なぜアーティストたちは今、デトロイトに向かうのか?

米国屈指の〈自動車の街〉とベルリンとの最大の共通点は、DIYなアートカルチャーが存在することだ。今やデトロイトは、マイノリティーとしてのバックグラウンドをもつクリエイターたちの遊び場となっている。

by André-Naquian Wheeler; translated by Ai Nakayama
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28 October 2019, 7:07am

デトロイトは、スイングステートであるミシガン州(2016年の大統領選では共和党が勝利)の南東部に位置する街でありながら、今、〈米国のベルリン〉と呼ばれており、そのギャップには意外性を覚える。

しかし、実際にデトロイトに足を踏み入れてみれば、ベルリンとの共通点はすぐにわかる。どちらの街も、格差が存在し、衰弱し、経済危機に苦しんでいる。建物は過ぎ去りし時代の遺物で、ナイトクラブやウェアハウスパーティーではテクノが君臨している。

しかし米国屈指の〈自動車の街〉とベルリンとの最大の共通点は、DIYなアートカルチャーが存在することだ。今やデトロイトは、マイノリティーとしてのバックグラウンドをもつクリエイターたちの遊び場となっている。

その理由は、もっぱら、安い家賃(LAやNYなど、アートの中心地の法外な家賃と比べればの話だが)、そしてギャラリースペースの着実な増加にある。毎年、多数のクリエイターたちがデトロイトを中心とする都市圏に流入している。

キュレーターや美術館の館長などに出身地を問うと、答えは決まって〈ニューヨーク〉だが、デトロイトは〈ニュー・ニューヨーク〉となり得るのだろうか?

2015年にデトロイトを訪ねたアーティストのスコット・キャンベルは、その後ニューヨークからデトロイトへの移住を決意した。「そろそろ移住してもいい時期だと思って」と彼は広々とした自身のスタジオのなかで答えた。

制作途中の大きな立体作品が部屋をいっぱいに埋めつくしている。もしこれがニューヨーク市内だったら、スコットがこんなに広いスタジオを借りるのも、素材をここまで安く手に入れるのも、不可能だっただろう。

「デトロイトは、誰もが何かを構築している。それが面白い」とスコット。「ニューヨークでは、既存のシステムに自分をフィットさせなきゃいけないような気がしてた」

また彼は、デトロイトの多様性にも惹かれたと語る。街の人口は83%が黒人で、米国でも最多だ。「たとえば、ホーム・デポみたいな店に入って、自分が多数派のひとりだって感じることができるのがうれしい」

デトロイトには複雑な歴史があるからこそ、誰にとっても親しみやすいのかもしれない。トリニダード出身のキアラ・アマヤ・ゴピは、〈Red Bull Arts〉のプログラムでデトロイトに3か月間滞在しているが、ニューヨークよりも親近感が湧き、驚いているという。

「デトロイト人とカリブ人は、ディストピアを生きているという意味でたくさん共通点がある。すなわち、崩壊が起こり、首都も逃げ出してしまうような場所。ここでは、面白い角度から自分のことをみて、理解してもらえる気がする。ニューヨークでは、社会から取り残されたような気分になることもあったけど、デトロイトではそんなことはない」

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Kearra Amaya Gopee, Resident Artist Exhibition, Summer 2019. Photo by Claire Gatto.

アート業界で永続的な存在感を発揮することが全体としての目標だ、と語るのはデトロイト現代美術館でスザンヌ・フェルド・ヒルベリー・シニアキュレーターを務めるラリー・オシー=メンサー(Larry Ossei-Mensah)。

「1週間だけひとが来て、終わったら帰るだけの場所にはしたくありません」と彼は説明する。「来場者のみなさんには、この街にまた自分の意志で戻ってきてほしい」

デトロイトでは、アーティストの滞在研修プロジェクトも多数運営されている。〈ProjectArt〉〈SpreadArt〉〈The Forge〉などに加え、最大かつもっとも有名なプロジェクトといえば〈Red Bull Arts Detroit〉だろう。

毎年、Red Bull主催のこのプロジェクトでは、米国内から実験的かつ型破りなアーティスト3人を3か月間デトロイトに滞在させる。彼らは住居、スタジオ、1万2000ドル(約128万円)の資金を供与される。

毎日、家賃を稼ぎながらアートをつくらなくてはならないプレッシャーに苦しむ若いアーティストたちにとっては、まさに神の恵みだ。

「私の作品にとって、いろんなところに行くことは不可欠」と語るのはパメラ・カウンシル。2019年、Red Bullに選出されたアーティストのひとりだ。

彼女はニューヨーク出身で、かつてはブロンクスに暮らしていたが、この1年は様々な研修プログラムを使用して生活しているという。NYを飛び出すことで、気持ちがすっきりし、オープンマインドになった、と彼女は語る。

「今は景観設計に取り組んでいるんだけど、サウスブロンクスに住んでいた頃は景観設計なんて考えもしなかった。スタジオに閉じこもってしまうと、アイデアが制限されてしまうこともある」

パメラは自らが制作した、寝室並みのサイズのインスタレーション作品をみせてくれた。並べられたファウンテンが、黒人のヘアケアに欠かせない〈Pink Hair Lotion〉を流し続ける。こんなに広くて、静かで、きれいなスタジオは、NYの個人スタジオではありえない。

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Pamela Council, Resident Artist Exhibition, Summer 2019. Photo by Claire Gatto.

腰を下ろすと、パメラが携帯を取り出し、デトロイト滞在中に制作しているアヴァンギャルドな巨大ウィッグをみせてくれた。かの有名な〈Hair Wars〉で名を馳せるカライフル・シザーハンズ(Khalife'L Scissorhands)とのコラボ作品だ。パメラは笑ってこう語る。「こんなの、デトロイトでしかできない」

デトロイトのアート業界が成長をみせているおかげで、米国中西部出身のひとびとが、東海岸にも西海岸にも向かうことなくアートへ参入できるようになっている。

「デトロイトに戻ることは、僕にとって、僕の作品にとって、そして僕のメンタルヘルスにとっても必要な選択だった」と語るのはダリル・テレル。彼は、シカゴ美術館附属美術大学で写真のMFA(美術学修士)を取得し、最近、故郷のデトロイトへ戻った。

「アパート1部屋を借りるのに600ドル(約6万4000円)も払いたくなかったんだ」と彼は、バカバカしいとでもいうように笑いながらいう。

故郷へ戻ることで、ダリルは良い経験ができている。今私たちが話をしている場所は、かつてホテルだった建物を改装してつくったギャラリースペース。タイルの床には砂が敷かれ、ジャグジーがボコボコと音を立てている。

ダリルは、トランブル・アンド・ポーターホテルで行われている〈Young Curators, New Ideas〉というプログラムに参加する12名のキュレーターのうちのひとりだ。彼はアーティストのデリック・ウッズ=マローと、この場所にビーチを再現した。ビーチといえば、クィアの黒人男性にとって安全な場所であり、この作品では、レジャー、空間、アイデンティティが出会う場所を考察している。

ダリルは、重要かつ実験的な作品を故郷でつくる機会があることに感謝しているという。しかし、彼はこんな事実も指摘した。「ここでデトロイト出身の人間は僕だけ」

Darryl DeAngelo Terrell Box of 24 Featuring Derrick Woods-Morrow Image courtesy of Detroit Art Week Photo: Paul-David Rearick
Darryl DeAngelo, Terrell Box of 24, Featuring Derrick Woods-Morrow. Image courtesy of Detroit Art Week. Photo Paul-David Rearick.

注目は諸刃の剣だ。デトロイトの文化やアーティストに光が当たるのはいいことだが、結果として家賃の上昇、競争の激化、ジェントリフィケーション(街の高級化)へとつながる。この問題に対処するべく、デトロイトの芸術・文化局長は最近、街の声に耳を傾けるための市内行脚を実施した。

これは喫緊の課題だ。今回取材を行なった匿名希望のアーティストは、自らのスタジオを確保するためにいかに長年苦労してきたかを語った。

家賃の上昇、複雑な都市計画法、いいかげんな大家のせいで、彼女はかなり長いこと骨を折ってきたという。かつて使用していたスタジオでは、大家が建物の管理を怠っていたため、一酸化炭素中毒になりかけたそうだ。彼女は「そういうことって議論されてない」と指摘する。

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Pamela Council, Resident Artist Exhibition, Summer 2019. Photo by Claire Gatto.

This article originally appeared on i-D US.

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