中国・美容ブームの闇「大学3年生ですが、約60万円の借金があります」

中国では美を追求するあまり、身の丈に合わないアイテムにお金をつぎ込む若い女性が増えている。

by Kati Chitrakorn; translated by Ai Nakayama
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02 March 2020, 11:07am

韓国コスメブランド雪花秀(Sulwhasoo)の美白美容液は200ドル(約2万2000円)、Estée Lauderのかの有名な50mlボトルのアドバンス ナイト リペアは日本で1万4850円。多くのひとは、驚くほど高いと感じるだろうが、北京に暮らすリー・イーヤンは、値段に見合ったアイテムだという。

「私は若々しい見た目を保ちたい。そのカギを握るのが美容アイテムです」と22歳のイーヤンは断言する。「私はコスメよりもスキンケアに注力しています。それに、私にとって香りもかなり重要。毎日、気分によってアイテムを使い分けています。あとハイドラフェイシャルとスキンペンも定期的に使用しています」

イーヤンは毎月4000〜5000人民元(6万4000〜8万円程度)を美容に充てている。今、中国の若い女性の多くが、自らの容姿に気を遣い、美しさを通して自分自身を表現している。イーヤンのように、美しくありたいと願う女性が多い中国の美容市場は、今や米国に次いで世界で2番目の規模となっている。しかし、いったい何が、彼女たちの投資の原動力となっているのだろうか。

中国のスマホ世代がルックスの美しさを求めるようになったのは、SNSの隆盛、そしてFacetuneの中国版〈Meitu〉をはじめとする美顔加工アプリの流行が大きい。2019年1月の同アプリのアクティブユーザーは5100万人に及んだ。

「私が買うアイテムはだいたい、メディアでみた投稿に影響されてます」と語るのは昆明市出身の26歳、アシュリー・ヤンだ。「ビューティvlogやハウツー記事をみると、最高の結果を得るためにはこのアイテムが必要なんだ、って思ってしまうんです」

しかし、アシュリーはもうひとつの歓迎できない理由についても言及した。中国の若い消費者が美容アイテムを購入するのは、それが必要だからではなく、容姿を磨き社会的ステータスを高めるべきだ、という仲間からのプレッシャーを感じているからだというのだ。

「本当に私の美容ルーティンにこの美容液が必要なのかと問えば、答えはノー」とアシュリーは吐露する。「でも、そのステップを追加することは普通のこと、必要なことだと思ってしまう。だってみんなやっているから。そして見た目のいいひとは、より良いチャンスを獲得できる傾向にあるからです」

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彼女の証言は間違っていない。1994年の時点ですでに、容姿が劣っているとされるひとは社会的差別の被害者となることが多いという説が主張されており、中国ではこの考えかたが偏重されている。多国籍ヘルスケア企業、アラガンが2018年に行なった、世界各国の18〜65歳の女性7700人を対象にした調査によると、中国は容姿をもっとも重視している国だと判明している。中国人女性の74%が美と成功は関連していると考えており、この74%という数値は世界平均と比べても突出して高い。

身体的な美への執心は流行語として表れ、それらの言葉は今や一般化している。「たとえば外見レベルを数値で示す〈顔値〉、〈若いイケメン〉を意味する〈小鮮肉〉。それらの言葉は、劣った容姿のひとびとに対する差別を少なからず暗示しています」とユースカルチャー、トレンド、ムーブメントの推移を追跡する上海のデジタルマーケティングエージェンシー、Red AntのアジアCEO、エリサ・ハーカは説明する。

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世間に蔓延する不安に乗じて、コスメブランドは中国でのマーケティング戦略を変えた。もともと、より成熟した大人のために開発された高価なハイエンドアイテムが、今は〈早めのアンチエイジング〉と銘打たれ、若い女性に向けて宣伝が打たれている。

〈早めのアンチエイジング〉は中国でかなりのトレンドとなっており、たとえばEstée Lauderのアドバンス ナイト リペアは、西洋では比較的年齢が上の女性に向けた商品となっているが、中国では〈若々しい未来を今から始めよう〉というスローガンともに20代の女性に向けて販売されている。

「うちの化粧台の上にも1本置いてある!」と笑うのは広州出身で25歳のマギーだ。彼女の美容費は、毎月約4万円程度だという。「もともと、祖母のために買ったんです。祖母はこれを、すごく大切に使っていて、私も自分で試してみようと思って。父に、目元にシワができはじめてるって指摘されて気にするようになったんです。中国では、若くいられる薬、不老不死の薬を誰もが求めています」

若い中国人女性は、La PrairieやLa Merなど、かつては母親向けとされていたブランドにも手を出している。「若い女性たちは、早めにエイジングケアを始めるよう促されているんです」とマギー。「若々しい肌を保つためには、21歳になったらアンチエイジング製品を使い始めるべき、と訴える記事が目に入ってきたり、言われたりするので」

「母親がLa Merを使っていたから、私も使ってみようかなって」と語るのは北京に暮らす19歳のジェニー・リューだ。「ちょうど昨日、4万円くらい使いました。自分で調べるのがめんどくさいときには、「小紅書」(中国で人気のコスメ販売サイト)に飛んで、肌の美しさで有名なディーバたちが信用しているアイテムをチェックすればいい。1週間で彼女たちみたいになれると思えば3万円払うのも躊躇しないですね」

最近では〈貴婦級〉という新しい用語が広まっており、主にEstée Lauder、La Mer、L'Oréal傘下のLancôme、そしてYves Saint Laurent Beautyなどのブランドで、〈貴婦級保湿〉〈貴婦級ファンデ〉、さらには〈貴婦級コットンバッド〉のようにあらゆるアイテムの宣伝に使用されている。その理由は、ブランドがそれらの製品をより高く売るためだ。「みんな、値段が高ければ高いほど効果がある、と考える傾向にあるんです」とアシュリーはいう。

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中国人の美への執心は、コスメの購入だけに留まらない。中国の美容整形サイト〈So Young〉によると、2018年に美容整形を受けた中国人は2000万人に及ぶと言う。そのうち64%が1990年以降生まれで、19%が2000年以降生まれ、つまり20歳以下の若者ということだ。

さらに同サイトは、美容整形を受けた患者のうち50%の月収が1500ドル(約16万円)に満たないという。その代わり、コスメの購入、整形手術のために金融機関でローンを組む若い中国人女性が増加している。それは〈連帯〉と呼ばれ、〈美人ならローンが組める〉ことを言外に暗示する。

2017年、中国人美容インフルエンサーのこんな投稿が話題となった。「私は大学3年生ですが、4万元(約60万円)の借金があります。ネットでブロガーのフォローを始めて美容アイテムを買うようになり、今も購入し続けています。これまで、コールガールとして働いて1万元返済しましたが、そのお金を借金の返済に充てるべきなのでしょうか? 今もTom FordのアイシャドウとJo Maloneの香水を買おうとしてるけど」

SNS、特に中国のSNSは、遺伝子的に恵まれたひとたちが自らの優れた容姿を武器に収益を得ることをかつてないほど容易にした。肌を白くし、脚を伸ばし、顎を尖らせ、慣習的な〈美〉へと近づけてくれるフィルターを備えたスマホアプリもある。しかし、容姿が劣っていることが高収入への障害だと認識しているひとびとは、その解決策を見つけるべく、美容整形やその他の方法に飛びついてしまう。

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「だからこそ、中国で美容は大きなビジネスになっているんです」とハーカ氏も同意する。「でも、中国も様々な美の基準にオープンになりつつあるとは思います」

確かに、ファッションや美のスタンダードを取り巻く欧州的、米国的な理想像に反抗するような作品を発表している写真家のレスリー・チャン、そしてアジア人であること意味を問い直す写真家のアンドリュー・カンなど、中国で育ったクリエイティブな才能たちは、〈ステレオタイプではない中国的な美〉と捉えているものを提示することで、それらの慣習に抗おうとしている。

それでもやはり道半ばだ。「中国のミレニアル世代は、インスタント・グラティフィケーション(※すぐに得られる喜び、すなわち欲しいものを欲しいと思ったときに手に入れたいという欲望)にかなり影響されています」とアシュリー。「多くのひとが、時間と若さは待ってくれない、美容製品や整形のためのお金を充分に貯める暇はない、と思ってるんです」

社会的差別から利益を貪ろうとするひとびとや、世間に蔓延する美容・コスメの不健全なムーブメントにこの考えかたが加わってしまうと、困ったことに、状況がすぐに変わることは難しいと言わざるを得ないだろう。

This article originally appeared on i-D UK.

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