ニューヨークの三銃士

PRINCESS NOKIAの名前で知られるニューヨークのラッパー、デスティニー・ファスケリ。彼女が故郷でもあるニューヨークの多様な文化と共感を寄せる“アーバン・フェミニズム”の考え方について語る。

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jun 12 2017, 11:00am

デスティニー・ファスケリ(Destiny Frasqueri)が生まれ育ち、現在も活動の拠点にしているニューヨークシティ—— 私たちはそこで待ち合わせをした。彼女は最も信頼しているふたりの友人とともに現れた。そのうちのひとりラファは、コミュニティをまとめる才能に長けていて、都市計画やフェミニズム運動、階級社会の撲滅運動を中心とした活動をしている。最近は、元祖パンクシーンのDNAを残すためにユースをターゲットとしたコンサートをブロンクスで開催している。もうひとりは「何年にもわたり動物愛護運動や社会運動を推進してきた」ジアだ。彼女はプロのボディ・サスペンダーでもあり、インスタレーションやライブパフォーマンスでその技を披露している。

ブロンクスにあるジアの自宅で行った取材には、5匹の蛇が同席していた。彼女は蛇を専門とする獣医でもあるのだ。「ジアの家で映画を観たり、だべったりするときは常に蛇がいるの」とデスティニーは言う。「彼らはすごく包容力があって、場のムードを癒やしてくれる。落ち着かせてくれるのよね」。彼女の音楽から感じる、突き刺さるようなウィットと力強さは彼女のパワフルな声に起因しているが、歌詞からは思いやりや思慮深さがひしひしと感じられる。「私たちは三銃士なの。いつもお互いを支え、守り、愛し合っている」と彼女はクルーについて語る。「それってすごく特別なことだと思う」

デスティニーは、ふたりのことを"フレンド"とはいわず「コマイ(comai)」と呼んでいる。コマイは "自分の子どもの面倒を見てくれる姉妹"を意味するスペイン語だ。「私は、ジアとラファの子どものゴッドマザーだから、ふたりのコマイなの。だから、私が子どもを産んだら、今度は彼女たちが私の子のゴッドマザーになるってわけ。"フッドラット"って呼び合うこともあるわ。ゲットー出身でありながらパンクロックやゴス、ハードコアな部分も持ち合わせている人っていう意味でね。私たちはいろいろなカルチャーの混合物。それぞれのシーンからつまみ食いしている、言わば"フッドラット"なの」

そのことはデスティニーの最新音源『1992』にも明確に表れている。このEPには、自身のアイデンティティを形成してきた要素を追求し、そのすべてを受け入れ、成長していくひとりのアーティストの姿が詰め込まれている。ジャンルを超越したデビュー作『Metallic Butterfly』(2014)やドナ・サマーを思わせるディスコ調の『Honeysuckle』に続く『1992』。このアルバムには、彼女がハーレムやロウアー・イースト・サイド、ブロンクスで過ごした幼少期に聴いていた90年代のニューヨーク・ヒップホップからの影響も色濃く反映されている。

なかでも印象的な「Green Line」は、街中でレコーディングされており、ナズの伝説的な初期作品にも通じる、金管楽器の音色が強い内省的なジャズの要素が盛り込まれている。滑らかなアンダーグラウンド・エレクトロニカである「Brujas」は吸い込まれるように魅惑的なサウンドで、彼女のルーツでもあるアフリカへの讃歌である。そしてアルバムの1曲目、強くて大胆な「Bart Simpson」は、マンハッタンのスケートシーンに向けられたトラックだ。ニューヨークの街がもつ波乱万丈な歴史の数々は、デスティニーが革新的なものを作る上で最高のインスピレーション源になっているのだ。

「ニューヨークはアート・詩・ファッション・苦痛・悲劇・ユニークさ・色・多様性・奇妙さ・貧困が混ざった生命体。そのすべてが私にとっては面白くてたまらない」と彼女は言う。「不協和音だから親近感が湧くのかもしれない。すごく詩的で流動的な街なの」。ニューヨークがデスティニーに与えた影響は、音楽面にとどまらない。彼女のラファとジアに対する絆を強めているのは、この街での共通経験—— 同じコミュニティへのつながりだ。「私たちはこの街との付き合い方がわかっているし、大好きなの。他の場所に住むなんて考えられない。仲間に囲まれて、コミュニティに貢献することで自己を確立してきた。それが私たちのユニークなところ」

しかし、彼女は自分のコミュニティの外へも目を向け、つながっていくことの大切さも熟知している。『1992』のリリース・パーティを追ったドキュメンタリーでは、デスティニーがどれほど"カルチャー間の架け橋"になっているかが見てとれる。彼女はビキニ・キルのフロントウーマンであるキャスリーン・ハンナの有名な「girls to the front( 女の子は前へ)」という掛け声を引用したかと思えば、ソウルトレインのラインダンスを踊る。どうしてこういった行動が彼女にとって大切なのかと訊くと「自分が場違いだと感じることの不快さが身に染みてわかるの。仲間はずれにされて湧いてくる怒りや、不安を感じる気持ちもね。有色人種の女性として、私たちの声や意見、価値観やストーリーが聞き入れられて尊重されることが大切だと思う」と語った。

ライブ以外でも、彼女はさまざまなコミュニケーションを通じてコミュニティを広げている。その主たる舞台になっているのが、<スマート・ガール・クラブ>というワークショップやラジオ番組、詩の朗読会などを主催している組織である。アートや人とのつながりを通じて集まった、ルックス・人種・セクシュアリティの異なる女性をつなげて創造的なコラボレーションを生み出すというのが目的であるこのクラブは、デスティニーが安らげる場所になっているようだ。「私にとって、安心できる場所を確保するのはとても大切なこと。怒りを感じてしまうことは仕方がないことだから、その気持ちをぶつけられる健全なはけ口を見つけないとね」

<スマート・ガール・クラブ>の根底に流れているのは、アーバン・フェミニズム(町で生活する普通の人もアクセスしやすいフェミニズム。つまり、大学の講義で習う形式的なフェミニズムではなく、肌で感じるストリートのフェミニズム)の考え方だ。「私のようにいくつものフィールドに属する人間が共感できる考え方なの。アーバン・フェミニズムは、私が育ったコミュニティにも存在しているし、無視することはできない」「この組織が存在することで、私たちに声を上げるチャンスが与えられ、敬意を表してもらうことができる。私たちは、スマート・ガール・クラブを通してお互いを守り、運動を広めることで生きやすい世の中にしていけたらと思う。それがゴールよ」と語ってくれた。さすがだ。プリンセス・ノキア万歳!

Credits


Text Emily Manning
Photography Zachary Chick
Styling Katelyn Gray
Styling assistance Marie Choi
Translation Julia Hahn