デザイナー、坂部三樹郎とは?

ファッションやアート、音楽だけでなく、科学やITなど様々な分野にもアンテナを張り巡らせている坂部三樹郎。彼の奥深い世界観や幅広い活動について話してくれた。

by Aya Tsuchii
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09 November 2016, 9:58am

ファッション界に留まらず、アートや音楽、科学やITなど、様々な分野の人と交流を深める坂部三樹郎。個性あふれる彼のデザインは、彼の好奇心や興味から生まれていく。インタビューをしている間も、言葉の節々で彼の好奇心旺盛な一面が垣間見える。そしてデザイナーとしてだけではなく、若手デザイナーをサポートするため「東京ニューエイジ」のプロデューサーを務め、「ここのがっこう」では自らが教壇に立ち、若手の育成や教育にも力を入れている。彼が多方面にわたり活動の場を広げ、若手の育成や教育に力を注ぐ理由とは?

アイドルに精通しているイメージですがアイドルは好きなのですか?
アイドル文化やアイドルをムーブメントとして見ると、とても興味深い。オタゲーなんて見ていると感動しますよ。オタゲーの動きを習ったりもしましたが、試してみると実はとても難しくて踊れませんでした。アングラなアイドルのライブは、ロックバンドよりも一体化していてすごいですよ。掛け声もまるで音声に入っているんじゃないかと錯覚するくらいシンクロしていたり。アイドルカルチャーのような根本的に感情から生まれるムーブメントは、ファッションに取り入れやすいので、とても興味深いです。でも僕はアイドルをカルチャーとして客観的に見ている気がしますね。

坂部さんはアントワープ芸術学校卒業ということもあって、今回のショーはとてもアントワープ感がありましたよね
アントワープ感は出ちゃいますね。どうしてもアントワープ的な発想になるのは、アントワープで学んだ人はみんな一緒だと思います。パリっぽくはできない。ベルギーはフランスやイギリスに比べると特徴がなく、印象も弱い国なので劣等感や反発心が大きくて。どうやってパリにアタックしていくか試行錯誤する必要がある。それとベルギーのアートを見てみると、根底にはシュルレアリスムがある。だからファンタジーを作るというよりも、現実を見すぎて頭が可笑しくなる超現実主義というのがアントワープ流のデザイン方法なんです。マルタン・マルジェラもそうですが、そこにある現実そのものがデザインになるというのが大事です。だから今回のコレクションも70-90年代の歴史やトレンドを辿って、現実にあるものをもとにしました。僕はアントワープ流にしかできないです。

これまで「東京ニューエイジ」で発表していたAKIKO AOKIを手がける青木明子とKEISUKE YOSHIDAを手がける吉田圭佑ら若手ブランドが、今回はFashion Port New Eastで単独ショーをしていましたよね。
本当は「東京ニューエイジ」という名前も必要ないと僕は考えていています。自身の名前でコレクション発表したりして、どんどん活動の場を広げてほしい。というのも、プロデューサーとして僕たちの名前を出すと、"あそこの一派"という印象を世の中の人に与えてしまう。なので、自分たちでやっていけている今のカタチほうがいいと思っています。もちろん若手デザイナーは、スタートアップのときは僕たちのサポートも必要かもしれません。ですが、吉田や青木は何シーズンも「東京ニューエイジ」としてやってきている。今では自分たちの名前でやっていける実力も備わった。実際に今回のショーでもちゃんと作っていたし、評価も悪くありません。新たに「東京ニューエイジ」に若手のデザイナーが加わったり、どんどん新しいデザイナーが出てきたりするのはとてもいいですけどね。

若手の育成にも積極的ですよね。「ここのがっこう」では坂部さんも教えているのですか?
教えていますよ。生徒数は年間80人くらいで、僕のクラスは20人くらい。生徒の年齢も幅広いので、生徒から学ぶことも多いです。他の分野の人たちからもファッションに興味を持ってほしいので、審査員にファッション業界以外の人を呼んだり、ITの世界の人たちと何かを取り組んだりしています。ファッション業界以外の世界でも活躍できる世代を僕たちは作っているんです。

大学ではプログラミングをやっていたんですよね。ファッションに転向したきっかけを教えてください。
大学を卒業したら好きなことをやっていいと両親に言われていました。なので興味はありませんでしたが、パズルみたいで楽に卒業できる理系を大学の専攻では選びました。初めはアートに興味があって、アートの勉強をしていましたが、先生にファッションの方が向いているって言われて。だから初めからファッションに興味があったわけではありませんでした。だけどファッションに転向して正解でしたね。アートのように長期に渡る分野は苦手ですし、半年で変わるファッションのシステムが向いているんです。

幅広くアンテナを張っているイメージですが?
他のデザイナーよりも幅広い分野の人と会っていると思います。アートやアイドルだけではなく、IT業界の人や科学者など全く違う分野の人に会うこともあります。あるとき、生命について知りたくなり、人工生命の研究をしている東京大学の先生に話を聞いたりもしたよ。

人工生命に興味を持ったきっかけは?
「あの人オシャレ」とか「あの人イケてる」と思う理由を考えたとき、生命的な何かなのでは? という答えにたどり着いたんです。ファッション界において、オシャレな人を作るというのは、生命力にあふれている人を作り出すことなんじゃないかと。ファッションは、その時代の鮮度を保つことがとても大切です。新鮮さを作るには生命的な何かが関係している気がしたんです。東大の先生に教えてもらったのは"生命はものに宿らない。関係性に宿る"ということでした。つまりファッションにも関係性がとても重要だということです。だから今回のコレクションも関係性を意識しました。一体ではなくほかの体数を混ぜて空間そのものと、そのなかにある服を見てもらいたかったんです。全ての関係性をもとに考えていきました。

今回のマガジン最新号のテーマが「愛」でした。坂部さんにとって愛とは?
僕にとって愛は時間のようなもの。愛は人間の知覚機能では理解できない次元のものであり、脳では捉えられない感覚です。人間は4次元までは脳で捉えられる。だけど、愛はもっと高次元のものであって理屈ではない。人間が捉えられないものを捉えているのが愛かな。愛がわかれば人間はもっと高次元を理解できるようになれると思います。

ブランドとしてのMIKIO SAKABEや坂部さんの今後の予定は?
しばらくは今シーズンみたいにストレートな方面でやっていくつもりです。10年前に日本に帰ってきて、そのとき日本はなんて面白いんだと思ったんですよね。いろいろなムーブメントに触れて、Chim↑Pomやカオス*ラウンジ、でんぱ組.incに出会って、本当に衝撃が大きかった。海外ではありえない動きがたくさんありました。「どんなカルチャーだよ」ってすごく興味があった。でも今10年経って、新しいクリエイションをするには一度洗うっていうのも大事かなと。今後、MIKIO SAKABEはミラノやパリでの発表などヨーロッパを視野に入れて、グローバルな場で活躍していきたいと考えています。「ここのがっこう」もあるので、自分のブランドとそれらを両立させるのは大変ですけどね。MIKIO SAKABEを軸にしつつも、ムーブメントを築くため色々やりたいです。アパレル産業はショップ、メディア、デザイナー、教育の基盤がちゃんとしていないとビジネスが成り立たない。そのなかでも第一に考えるべきものが教育だと考えています。今の若い子たちが、これからのメディア、ショップ、ブランドを築いていくと考えると、やっぱり畑を耕さないといけません。そう考えると教育には関わらないといけないですよね。次の世代に繋げていくのは大事だと思います。

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Credits


Text Aya Tsuchii
Photography Takao Iwasawa