Photo by MARY CYBULSKI ©︎2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

ジム・ジャームッシュ:『パターソン』映画評

ジム・ジャームッシュの監督最新作は、バス運転手の静かな7日間を描いた『パターソン』。第69回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にも選出された本作を、映画ライターの長谷川町蔵がレビュー。

by Machizo Hasegawa
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15 August 2017, 8:31am

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<ミニマリスト>を自称する人の多くを、ぼくは信用していない。何故ならそういう人は、物事すべてをアップル製品で済ませているだけで、沢山のものに囚われていることについては一般人と何ら変わらないからだ。そういう意味でも、ジム・ジャームッシュ最新作の主人公パターソンは、例外的に賞賛に値するミニマリストだ。

ニュージャージー州の地方都市パターソン(主人公の名前と同じなのだ)で暮らす彼は毎朝、目覚まし時計なしで目覚め、市バスの運転手として働き、夕方に帰ると妻との夕食を楽しみ、愛犬の散歩の途中で馴染みのバーに立ち寄り、少しだけ飲んでから眠りにつく。テレビは見ず、パソコンもスマホも持たない。彼にとって唯一の趣味は、紙のノートに自作の詩を書き留めることだ。

映画は彼が過ごす、簡素だが驚くほど豊かな7日間を、慈しむように描きだす。パターソンという街は、アメリカを代表する詩人でありながら町医者として生涯働き続けたウィリアム・カルロス・ウィリアムズが暮らした場所でもある。本作は名もなき市民芸術家たちへの賛歌なのだ。

現在、『スター・ウォーズ』のカイロ・レンという大役を背負っているアダム・ドライバーにとって、本作は最高のデトックスになったのではないだろうか。最小限の顔の変化によって喜怒哀楽を表現する演技が堂に入っている。もともと彼はノア・バームバックやレナ・ダナムといったニューヨーク派監督の作品で注目された俳優なので、彼らの大先輩にあたるジャームッシュの作風との相性が良いのも納得なのだ。

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永瀬正敏扮する、まるで悟りを開いた禅僧のような男が登場する終盤、ジャームッシュが本作で描いたミニマリスト・ライフが日本文化に影響を受けたものであることが判明する。彼が相変わらず日本をリスペクトしてくれていることを喜ぶ一方で、ぼくはあまりに沢山のものに囚われている自分の姿を振り返って、何だかこそばゆい気持ちになったのだった。

パターソン
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ、永瀬正敏、ほか
8月26日(土)からヒューマントラストシネマ有楽町/ヒューマントラストシネマ渋谷/新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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