ファッション業界随一の”家族”:Peter Doチームにインタビュー
i-D ChinaがNY出身のデザイナーとその仲間たちに、いちばんの思い出や好きな食べ物について話を聞いた。
Photography Yiru Wang and Zhongjia Sun
2017年の活動開始以来、ピーター・ドゥと彼のチームは、近年で最も目覚ましい成長を遂げ、米国を代表するファッションを再び形づくるキーパーソンとなった。ブランドは確かに拡大したが、彼らは仕事をするうえでの思いやりや誠実さに関しては決して妥協しない。このチームは才能ある生身の人間からなる家族であり、ブルックリンのスタジオは、近寄りがたさ、ボディシェイミング、「あなたは仲間にふさわしくない」的な態度など、ファッションカルチャーにつきものだと思われがちな有毒なステレオタイプとは一切無縁だ。
このチームは美味しい食べ物、服、会社への愛によって結ばれている。メンバーたちはブランドの2021年秋冬キャンペーンにも登場し、それぞれ昼と夜の装いを披露した。デビューコレクションのショーを観たひとにも見覚えのある顔触れかもしれない。ショーの最後にはピーターだけでなくチーム全員がランウェイに登場し、観客の拍手に応えた。
この度、ついに中国進出を果たしたPeter Do。同ブランドの元フィッティングモデルが代表を務めるi-D Chinaが、上海にできた彼らの初のショールーム(SEIYA NAKAMURA 2.24とのコラボレーション)を訪れ、特に思い出に残っている出来事、仕事の大変さ、愛してやまない食べ物について話を聞いた。

ピーター・ドゥ:クリエイティブディレクター
──初めてのショー開催、おめでとう! シーズンの最後にファッションショーをやろうと決めた理由は?
ずっとショーをやりたいと思っていたけど、最初のショーはさまざまな意味で〈ホーム〉を表すものであるべきだと考えていた。当時は自分たちの故郷であるベトナムに敬意を表するショーとコレクションをやるつもりだった。ブランド創設者のほとんどがベトナム出身だから。でも、僕たちはいろんな場所から来た移民の家族として、だんだんNYに家やアトリエをつくるようになり、NYにホームができた。このショーの狙いは、ただ単にアジア系の見た目だけじゃなく、被害者でも不可視の存在でもない〈アジア系であること〉を祝福すること。人びとを自分たちのホームへ迎え入れる儀式をしたかったんだ。
──人の価値をブランドの核とする安全な空間をつくりましたが、この業界ではとても珍しいことです。なぜこれが大切だったんでしょう?
5人でブランドを始めたとき、僕たちは皆いろんな意味でファッション業界のアウトサイダーだった。業界に存在する有害な風土や、自分たちがいかに物事を違う視点から捉えているか話し合った。それが、僕たちが自分のブランドを立ち上げた理由のひとつ。
──中国市場での人気や需要が高まるなか、いま中国進出を決めた理由は?
中国はブランドの立ち上げ当初から主な市場のひとつだったから、進出のタイミングをずっと見計らっていた。さらにここは、僕たちのチームがあまり理解できていない市場でもあった。メディア戦略の仕組みも、クライアントの購買傾向もほとんど知らなかった。SEIYA NAKAMURA 2.24から連絡があって中国市場進出を手伝ってもらうことになったとき、これで安心だと思った。彼が集めてくれたグローバルチームと仕事をしてるけど、きっと彼らならこのブランドのありのままの姿を伝えてくれると確信していた。
ヴィンセント・ホー:CEO
──スタジオでの1日を教えて。
朝10時頃オフィスに着いて、業務に関するすべてのメールに返信する。それからセールス関連のメールや注文と配送に関するメールにも返信する。普段はランチは外で食べて、午後にはデザイン部に行って、アシスタントデザイナーのソヒョンから何か甘いものをもらう。彼女はデスクにおやつを常備してるから。
──Peter Doチームで一番思い出に残っている出来事は?
1000個以上のアイテムを畳んで、梱包して、発送したこと。まだイタリアに配送センターができる前で、二手に分かれてひとつのチームは日中、もうひとつのチームは夜間に作業した。長くて退屈な作業だったけど、友だちと夜遅くまで一緒に過ごすのは楽しかった。
──あなたの役職で特に大変なことは?
ピーターの予算を管理すること。ピーターはデザインセンスは最高で天才的なクリエイターだけど、お金の計算はあまり得意じゃない。
──あなたが思う、Peter Doを象徴する食べ物は?
ケーキ。
──2020年春夏コレクションでお気に入りのアイテムは?
クリスタルのコート。

リディア・スカト:オペレーションディレクター
──スタジオでの1日を教えて。
私の担当は総務、オペレーション、物流管理。すべてパソコンベースの仕事。業務はメール(発注とそのフォローアップ)が50%、エクセル(在庫とデータ入力)が30%、ソフトウェア(会計と配送)が20%。
──Peter Doチームで一番思い出に残っている出来事は?
キャンペーンのためにユタ州を旅行したこと。真っ白な砂の塩湖、雪の積もった山頂、茶色と白の馬、真っ青な空。
──あなたの役職で特に大変なことは?
大量の仕事と時間の管理。
──あなたが思う一番Peter Doらしい食べ物は?
点心。
──2020年春夏コレクションでお気に入りのアイテムは?
スリットスカート(毎シーズンあるけど)。
ジェシカ・ウー:プレスディレクター
──あなたの役職で特に大変なことは?
1セットしかないサンプルを全部署で共有すること!
──あなたが思う、Peter Doを象徴する食べ物は?
私が毎年メンバーの誕生日にそれぞれ手作りするケーキ。
──2020年春夏コレクションでお気に入りのアイテムは?
ブラックのダンプリング・バッグ。
アン・グエン:デザイナー
──Peter Doチームで一番思い出に残っている出来事は?
パリのショールームで初めての2019年春夏コレクションを発表したこと。数人の若者がサンプルがぎっしり詰まったスーツケースをひいて飛行機に飛び乗り、アポなしで運試しをしたような感じ。何ヶ月もの努力の結晶を発表する誇らしさと興奮、そしてそれを仲間と一緒に体験したことは、私にとって一番印象的で達成感のある体験だった。
──あなたが思う、Peter Doを象徴する食べ物は?
麻辣香鍋か、ジェシカの焼き菓子。

ベベ・ボロトリ:セールスマネジャー
──Peter Doチームで一番思い出に残っている出来事は?
2022年春夏の〈Home〉コレクションで、バックステージからモデルが出てくるのを見たこと。
──あなたが思う、Peter Doを象徴する食べ物は?
コストコのピザとホットドッグ。
──2020年春夏コレクションでお気に入りのアイテムは?
背中にカットアウトのあるブラウンのクロコダイルコート。
パブロ・コレア:ヘッド・オブ・プロダクション
──あなたの役職で特に大変なことは?
期待値をうまくコントロールすること。プロダクションのトップとして、会社の利益がセールスチームの要求に見合うようにしながら、同時にコレクションの質とデザインの完成度を保つという、微妙なバランスをとらなければいけない。
──あなたが思う、Peter Doを象徴する食べ物は?
卵! みんな卵が大好き。パリにあった最初のショールームでは、毎朝アポイントメントの前にみんなの分をまとめて卵を焼き、醤油をたらして、そこに焼き立てのバゲットをひたして食べていた。簡単で、美味しくて、忙しい毎日が始まる前の親密なひとときだった。

クーパー・ロバー:プロダクションアシスタント
──Peter Doチームで一番思い出に残っている出来事は?
寒い2月にリディアの誕生日にサプライズでアップステートにハイキングに行ったこと。牛やガマ、湿地を眺めたあと、家族で美味しい食事を楽しんだ。
──あなたの役職で特に大変なことは?
あらゆる面を徹底して完璧に整え、常に10歩先を考えなければならないこと。
──2020年春夏コレクションでお気に入りのアイテムは?
特に印象に残ってるのはブラックのレザーのプラットフォームブーツ。春に自分の分が届いて、身長2メートル超えになるのが楽しみ!
ウトゥカーシュ・シャクラ アシスタントデザイナー
──あなたが思う、Peter Doを象徴する食べ物は?
〈Lao Ma Spicy〉の麻辣香鍋。
──2020年春夏コレクションでお気に入りのアイテムは?
白のリネンのプリーツシャツドレス。

ソヒョン・アン:アシスタントデザイナー
──2020年春夏コレクションでお気に入りのアイテムは?
ブラウンのクロコダイルのポーチバッグ。
──あなたの役職で特に大変なことは?
コレクションのストーリーに合わないアイテムをいくつか外さなければいけないこと。長い時間をかけるから愛着も湧くし、キャンセルしなきゃいけないのはすごく残念だけど、大掛かりな計画のためには必要なこと。
オリヴァー・マレー アシスタントデザイナー
──2020年春夏コレクションでお気に入りのアイテムは?
6番目のルックの、オリーブカラーのオーバーサイズのブレザーとツイストパンツ(僕もオーダーした)。
──あなたの役職で特に大変なことは?
シーズンの終わりに何を買うか選ぶこと。
──Peter Doチームで一番思い出に残っている出来事は?
ショーの最後に全員でランウェイに出たら、みんながピーターとチームに拍手喝采を送ってくれたこと。
Credits
Photography Yiru Wang and Zhongjia Sun
Model Em Guo
Fashion Assistance Lolo