Photography Mitchell Sams

水面を歩くモデルたち:Saint Laurent 2019ss

真っ白なヤシノキ、水の張られた真っ黒なランウェイ、きらめくエッフェル塔。その夜、パリはアンソニー・ヴァカレロとモデルたちのものだった。

by Steve Salter; translated by Nozomi Otaki
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okt 12 2018, 10:50am

Photography Mitchell Sams

イヴ・サンローランの膨大なアーカイブを新世代に向けて再解釈した、トロカデロ庭園でのSaint Laurent2018年春夏コレクションから1年。アンソニー・ヴァカレロが同じ会場に戻ってくるにあたり、今季は一体どんなショーを見せてくれるのか、観客の期待は高まっていた。ヴァンソン・ラムルーがデザインした真っ白なヤシノキが水を張ったランウェイ沿いに立ち並び、絵葉書のように美しいエッフェル塔の背景にさらなるドラマを添えている。水面に映るのは、アンソニー率いるチームが丹念につくりあげた世界。1960年代と70年代にイヴ・サンローランが築いた基盤をもとにつくられた、それでいてまったく新しい世界だ。

今季のショーを前に、アンソニーは2枚の写真をInstagramでシェアした。1枚目は1960年、シルヴィ・ヴァルタンのステージ衣装のフィッティングをするイヴ・サンローランの写真、そして2枚目は1972年、Saint Laurentのスパンコールのジャンプスーツをまとったヴァルタンの写真だ。彼は未来を見据えるために、今一度過去に立ち返った。60年代のダイヤを散りばめたシフトドレスから、70年代のタイトなタキシード、ベルベットのジャケット、プッシーボウ・ブラウスまで、本コレクションは再解釈された記憶であふれている。いわば今の時代のための過去のリミックスだ。ランウェイを飾ったのは、アンソニーのミューズのひとり、アンナ・エワースを始め、カイア・ガーバー、アビー・リー、アドゥ・アケチ、アンニャ・ルービック、フレジャ・ベハ、ビンクス・ウォルトンなど、そうそうたるメンバー。スターモデルたちが水面を歩いて水しぶきをあげ、観客の視線をくぎづけにした。

本コレクションで、アンソニーはSaint Laurent歴代の大ヒットと、忘れ去られたB面ナンバー、つまり1960、70、80、90、2000年代に流行したラインナップをリミックスし、そこに自作のナンバーを新たに加えた。イヴ・サンローランが女性に宛てたメッセージは〈好きな服を着て、自分のスタイルにすること〉。長きにわたり女性を力づけてきたSaint Laurentにおいて、このメッセージは、創業57年を迎える今も、ブランドの核となる価値観であり続けている。今回、アンソニーはこの価値観を再確認し、〈楽しむことや自己表現を愛する、自立し、自信に満ち溢れた、屈託のない、自由で大胆な個人〉というイヴ・サンローランの女性像を発信するコレクションを完成させた。「異なる時代や永遠のアイコンにインスパイアされ、多種多様なピースからシルエットをつくりました」とアンソニーはショーの前に説明した。「折衷主義とは、自由に自分自身をかたちづくり、個性を表現し、内なる複雑さを尊重することです」

異なる時代の要素の融合や、鮮やかな色彩のコントラストによって、ダイナミックな個性が混ざり合い、それぞれのルックを構成している。ファッションデザイナー、パロマ・ピカソの斬新なヴィンテージ・スタイリングから着想を得た、イヴ・サンローランによる1971年春のオートクチュールは、ファッションの根幹を揺るがせ、新たな地平を開いた。今回もそれと同様に、異なるスタイルが融合し、現代に生まれ変わった。トロカデロ庭園を闊歩するモデルのボーイッシュなシルエットは、女性としての自信に満ちていた。ジャージ素材を使って1960年代のテーラリングを再現することで、アンソニーはクチュールの伝統的なアプローチを塗り替えたのだ。ショーの最後を飾ったアシンメトリーのボディスーツやシフォンドレスには、イヴ・サンローランの大胆不敵なエレガンスが繊細に表現されていた。

創業者のエレガンスを継承しながらも、本コレクションのダークなセクシーさは、アンソニー自身の個性を今まで以上に反映している。彼自身のラ・カンブル(ベルギーの国立美術学校)卒業コレクションのイヤリングが使われたルックもあった。いかにもイヴ・サンローランらしいアニマルプリントも登場し、Saint Laurentの過去と現在が結びつくことで、新たに力強いスタイルが生み出された。2011年3月、US版『VOGUE』は、絶賛されたアンソニーのデビューコレクションを「常にブラック、常にセクシー」と評した。それから7年、彼のスタイルの幅は広がったがセクシーさは変わらず、アンソニーはこのポスト〈#metoo〉時代において、女性が着たい服を着るために、女性を力づける服をデザインし続けている。マイクロショートでも、乳首が見える透かし編みトップスでも、カットアウトが施された水着でも、ラグジュアリーなテーラリングでも、選ぶのは女性自身なのだ。

パリは、今季のファッションウィーク開幕のずっと前から、エディ・スリマンの影に覆われていた。ファッション業界の関心は、他のアーティスティック・ディレクターたちがエディの帰還にどんな反応を示すのか、ということのみにあった。アンソニー・ヴァカレロは日没を待ち、ノイズを無視し、Saint Laurentの不朽の魅力を追求し続けると決めた。実に力強い声明だった。

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Photography Mitchell Sams

This article originally appeared on i-D UK.