オリヴィア・ワイルド監督interview『ブックスマート』のすべての登場人物が愛おしい理由

学園映画の伝統を継承しながらも、現代社会を見事に反映させた映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』。同性愛、フェミニズム、下ネタ、友情、スクールカースト──「みんなそれぞれ自分の人生を生きるのに必死」だと語るオリヴィア・ワイルド監督がティーンネイジャーに向ける優しいまなざしに迫る。

by Takuya Tsunekawa
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20 August 2020, 8:00am

高校生のエイミー(ケイトリン・デヴァー)が大親友のモリー(ビーニー・フェルドスタイン)を登校前に車で迎えに来るやいなや、ふたりが変な踊りの対決をし始める陽気なオープニングから、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は観客に幸福な時間を約束するだろう。

エイミーの車のバンパーには「WARREN 2020」「STILL A NASTY WOMAN」と反トランプであることを示すステッカーが貼られている──2016年の米国大統領選で彼がヒラリー・クリントンを「汚らしい女」と侮蔑したその言葉を逆手にエリザベス・ウォーレン上院議員が女性たちに投票を呼びかけたことへの賛同をそれらは表している──が、本作はリベラルなフェミニストふたりがそのまま自信を持って招かれざるパーティーに繰り出す物語である。

これまでいくつかのミュージック・ビデオを監督してきたハリウッド女優オリヴィア・ワイルドの弾けるような長編デビュー作は、ステレオタイプで物語を固定しない。ジョン・ヒューズ以降、長い間規定されてきた公式をモダンに改革する新時代の青春映画を作り上げたのだ。

──『ブックスマート』の新しさは、あらゆるものが当たり前に存在する感覚が全体を貫いていることだと思います。象徴的なジェンダー・ニュートラルなトイレの場面でも悪役は登場しませんが、悪質なホモフォビアやファットフォビアを映画から除外することは意識していましたか?

「そういった冷酷さを取り除くということは、毎日自分に言い聞かせてきたことでもありました。悪役を登場させ続ければ、観客はどんな物語にも悪人がいるんだと思い込んでしまう。そうすると、人生においても絶対どこかに悪人がいると考えてしまうと思います。初めて観る人は本作でも、誰が悪人なんだろうと探しているんですよね。それが興味深いです。モリーが経験するのと同様に、トイレのシーンでも誰かが意地悪なんじゃないか、だから自分を守らなきゃいけないみたいに思ってしまうかもしれないけど、みんなそれぞれ自分の人生を生きるのに必死で、彼女に対抗する敵はいないのです。なので、もう少しみんなリラックスして、自分を他から守らなきゃいけないという気持ちを緩めることができれば、いろんなチャンスが生まれてくると思います」

ブックスマート, オリヴィア・ワイルド, インタビュー, 監督, ケイトリン・デヴァー, ビーニー・フェルドスタイン,
©2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

「描く上で避けたかったのは、漫画的な悪人を映画的デバイスとして使うことでした。そうではなく、あえて観客にこの人は悪人かもしれないと思わせておき、そこから捻りを加えるような作り方でした。(モリーが好意を寄せる)ニックも彼のような立ち位置だと意地悪な男の子という風に描かれがちだけど、決して彼女を失恋させたいと思っていたわけではなく、ただ優しかっただけですよね。でも人というのはすぐに、この人はこういうアイデンティティなんだと決めたがってしまう。そうすることで、自分の経験により秩序を持たせることができるから。かつて自分が失恋した男の子のことを振り返ってみても、ただタイミングや相手が違っただけで、別に悪気があったわけでも悪い人だったわけでもないですよね(笑)。だから、どんな状況でもこの人は自分の悪役なんじゃないかって探す癖を私たちはそもそもなくさないといけないのです」

──本作はこれまでの青春映画のようにヴァージンの卒業や人気を得ることをプロットの中心には据えていませんが、ステレオタイプの解体、若者が他者をどのように知覚するかを主題に考えていましたか?

「その通りです。どんな風に若い人が他者を見るか考えたときに、やはりステレオタイプのことを考慮しなければいけない。思春期に入る頃には、すでにステレオタイプというものをある程度自分の中で形作ってしまっている人も多いと思います。例えば、学園ヒエラルキーがあって、その中で自分の居場所を見つけなければいけないんだという風に。その考えは、自分がここに属さなきゃいけない、仲間はずれになってはいけないという恐怖心から来ていることが多いですよね。それってとても人間的なことだし、動物的な本能だと思うけど、私が焦点を当てたかったのは、そういった思い込みをすべて取り除いた後に何が発見できるのかということでした。なので、ステレオタイプというものを避けるというよりも、ある意味わざと利用して、それをひねるという意識があったのです」

ブックスマート, オリヴィア・ワイルド, インタビュー, 監督, ケイトリン・デヴァー, ビーニー・フェルドスタイン,
©2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

──以前、『エイス・グレード』のボー・バーナム監督にインタビューした際、彼はジョン・ヒューズの青春映画は異星の話のようで、学園ヒエラルキーのようなシステムも理解ができないと語っていました。あなたはヒューズの映画、あるいは彼が定義した概念についてどう思いますか?

「『ブレックファスト・クラブ』は、学園ヒエラルキーがある教室から連れ出されて、図書館で勉強しなければいけなくなるという物語ですが、場が変わった瞬間、みんなが平等化しています。ヒエラルキーがなくなるからこそ、ヒューマンでいられる。それが一番心に響くところではないかと思う。私たちはみんなそれぞれ葛藤しているし、自分の存在を見てほしいという気持ちがあって、ヒューズ作品やあの時期の青春映画はそれを反映していた。だからリアルで、ある時代の学園ヒエラルキーを捉えていたのだと思います。私は、Z世代やミレニアル世代といった若い世代がそのような学園ヒエラルキーに対して闘う新しい波が生まれていることに本当にインスピレーションを受けています。違った形で響くかもしれないけど、当時の映画はいまの若い世代にもリアルに感じられるところがあると思います。ヒューズが定義した学園ヒエラルキーにインスパイアされて、新しい世代の手でより現代化すると、どんなものになるのか。尊重しつつも、いまの新しい姿を掘り下げたいと思います」

──『ブックスマート』の原型は、脚本家スザンナ・フォーゲルがゲイとストレートの女性の友情を探求した映画『Life Partners』にあるように思います。彼女が脚本にエイミーがゲイであるという設定を加えたようですが、ポストカミングアウトの物語という点は、あなたにとっても惹きつけられる要素でしたか?

「私は若い世代に対して大きなリスペクトを持っているので、彼らのセクシャリティの扱い方をリアルに描いている物語であることに魅力を感じていました。なので、エイミーがゲイであることは物語に惹かれる理由が増えたという感じでした。一緒に脚本を練り上げていくなかで、エイミーはモリーから独立することができることを理解していくという物語にしました。エイミーが自分自身を知っていくプロセスを加えたのです。彼女たちがパートナーを見つけて誰かと一緒に終わる物語になっていないのは、それが理由です。それぞれが自立して、ひとりの人間でいられることを発見していく物語でもある。プラトニックな形で、ふたりはソウルメイトとしてずっと一生続いていく。何千マイル離れていてもきっとお互いのためにそこにいてくれるだろうなと感じられるような関係性を描きました」

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──モリーとニックのダンスシーンはまるで『ビッグ・リボウスキ』のようなマジック・リアリズムがありますが、あなたはティーン・コメディのジャンルにMV的な感覚を導入しているように感じます。なぜそのようなヴィジュアル・スタイルを選択しましたか? また、バービー人形のようなストップモーション・アニメーションのアイデアはどこから来たのでしょうか。

「マジック・リアリズムは意図的に入れました。完全に自分の想像力に任せることができていた思春期の経験に基づいたのです。若い頃は、誰もが自分の想像力にもっと余地を与えていたと思います。空想することはとても重要で、潜在意識で自分たちが本当に誰であるのか、本当に何を求めているのか見せてくれるものだと思います。本作では、それを通して、モリーの潜在意識を観客が覗くデバイスになっています。強くて独立したシニカルな女性だとモリーは振る舞っているけれど、実際はとてもロマンティックで、もしかしたらエイミーにも見せていないかもしれない姿を観客は見ることができる。そのシークエンスは、『雨に唄えば』のジーン・ケリーが空想をすることを発端に凝ったダンスをするシーンにインスパイアされています。私は、ストーリーテリングとしてのファンタジーがとても好きなのです。コーエン兄弟も大好きで、『ビッグ・リボウスキ』でもボーリングのシーンで完全なトーンのシフトが起きますよね。そのようにすることで、観客が潜在意識を覗き見るような感覚を持てるとともに、モリーもどこに向かっているのかわからない感覚を感じると思います」

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「ドキュメンタリーも大好きですが、フィクションの映画を作るのであれば、そのストーリーを自分たちの持てるツールの中でどうやって綴ることができるのか考えなければいけない。例えば、もうひとつのキャラクターたちの潜在意識や世界を表す別の方法として、ストップモーション・アニメーションを使って全く違うフォーマットで見せたらどうなるかと考えたのです。そうすることで、観客も何かアトラクションに乗っているような感覚になると思います。メディアを活かすことで、観客に刺激を与え、ただ椅子に座って構えるのではなく、活性化させ続けることが大切だと思います。コーエン兄弟から、ポール・トーマス・アンダーソン、クエンティン・タランティーノ、マーティン・スコセッシら私が敬愛する映画作家の多くはみんなメディアを非常に上手に使って、常に遊び心を持って映画づくりをしていると思います。そのことも重要だと考えています」

──『パディントン2』もリファレンスしたようですが、この映画は様々なティーンエイジャーをカテゴライズしようとせず、より尊重していると思います。シニシズムよりもオプティミズムを提示することにも意味があると考えましたか?

「はい。もちろん扱う題材によっては、より批判的な視線というものも必要だと思います。でも、本作はある種の楽観的なものの見方を求める作品だと考えていました。若い人たちへのラブレターであり、思春期で感じる深い感情へのオマージュでもあります。その時期は気持ちが脆くなってしまう瞬間でもありますが、そのときに鎧を纏わなければならないと構えてしまうと、そのまま後の人生までそれを引きずってしまうかもしれない。だから自分をよりパワフルなものにしてくれるような学位やタイトルを手にしなきゃいけないと考えてしまう。そうすれば自分をいろんな感情からもっと守れると思うから。でも、若いときってもっと脆さを出せる時期だからこそ、楽観的なアプローチをしてほしいしですし、その体験がこういうものであってもいいんだと映画で感じてほしいと思います。いま大人の立場から、16~17歳の思春期を思い返すと、捉え方が違ってきますよね。その当時の自分の周りにいた人々も愛情と共感を持って振り返ることができますが、当時はみんな怖かったりしませんでしたか?(笑)もちろん世界に対して激怒したり、シニカルになったりもするけど、私のベースラインは楽観主義寄りです。人に対しても人生に対してもワクワクしますし、たぶんそれは私が作るどの作品に対しても感じられるのではないかと思います」

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は8月21日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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