常識を覆す、NYのニュージェネレーション

若手デザイナーたちが、ニューヨークのファッションシーンに揺さぶりをかけ、新たな風を吹き込んでいる。

by Lynette Nylander
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08 April 2016, 8:20am

ニューヨークのファッション界に変化が起こり始めている。商業的なファッションの成長を脇目に、若きデザイナーたちは既存のルールを破り捨てて、各々が考えるやり方で自分たちの服を作り出している。独創的なアイデアをもった新鮮な才能たちが大きく羽ばたこうとしている今、ニューヨークのファッションシーンは覚醒しようとしている。商業的な企業の活躍を脇目に、若手のデザイナーたちは既存のルールをあえて無視して"心で"服を創作しているのだ。「使命だと考えています」。ソーホーのセレクトショップVFILESのオーナーで、インターネット上に同名のオンライン・コミュニティを立ち上げたジュリー・アン・クウェイ(Julie Anne Quay)は、若いデザイナーを起用する理由についてそう語る。「これからも若い才能を応援していくつもりです。エキサイティングだし、彼らには圧倒的なエネルギーを感じることもできます。そして何より、若い才能を発掘して世界の目に触れる機会をつくるのが"正しいこと"だと信じていますから」。近年、ニューヨーク発の新しいブランドの多くが国際的に注目されるようになり、メジャーな賞を獲得している。Hood by AirがLVMH賞で10万ユーロを手にしたほか、Public SchoolがCFDA/VOUGEファッション・ファンド・アワードとインターナショナル・ウールマーク賞を受賞。Public Schoolのデザイナー、マックスウェル・オズボーンとダオ・イ・チョウは、DKNYの共同クリエイティブ・ディレクターに就任している。

しかし、LVMHやウールマークが若手デザイナーに大きな経済的支援を提供する一方、CFDAファンドやエコ・ドマーニ・ファッション財団賞、Design Entrepreneurs NYC Programといったメジャーなコンテストでの「受賞」や「候補」というふれこみのない若手デザイナーたちを後押しする勢力が現在、ニューヨークで台頭してきている。2012年にオープンして以来、VFILESは、Milk Studiosが主催しているMadeファッションウィークなどと共に、その新勢力の一端を担ってきた。VFILESは、若手デザイナーたちにニューヨーク・ファッション・ウィークでのコレクション発表の場としてVFILES ランウェイを立ち上げ、ファッション界に新たな風を吹き込んでいる。今後多くの若手デザイナーを輩出していくものと期待されている。「彼らのチャンスは広がっています。私たちがやっているようにたったワン・ステップで若手デザイナーを国際的ブランドにすることができる支援の仕方もあります。」とジュリー・アン・クウェイは語った。

「ニューヨークのファッションシーンには強い仲間意識が感じられるって? そりゃそうだ! 組合みたいなものだからね」とチャールズ・ハービソンは言う。「困っていれば、誰かが助ける。僕も仲間が困っていればノウハウを提供して助ける。そういう関係が出来上がってるんだ」。ノースカロライナ州立大学で美術と油絵、テキスタイルを学んだチャールズは、卒業後、マイケル・コース、ルカルカ、ビリー・リードのもとで経験を積んだのち、2013年に自身のブランド、Harbisonを立ち上げた。「自分のブランドを立ち上げるなんて夢にも思っていなかった」と彼は語る。「就職のために自分のポートフォリオを作ろうとサンプルをいくつか制作したんだけど、それが『Vogue』の目に留まったんだ。自分のブランドを立ち上げているわけではないと説明したら、"やってみませんか?"と提案してくれて。そんなビッグチャンス、誰だって逃さないでしょ!」。ストリートスタイルの影響と伝統的なテーラリングをミックスした服作りで、「力強く勇敢に人生を切り拓いていく人々のために服をデザインしている」と彼は自身の服づくりについて語った。「もろいのに夢に向かって突き進んでいていたり、落ち着いているけど興味津々だったり、他人への理解が深いのに頑固だったり−−そういう一見して相反する要素を1つの服に込めるのが好きなんだ」

北京からニューヨークへ渡り、パーソンズ美術大学を卒業したアンドレア・ジアペイ・リー(Andrea Jiapei Li)は、新たなファッション世代を牽引するもうひとりの若手デザイナーだ。美術学士号を取得するために中国からニューヨークへと渡った彼女だが、卒業制作で発表したコレクションがDover Street Marketに置かれたことを機に、2014年、自身のブランドを立ち上げた。「ドーヴァーに認められるということは世界で認められるということ」とアンドレアは話す。「そのまま自分のレーベルを立ち上げたの。卒業後の就職先が決まっていたわけじゃなかったしね。立ち上げてからはすべてが自然と進んだわ」。彼女がつくるオーバーサイズで脱構築的なシルエットはファッション界の第一線で活躍するデザイナーたちをも魅了し、LVMH賞候補にも選ばれた。「毎シーズン同じストーリーをもとにして服を構築する」とコンセプトを語った。「ファッション業界のペースはとても速い。だから奇抜すぎる服は作らないつもり」

故郷モントリオールからLAへと渡り、現在はニューヨークに暮らす20歳のシャン・ハック(Shan Huq)は、デザイナーになるために服飾学校に入学したが、わずか三ヶ月で退学した。セント・マークス教会で行われた2016年春夏コレクションで、彼は90年代スポーティを独自に解釈したトップスやボトムを即興形式のショーで発表した。ショーは成功をおさめ、東京・ラフォーレ原宿のフリーギャラリーからの注文を取り付けた。「アメリカのバイヤーは新しいものを探そうとしない。友達のデザイナーたちは、『展示会に来るバイヤーたちはブラックやネイビーのものばかり注文する』っていつも嘆いてるよ」とシャンは語る。「インディペンデント系のショップは素晴らしい。世界中の新しいデザイナーたちに作品発表の場を与え、実際にサポートをしているわけだからね」

Opening CeremonyやVFILES、そしてレキシントン通りにオープンしたDover Street Marketの登場は、若手デザイナーたちにグローバルな舞台への足がかりを与える存在として、大きな役割を果たしている。しかし彼らがいま本当に必要としているのは大手小売業者やデパートからの受注だ。ブランドを成長させるために彼らが求めているのは、デパートなどが持つ大きなフロアスペースと予算なのだ。しかし、ニューヨークのデパートは自国の若手デザイナーたちよりもヨーロッパの有名ブランドに目を向ける傾向にある。「これはチャンスでもあります」と無名の新人デザイナーを支援するリスクについて訊くと、VFILESのジュリー・アンは説明した。「新らしいものが生まれる場所、その瞬間に立ち会えるのだから」。一方、シカゴ出身のデザイナー、マシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)は、リスクを負うほうが好みのようだ。「数少ない厳選したお店にある服のほうが貴重で、価値はあるはずだよね。ブランド立ち上げ当時から支えてくれたお店に、これからも忠誠を示したい」。マシューは、レディー・ガガやカニエ・ウェストらのブランドのクリエイティブ・ディレクターを務めた後、写真家ニック・ナイトの撮影チームの主要メンバーとして経験を積み、2015年、ハイエンド向けウィメンズウェア・レーベルAlyxを立ち上げた。「カリフォルニアに育った女の子のイメージにダウンタウン的な洗練をミックスしたスーパーフェミニンな服を、イタリア生地で」と彼は自身のブランドの服について説明する。「現代は、"ブランドが時間をかけて成熟する"という贅沢がデザイナーに許されていない時代なんだ。Dries Van Notenを見てごらん。彼は何年もずっと服を作り続けてる。たったひとつコレクションを発表するだけじゃ意味がない。10年後こそが大事なんだ。僕がいまショーをやっても、PRADAみたいなブランドとは比較にもならない。今できるのは、世界にアイデアを発信すること。ファッションは、はみ出し者やカウンターカルチャー、ナイトライフのためにあると思ってる。不完全なものほど美しいんだ」と彼は語り、「デザイナーとして成熟できるまでの時間を与えてほしい」と付け加えた。

若手デザイナーを積極的に後押しするプログラムがアメリカに少ないことから、ニューヨークの若手デザイナーたちは必然的にヨーロッパの財政支援プログラムに応募せざるをえないのが現状だ。「"アメリカの賞"は、ほとんどが起業から一定の年数が経過していて一定の収益をあげていることを応募の条件としてるの」とドイツ出身デザイナー、メリッタ・バウマイスター(Melitta Baumeister)は言う。彼女の服はレザーやビニール、ベルベットなどの素材を合わせた独特の風合いと、コンセプチュアルな独自のデザインで、リアーナやレディー・ガガら著名アーティストたちの支持を集めている。「支援はほとんどなくて砂漠にいるみたいな感じ」と彼女は嘆く。「だけど、ここ10年でニューヨークは変わってきている。新しくてエキサイティングな何かが起こっているのを感じるの。空気を感じ取って、何が起こってるのかに敏感でいなきゃいけないわね」。若いデザイナーたちに出資者を探し、服を作りながら健全な財政状態を保てというのは、"歩けるようになる前に走れ"と言っているようなものだ。「"秋物を見せてもらえないか"っていう問い合わせがしょっちゅう届くんだけど、正直なところ"そんなものない!"って叫びたい気持ちだよ。現段階でそんなことができる余裕はない。できればそんなこと考えずにいたいよ」。こう語るのは、Assembly New YorkやOpening Ceremonyといったショップに加え、日本や韓国でも注目を集め始めているデニムデザイナー、28歳のマシュー・ドーラン(Matthew Dolan)だ。潤沢な資金がないため、マシューはデザインからPR、営業、マーケティング、小売、そしてインターンの役割まですべてを自身でこなさなくてはならない状況を強いられている。「いまだにほとんど自分でやってるよ。服が必要と言われれば、大変ではあるけど、なんとかする。人と会って話せば、関係を築くきっかけになるからね」。幸いなことに、業界で求められているスピードは、彼を苦しめるものではないようだ。「僕には合っているんだと思う。いつでもたくさんのアイデアがあるからね。ビデオゲームをずっとやっていたいっていう感覚に似てるかな。ファッション業界のスピード感はストレスにならないよ。今のペースも業界の構造的に生まれたものだし、理由のない構造なんてないんだから」。

ロンドンやパリ、ミラノと同じく、ニューヨークは若いクリエイティブたちにとって非情な街にもなりうる。しかし、ここに挙げたニューヨークのデザイナーたちは、彼らこそがこの街のファッション業界の未来を担っているのだと強く感じさせてくれる。ファッション業界の先行きは不透明だが、確かなことがひとつある。それは、「ニューヨークのような都市がイキイキとした街であるためには、わたしたちが新たな世代のデザイナーたちを大切に育てなくてはならない」ということだ。彼らこそが、若いスタイリストやカメラマンと手と手を取りあって、原石を本物の才能へと磨き上げていくのだから。

Credits


Text Lynette Nylander
Photography Cass Bird
Styling Carlos Nazario
Hair Tamara McNaughton at Management+Artists
Make-up Frank B at The Wall Group
Nail technician Megumi Yamamoto at Susan Price NYC
Photography assistance Jon Heller, Clay Howard Smith
Digital technician Anthony Miller
Styling assistance Kenny Paul, Yuiko Ikebata, Michelle Veal
Hair assistance Erin Herschleb
Make-up assistance Akiko Owada, Mikako Shojima
Production Paula Navratil
Production assistance Ashley Suarez, John Daniel Powers
Casting Walter Pearce
Models Grey Sorrenti, Arsun Sorrenti, Andre, Brieta, Walter, Luca, Christian, Sahara, Andrew and Osiris.
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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