ボノボ:エレクトロニックでアンビエントな革命

リスナーを連れて、高く、もっとも高く——ボノボが、そのキャリアにおいてもっとも実験的でエモーショナルな作品をリリースする。

by Milly McMahon
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18 January 2017, 12:20pm

まるで小説が章構成で展開されるように、トラックからトラックへと景色を変え、リスナーの感情を高めるアルバム『Migration』。レーベルNinja Tuneからリリースされたこのアルバムの12曲には、ジョン・ホプキンス(Jon Hopkins)、ライ(Rhye)、チェット・フェイカーとしても知られるニック・マーフィーをはじめ多くのミュージシャンが参加し、世界をさまよいながら「ノイズとスペース」というコンセプトを独自の手法で追求して実験的なアルゴリズムを通して自分の居場所を探すイギリス人プロデューサー/DJ・ボノボ(Bonobo)の姿がそこに浮かび上がる。自身6作目となる今回のアルバムでは、これまでに築き上げてきたスタイルを捨てて新たな視点を打ち出し、彼のファンたちだけでなく世界のオーディエンスに向けた音作りに挑んでいる。

神がかったサウンドが広がる今作は、アフリカン音楽のポリリズムを取り入れ、ピアノや金管楽器の音に弦楽の四重奏を合わせることで、そこに多様な文化のモチーフを織り込み、聴く者の内観を刺激する。聴くたびに心の風景が、視野が広がっていくような、ユニークで快活で、完成度の高いアルバムだ。もしも地球が進化のテーマ曲を選ぶとすれば、きっと『Migration』が選ばれるだろう。大交響楽団のフル・オーケストラによるサウンドとめくるめくヴィジュアル世界をひっさげて、グローバル・ツアーに出るボノボ。これまで彼が訪れ、愛するようになった、遠くて近い、そして近くて遠い場所を巡る。

旅をしながら作ったという今回のアルバムですが、頭に浮かんだ音を実際にどうやってサウンドに落とし込んでいったのですか?

僕は「AメロからBメロ、そしてサビ」というような曲の書き方はしない。もっと実験的なアプローチで、ノイズの中に音を探るようなしかたで音楽を作るんだ。スタジオでのセッションに集中する中で生まれてくるものと同等に、例えば空港とか、クラブ帰りでまだ耳の奥で音楽が続いている朝7時とか、そういった状態で生まれてくるものにも素晴らしいものがある。それもまた面白いサウンドが生まれる有効なアプローチだと思うんだ。抽象的なものから紡いだ音をたくさんある。今回のアルバムにもそうやってできた曲がたくさんあるだ。

プレス・リリースでは、このアルバムを「人と空間を探求することから生まれたもの」とし、考え方が異なる人々がお互いにどう影響し合うのかを探っていますが、どんな瞬間に新境地やインスピレーションを見たのでしょうか?

大人になったんだという実感かな。今の自分がいて、地元の友達と過ごした過去がある。思い出はどこか現実離れしていて、とても遠い。そこに思いを巡らせることで生まれてくる感情なんだ。友達と思えるひとはたくさんいて、旅をすると自分自身が見えてくるけど、そこには繰り返し僕の眼前に広がる風景のようなものがある——遠い過去に僕が見た人や風景とその影響が、繰り返し僕の前に姿を現すんだ。

あなたはひとつの場所に根を張らないタイプですか?

そうだね。最近はこのアルバムを完成させるためにツアーにも出ず、同じところに住んでいたけど、それ以前は世界各地を旅して、ずっとホテル住まいだった。ベルリンからシンガポール、ブラジル、カリフォルニア——10ヶ月間も世界を転々とした後は、ずっと同じ風景の中で生活することに不思議な感覚をおぼえたね。素敵な1年間の過ごし方だったよ。

旅をすると、自分が板挟みの状態になっているのに気づく瞬間が必ずある。新たな経験を通して、新たな自分を発見することが多々あるんだ。それに、そういう状況は僕の不安を浮き彫りにして、「自分はどこにも属していないんだ」という圧倒的な気づきにいたることもあった。そんな感覚にこれまで何度となく襲われてきたけど、今回のツアーは少し状況が違う。今回プレイする会場は、僕がこれまでに訪れたことがある会場がほとんどで、そこにあるクリエイティブ・コミュニティを以前より知っているからね。改めて彼らとつながるという感覚があるんだ。新たにひとや場所と出会うことの興奮と、離れていても「いつでも帰れる」と感じさせてくれる場所がある喜び、両方があってバランスが保てているんだ。

2017年グローバル・ツアーのヴィジュアルはどのようなものに?

バンドも引き連れて、映像もたっぷりのツアーになるよ。現場で映像を撮りながらヴィジュアルをその場で作り出していく、才能溢れる映像作家たちが同行してくれるんだ。以前と比べても、映像を前面に押し出したツアーだね。写真家や風景、建築、文学を総合したアートにしたかったんだ。映像の世界を追求しようと思ったわけでもないんだけど、広い視野でインスピレーションを形にしたら結果的に、映像が主体のステージになったよ。

「Second Sun」はとてもエモーショナルな曲ですね。あのトラックをいま聴いて何を感じますか?

あれは、2009年の『Black Sands』制作時に作ったものなんだ。最初の半分はもう何年も前に出来上がっていたんだけど、ずっと完成させられずにいた。6年経って、今回のアルバムを作っているときに「今の自分なら完成させられる」とひらめいてね。曲として仕上げられるって確信したんだ。

今回のアルバムで特に気に入っている曲は「Migration」。曲の展開がいいんだ。「アルゴリズムを作ってできた音の集まりがまた偶発的な音の動きを生む」という新しいアイデアから生まれた曲だよ。出来上がったトラックに、ピアニストのジョン・ホプキンスが即興でメロディを重ねてくれたんだけど、彼はコンピューターのアルゴリズムを利用して演奏してね。ジョンとコンピューターがお互いに導かれるようにして即興を繰り広げていったんだ。プロセスとして、あの曲は自ずと世界観を切り開いていった感があって特に気に入ってる。

アルバムに入れる曲はどう決めるんですか?

音楽で伝えたいことがあって、それをもっともうまく伝えてくれるトラックを最終的に採用する。今回のアルバムでは、ヘビーで良いバランスを保っていて、かつ僕が伝えたいことを的確に伝えてくれそうな10曲を選んだ。

プロデュースとDJでは、どちらがあなたによりクリエイティブな満足感をもたらしてくれますか?

プロデュースとDJはまったく違うふたつの分野だからね。そのふたつでうまくバランスを取っているんだ。どちらかひとつでは、成り立たない。DJは大好きなんだけど、DJだけをやるということはできない。プロデュースだけやるのも無理だね。あまりにも膨大な作業を孤独のうちに進めなきゃならない。でも自分の音楽を観客にプレイするのは大好きだよ——解放された気分になるんだ。

Credits


Text Milly McMahon
Photography Neil Krug
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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