Photography Oliver Hadlee Pearch. Styling Carlos Nazario. All clothing Saint Laurent By Anthony Vaccarello. Glasses No.21. Earring Emanuele Bicocchi. Shoes Sankuanz.

オクタヴィアン interview:ドレイク、ヴァージル、スケプタに気に入られたみずがめ座の男

ロンドンのジャンルレスなラップシーンに登場した、もっともエキサイティングかつ独創的なラッパー、オクタヴィアン。ストリート出身の彼が、チャートを席巻し、ヴァージル・アブローに誘われてLouis Vuittonのランウェイを歩き、スケプタとコラボするようになるまで。

by Frankie Dunn; translated by Ai Nakayama
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27 June 2019, 7:08am

Photography Oliver Hadlee Pearch. Styling Carlos Nazario. All clothing Saint Laurent By Anthony Vaccarello. Glasses No.21. Earring Emanuele Bicocchi. Shoes Sankuanz.

ある雨の午後、キングス・クロスのレストランのカウンター席にて、オクタヴィアン(Octavian)はホットチョコレートを飲みながら私に「星座は?」と尋ねた。「俺はみずがめ座。いちばん独創的で、変人で、頑固で、先駆者的な星座だよ。でも半分はやぎ座なんだよね、俺の誕生日はちょうどカスプで。だから半分カルトリーダーってわけ」。彼が星座にハマったきっかけは、今彼の横に座り、彼の肩に頭を預けているガールフレンドだ。「めちゃくちゃ当たってるよ」と彼は特徴的な、かすれた声で叫ぶ。「星座って、人間をより良く知るため、そして前進するため、戦略を立てるための一助になる。相手の星座がわかれば、そのひとにどう接すればいいかも簡単にわかる」

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Coat Raf Simons. Jacket and Trousers Boss. Shirt and tie Celine by Hedi Slimane. Earring Emanuele Bicocchi.

オクタヴィアンは、バースツールに座って勢いよくくるくると回っている。現在23歳だが、73歳くらいの気分だという。彼の人生は実にめまぐるしい。彼はフランスで生まれたが3歳のときに母親と南ロンドンに移住し、その10年後、フランスの街、リールに暮らすおじの元に2年間預けられた(そこでは、学校で唯一の黒人だった)。「怒れる子ども」だった彼は15歳のときに母親に家を追い出され、10代の終わりまでホームレス生活が続いた。短いあいだ公営住宅に暮らしたが、その後すぐ、ロンドン、ブライトン、サウザンプトンなど、いろいろな家を転々とする。

「マジで、全部みてきたって感じ。30歳以上のひとたちとも話すけど、みんな、自分のやりたいことも、行きたい場所もわかってない。そんな大人たちが俺にアドバイスを求めてくるんだよ。たぶん、俺が30歳になる頃には、脳内は155歳くらいになってるかも。いや本気で」。自分にいろんなタイプの人間、音楽、カルチャーへの順応性が育まれたのは、これまでのライフスタイルのおかげかも、と彼は推測する。「いろんな人間が混ざり合って、俺という人間がかたちづくられてる」

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Jacket and jeans Martine Rose. Shirt and tie Celine by Hedi Slimane.

そのようなギリギリの生活を送っていたオクタヴィアンの人生を変えたのは、音楽の道を志して入学した、ブリット・スクール(The BRIT School)のコミュニティアートコースだった。ミュージカルは性に合わないことがわかり、結局中退するのだが、同校でジョーダン・クリスティ(別名J Rick)と出会い、ふたりで音楽制作を開始。オクタヴィアンのブレイクのきっかけとなった2017年のシングル「Party Here」のプロデュースを手がけたのもJ Rickだ。

オクタヴィアンは「Party Here」でリリシストとしての卓越した才能を発揮しただけでなく、ラップとメロディラインの歌唱、ダンスホールとR&B、そしてグライムとレイヴを自在に行き来する。〈You’re gonna blow, it’s just timing(お前は成功する/タイミングの問題だ)〉と歌うフックは、今のオクタヴィアンが実現した大きな夢を予言していた。

友人たちに制作/出演してもらい、50ポンド(約7000円)でつくったこの曲のMVを目に留めたドレイクが、2018年1月、ゴールデングローブ賞授賞式のアフターパーティでこの曲を歌っている様子を動画に撮られたことをきっかけに、オクタヴィアンの大躍進が始まる。

英国ヒップホップのウェービーなニュースクールを代表する存在として、オクタヴィアンは、さまざまなアーティストたちを団結させ、彼の意志のもとでみんなをひとつにするような、ロンドン全土を巻き込む音楽プロジェクトを夢見ていた。この1年、彼の人生は原形をとどめないほどに大きく変化した。

「まず、友人たちと暮らすのをやめた。ひとり暮らししてる。前はいつもパーティばっかして、ぐでんぐでんだったけど、今はだいぶ落ち着いた。たくさん水を飲んでる。あとホットチョコレート。昔はほんとヒドいもんだった。いかにもロックスター的な生活。でも今は音楽に集中してる。落ち着いてて良い感じだよ」

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All clothing Berluti. Crown custom made by Juan Heredia. Boots Y/Project.

2018年9月にはBlack Butter Recordsからデビューアルバム『SPACEMAN』をリリース。それからまもなくして、英国の音楽業界関係者が選出する新人リスト〈BBC Sound of 2019〉で1位を獲得。そのまま休むことなく、2019年に入るとスケプタとマイケル・ファントムをフィーチャーしたキャッチーなシングル「Bet」を発表。

「初めてスケプタに会ったのは14歳のとき」とオクタヴィアンは回想する。「俺たちはSupremeの店の前にいた。俺はスピーカーを持ってたから、彼に近づいて、『曲を聴いてもらってもいいですか?』って訊いたんだ。答えはノーだった。とにかく彼はずっと、俺のアイドルのひとりだった。いっしょに『Bet』をつくってたとき、彼の頭のなかをのぞかせてもらった。彼は天才だよ。それにすごく面倒見も良い。彼が世間に与えている印象とは真逆」

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Octavian wears all clothing Givenchy.

オクタヴィアンは現在セカンドアルバムを制作中だ。「めちゃくちゃ変な」作品になる、と彼はいう。その理由のひとつは、アルバムの一部を、去年LAでマジックマッシュルームをやりながらつくったからだろう。彼は今、LAへの移住を検討中だ。「最高だった。俺の友だちも裸になったプロデューサーたちも俺の家に来て、みんなでマッシュルームをやりながら、最高のトラックをつくった。『これやべーな』とかいいながら」

「LAのやつらはみんな、ロンドンに暮らしたかったっていうんだ。だから俺がLAに行くと、いちばんクールなやつになれるんだよ」と彼はおもしろい体験を語る。セカンドアルバムに関しては、リスナーからどんな反応が返ってくるかわからないという。「とにかく変な作品だから。ガチで変。ヒップホップやラップの曲もあれば、R&Bもあるし、ジェームス・ブレイク的なピアノ曲もある。俺もギター弾いてるし」

現在は、自分のなかの感情から、「80年代、『グッドフェローズ』みたいなひと昔前の映画、あとはスーツとシャツを着る、みたいな昔の生きかた」まで、すべての物事がインスピレーションになっているという。

2019年秋冬コレクションで、オクタヴィアンはヴァージル・アブローに依頼され、Louis Vuittonのランウェイショーを歩いた。彼は、何を考えながら歩いていたのだろうか。「まあ、カニエ・ウエストがそこにいるなあとか、ファッキン・カーダシアンファミリー全員とトラヴィス・スコットと赤ちゃんがみてるなあとか。わかるだろ、とにかく全員いたんだよ、そこに」ヴァージルは自分と同じように、夢を現実にしようと奮闘している仲間だと気づいた、と彼はいう。

「ヴァージルはめちゃくちゃにヤバいやつだった。彼と話をしても、何をいってるかこっちは全然わかんないんだ。ヴァージルは誰よりも先を行ってるから。未来から来たのかも。別世界と接触してると思う。彼のアイデアは別世界から来てるね。『マトリックス』みたいな。でも、きっともっと宇宙とつながれば、常にそんな感じなんだと思う。ヴァージルみたいなひとたちってそうなんだよ。魔法だね」

オクタヴィアンがインポスター症候群(周囲から評価されても自信が持てない傾向)とは無縁なのも不思議ではないだろう。彼には、自分がやりたいことは何でもできる、という強い信念がある。誰だって、自らの内側にあるものを駆使して、どんな状況からも抜け出せると信じているのだ。

「俺はここにいる価値がある」とオクタヴィアン。「ブリット・スクールに通ったけど、うまくいかなかった。それでもここに立っているってことはつまり、俺はこの世界から、神様からここにいる資格をもらってるってこと」。今の彼には家があり、ベッドがあり、愛がある。彼はそれを誇りに思うという。

しかし、それに満足していなくてよかった、とも語る。「俺のコップは半分いっぱいで、半分からっぽだと思ってる。そのことに感謝はしてる。だけど同時に、不充分だとも思ってる。ハングリーでいないと」。オクタヴィアンは、前歯の隙間にフィットするようにカスタムメイドでつくったゴールドのグリルに触れた。「昔から、すきっ歯は幸運を運んでくれるっていわれてた。すきっ歯だから金持ちになれるよ、って」と笑う。「俺は『だよね、知ってる』って答える」

「俺は億万長者になる。絶対に」とオクタヴィアンは断言する。「わかるんだよ。自分がラッパーになるのもわかってた。こんなふうになるのもわかってた。億万長者になるのもわかってる。あまりに途方もない夢にも思えるし、無意識下にいるもうひとりの俺は『黙っとけよ、オクタヴィアン!』ってたしなめてくるけど、俺がストリートで暮らしてたときの前例がある。だから、何度も言い続ければ、いつか叶うと思ってる」

私たちにもわかる。きっと彼はこの夢を実現するだろう。

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All clothing and sunglasses Celine by Hedi Simane. Earring Emanuele Bicocchi.
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Coat Wales Bonner. Jumpsuit MCM. Shirt and Tie Celine by Hedi Slimane. Boots Y/Project.

This story originally appeared in i-D's The Voice of a Generation Issue, no. 356, Summer 2019.