
モロッコでは、日常着に伝統が色濃く受け継がれている。ロンドンはより国際的だよね。モロッコで写真を撮るときには、伝統的なアイテムをたくさん使いながらヒップな世界観を出そうといつも考えているんだ。西洋文化では、ガウンを羽織った男がいたら、「それはドレスだろ」と言われる。でもモロッコの文化では、それはドレスじゃないんだ。それをどう写真で捉えればよいのか——アフリカの伝統に、西洋の視点を取り入れるんだ。間に立って、西洋に自国文化を見せてあげるための鍵穴になるんだ。僕がアフリカの伝統服飾アイテムにLouis Vuittonのアイテムを合わせたりするのはそれが理由なんだよ。西洋文化の視点からのほうがコミュニケーションが取りやすいんだ。ブランドはもはや脅威じゃなくて、平和なスペースなんだ。イスラムでもアラブでもない。純粋にファッションなんだよ。

人々に伝統的な服飾要素を深く理解してもらうためにはブランドの知名度をそこに利用しなければならないと感じていますか?
いや、まったくだね。自然とそうなったんだ。でもそうなってくれてよかったと思う。今、僕たちはブランド世界に生きているからね。世の中はブランドに溢れている。それが今という時代なんだ。
どんな文化にもスタイルと伝統がある。多くの人々には、それがただのアフリカンプリントとしてしか認識されない。でもよく見てみると、そこには様々なものが織り込まれている——ただのアフリカンプリント生地に見えるものも、たくさんの工程を経てそこにあるわけで。クチュール的なのかもしれないね。外で生地を見つけて、それを地元のお店に持っていって服を作ってもらうという流れがね。クチュールそのものだよね。
ロンドンには、さまざまな国の出身の友達が大勢いるんだけど、「何か伝統的なものを持っていないかな?」と訊くと、全員が「持ってる」って言うんだ。結婚式で着た服とか、お母さんがくれたものとかね。そこで僕は、そういった伝統的なアイテムを着た彼らを写真に撮らせてほしいと提案したんだ。サリーなんて、よく見てみると「それをどう纏うか」「どれだけ肌を見せるか」という服なんだということが解る。僕は若い世代にも、伝統へのルーツを持ってもらいたいんだ。そういうトレンドが実現するといいなと思う。

好きな写真家は?あなたの世界観を形成する過程で大きな影響を与えた写真家はいますか?
フォトグラフィーを勉強したわけではないけれど、雑誌や本を読むのは好きだったんだ。マリック・シディベ(Malik Sidibe)には大きな影響を受けたね。デヴィッド・ラシャペル(Dave LaChapelle)は、誰とも違う視点からファッションを表現してきたフォトグラファーだと思う。ニック・ナイトも、リチャード・ゴードン(Richard Gordon)も好きだね。ウィリアム・クラインも——ウィリアム・クラインのネオンライト作品は素晴らしい。

ポートレイトばかり今後も撮り続けるのでしょうか?
そうだね。僕は写真を通して自分を表現しているんだ。「ジュエリーを撮ってくれ」という依頼なら、他をあたったほうがいい。写真を撮るということに関して、僕は何も約束したくないんだ。仕事では失敗がゆるされないだろう?僕は失敗してもいいという環境でしか写真は撮りたくない。僕自身のために撮る写真なら、10ページものだなんだというプレッシャーはない。4ページならできるかな……そういうことなんだ。僕が大切にしているのは、被写体との繋がりなんだよ。それがやり甲斐なんだよね。美じゃなく、そこにあるエネルギーを捉えたいんだよ。

Stylin' by Hassan Hajjaj: exhibition on view at Colette in Paris through August 27.

Credits


Text Sarah Moroz
Photography Hassan Hajjaj
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

Tagged:
Culture
Photography
Colette
Hassan Hajjaj
fashion interviews