Photography Vanessa Ifediora 

アイルランド語のイメージを塗り替えるヒップホップトリオ、KNEECAP

2017年に北アイルランドの音楽シーンに登場して以来、KNEECAPは、賛否を巻き起こすパフォーマンス、挑発的なリリック、臆することのないバイリンガリズムで、熱狂的なファン層を築いてきた。

by Roisin Lanigan; translated by Nozomi Otaki
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05 July 2019, 5:59am

Photography Vanessa Ifediora 

かつてのアイルランドの音楽シーンは、決して多様性に富んでいるとはいえなかった。英国か米国のアクセントでアコースティックのラブソングを歌う4〜5人組のインディバンドが席巻しているシーンに、そこまで魅力は感じられなかった。しかしここ数年で、アイルランドの音楽、特にラップやヒップホップシーンは、いまだかつてない急成長を遂げ、個性豊かなアーティストを次々に輩出している。

アイルランドでは、レジー・スノウ(本名:アレックス・エニビュナム/Alex Anyaegbunam)が世界的な人気を集め、iTunesチャートで何度も1位を獲得している。同じくダブリン出身でインディレーベル〈Soft Boy Records〉のメンバー、コジャーク(Kojaque)は、アイルランドの伝統的なデリカウンターをテーマとしたコンセプトアルバムで一躍有名になり、今年9月には国内ツアーを予定している。いっぽう、北アイルランドのシーンを牽引しているのが、数少ないベルファスト西部出身のヒップホップトリオ、KNEECAPだ。

モ・チャラ(Mo Chara)、モグリ・バップ(Móglaí Bap)、DJプロヴィ(Provaí)の3人がグループを結成したのは、パーティでの出会いがきっかけだった。現在は3人で作詞作曲を手がけているが、DJプロヴィは教師として働いているため、パフォーマンス担当はモ・チャラとモグリ・バップだ。結成からわずか2年で、ライブは完売御礼、地元のラジオ局からは出禁を食らっている。

彼らがアイルランドのヒップホップシーンで人気を博している他のアーティストと一線を画しているのは、KNEECAPがほぼアイルランド語だけでラップしていることだ。アイルランド語は少数民族言語として公式に認められているものの、2012年の国勢調査によると、北アイルランドでアイルランド語の知識が多少あるひとの割合は、わずか10.65%だった。しかしKNEECAPは、当分のあいだ英語詞に移行するつもりはないという。

「俺たちはいつもアイルランド語で会話してたから、その言葉で曲をつくるのが自然だと思った」とプロデューサー/作詞家/パフォーマーのモグリ・バップはいう。「特に深く考えたりもしなかった。第一言語なんだから、アイルランド語で曲をつくるのは当たり前だろ、って」

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モグリ・バップとモ・チャラが実体験を歌う「C.E.A.R.T.A」(アイルランド語で〈正しい〉の意)のヒットによって、KNEECAPの夢は、実現に向けて動き出した。本名を明かさず偽名でラッパーとして活動しているモグリは、2017年、ベルファストのシティセンターで壁にグラフィティを描いているところを私服警官に捕まった。

「俺たちは、自分たちに起こった出来事をありのままに書いてる」とモ・チャラ。「そのリリックを持ち寄って互いに披露し、出来栄えをチェックするんだ」

物議を醸すトピックを扱う曲への反応についても、彼らは特に悪びれた様子はなかった。今年2月、べルファストの〈Empire Music Hall〉で行われたライブで、曲が終わるとオーディエンスが「Brits Out(英国人は出てけ)」と叫び、民主統一党(DUP)のクリストファー・スタルフォード議員は、このパフォーマンスを「憎悪に満ちている」と評した。

さらにその晩のニュースでは、「ベルファストのバンドが、24時間前にウィリアム王子が訪れたばかりのベルファスト南部のバー〈Empire〉で、反英国的なスローガンを唱えたとして非難を浴びている。DUPも彼らを批判するコメントを発表した」と報じられた。しかしモグリは、この超保守政党からの批判を「それがDUPだから」と一蹴した。「彼らは毎週のように、新しい批判のターゲットを見つけるんだ」

KNEECAPが政治的な批判を受けたのは、これが初めてではない。彼らはアイルランドでも似たようなトラブルを経験している。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(University College Dublin)でのライブ中、3人はパフォーマンスに反対する警備員たちによって会場から追い出された。

また北アイルランドの公共ラジオ局〈アイルランド放送協会(RTÉ)〉も、KNEECAPがアイルランド語でラップしているにもかかわらず、リリックの内容が決して愛国的とはいえないことを知ったあと、彼らのラジオ出演を禁止した。

「まあ予想はしてたよ」とモグリは笑う。「これまでのアイルランド語楽曲は、みんなRTÉびいきだったけど、俺たちの曲は全く違うから。俺たちが初めて曲を公開したときは、地元の政治家たちがシェアして、『これがアイルランド語ラップか、すばらしい!』って褒めてた。でも、実際に曲を聴いたり、リリックを訳すひとは、ひとりもいなくて。誰もそこまで深く聴きこんでなかったから、『これはシェアしたらまずいんじゃないか』なんて思わなかったんだ」

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リリックだけをみれば、彼らは英語のラッパーと同じようなテーマを取り上げている。しかし、その内容を額面どおりに受け取るべきではない。「俺たちがパフォーマンスやリリックに本気で向き合ってるってことは、みんなに伝わってる。でも、THE RUBBERBANDITS(アイルランドのコメディ・ヒップホップデュオ)みたいなアーティストの存在があったからこそ、みんな俺たちのことを理解してくれた。彼らのおかげで、俺たちのキャラクターはすんなり受け入れられたんだ」とモグリは、挑発的なリリックや舞台上でのキャラクターへの批判とは距離を置いて語った。

「微妙なバランスなんだ。俺たちにはそれぞれキャラクターがある。難しいのは、キャラクターは別のところから生まれたものだけど、俺たちが書くリリックは、俺たちが知る現実に基づいてるってこと。これは風刺ともいえるし、そうじゃないともいえる。アートっていうのは未知のものから生まれるんだ。もっとマジになろうと思えばなれるけど、俺たちは物事にひねりを加えて遊んでみることにしてる。そうじゃないと北部の問題は、深刻になり過ぎるから」

KNEECAPが「Interlude」のMVで北アイルランドの民兵組織のイメージをインターネット・ミーム化していることは、この国の〈停戦ベイビー〉世代のユーモアを象徴している。彼らは1990〜2000年代に育った世代で、この国の暴力に塗れた歴史は記憶にないが、過去の問題を矮小化し、Twitter上で笑い飛ばそうとする。

KNEECAPは楽曲のなかで、〈ベルファスト西部の労働者階級の若者〉という自らのアイデンティティに対する世間の反感を鋭く風刺すると同時に、それを逆手にとっている。最近発表された「H.O.O.D.」の数少ない英語詞の一節で、彼らは繰り返しこう叫ぶ。〈俺はH.O.O.D/下層階級のクズ/俺はそんなふうに呼ばれてる〉。また前述の「Interlude」のMVでは、THE RUBBERBANDITSから着想を得て、反ドラッグを訴える偽善的な民兵組織のモノマネをしている。

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「この曲は、ユースカルチャーを誇張して表現しています」と指摘するのは、アイルランド語のウェブマガジン『Nós』の元エディター、トミ・オコネル(Tomaí Ó Conghaile)だ。「アイルランド語は非常に伝統的で、時代遅れの言語とされてきました。アイルランド語のラップやヒップホップの楽曲はたくさんありますが、これほど物議を醸した曲はありません」

批判の声は絶えないが、KNEECAPがアイルランド語に関する話題をかっさらい続けているのは確かだ。トミ・オコネルは、アイルランド音楽とアイルランド語が長らく時代遅れとされてきたというが、KNEECAPは、アイルランド語が必ずしも〈死にゆく言語〉ではないことを証明している。

この言語が連想させるのは、〈ゲールタハト(ゲール語使用地域)〉への雨のなかの旅や、アランセーターを着たフォークシンガーばかりではない。KNEECAPにとって、自身の第一言語であるアイルランド語でパフォーマンスをするのは当然であり、彼らが今、この時代に成功を手にしたのは、音楽業界のスタンダードとしての英語の地位が揺らぎつつあるからに他ならない。

2018年、全編スペイン語の楽曲にもかかわらず、ルイス・フォンシ(Luis Fonsi)の「Despacito」は、ビルボードチャートで16週連続1位に輝いた。今年5月には、大人気K-POPグループのBTSが、韓国アーティストとして初めてウェンブリー・スタジアムに立ち、チケットは瞬く間に完売した。彼らは以前、韓国のルーツを重んじることの大切さを声高に主張し、その結果、BTSのファン〈ARMY〉が大好きな曲の意味を理解できるよう翻訳する〈ファン翻訳者〉のサブカルチャーが生まれた。英語を基準とする言語の壁が、ポップカルチャーを分断していたのだとすれば、その壁がようやく崩れるときが来たのだろう。

「ひとつの話法や言語にこだわったって意味がない」とモグリは最後に主張した。「俺たちは常にひとつのものから別のものへと飛び移っている。言語っていうのは流動的なんだ。わかるだろ?」


Credits

Photography Vanessa Ifediora.

This article originally appeared on i-D UK.