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自己肯定とナルシシズムの違いって何?

その区別が困難なほどの、自己愛と自己PRの時代に私たちは生きている。

by Douglas Greenwood; translated by Ai Nakayama
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09 September 2019, 8:00am

American Psycho

自分のInstagramの投稿を見てみてほしい。だいたいの人は、ちょっとスクロールしただけで少なくとも1枚、自嘲的なキャプションが付いたセルフィーが見つかるんじゃないだろうか。ちなみに私は数週間前に、「顔面移植がしたい…」というコメントとともにセルフィーを投稿した。当時の私は別に、「どうした、大丈夫?」みたいなDMや、「めちゃくちゃかわいいじゃん! 自分じゃわかんないのかな」などという友人からのコメントを欲していたわけではない。

でも、きっとどこかではそれを求めていたのだ。虚しさを感じていた私は、生き抜くために、自分でも気づかぬうちに誰かからの注目を望んだのかもしれない。他人からの注目を求める欲望は、あらゆるかたちで表出する。私はその数週間前にも同じようなセルフィーを公開しているのだが、それは自己肯定感が高いときで、みんなに〈いいね〉を押してほしい、注目してほしい、と思ってアップした。アプローチは違えど、結果は同じだ。

今の時代、実に低い自尊心しか持ち合わせていない私たちは、常に他者の承認を求めているように思える。社会に蔓延する〈いいね狩り〉は何よりもおぞましい。しかし、私たちはみんな、SNS上で注目を浴びることに快感を覚えている。悲しいけれどそれが真実なのだ。

心理学的研究によると、若者にとって、Instagramの〈いいね〉のようなシンプルなものが、「社会的承認の証と捉えられている」という。私たちは、自分がいかに立派な美しい人間で、どれほど楽しい出来事を経験しているかを、自分で自分に言うのではなく、自分の周囲のひとたちやフォロワーに教えてもらうようになっている。

最悪だがそれこそ、社会的承認が即座に測定可能となっているネット上での生活がもたらす副産物なのだ。その結果、私たちは自分を充分に愛し、認めることができなくなっている。インターネットが私たちの最良の資産にさえ悪影響を及ぼすなら、当然最悪の欠点だってさらに悪化する。

とはいえ、自分自身に健全な興味を持つのはいいことのはずだ。自信を欠如しているひとが多いこの世のなかで、しっかり自信を持っているなら最高だ。しかし、自分を過剰に褒めていると、単純に自己満の人間になってしまう。

今年7月、『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズでブライエニーを演じた女優、グウェンドリン・ クリスティーは、同作を製作/放送したHBOがエミー賞の助演女優賞に自分を推薦してくれなかったため、自己推薦したと明かした(HBOが推薦したのはレナ・ヘディ、メイジー・ウィリアムズ、ソフィー・ターナーの3名)。

グウェンドリンは最終候補者に見事選出され、HBOを見返すことができた。彼女のその積極的なアプローチが業界内で認知されるようになったのは、米国のラジオパーソナリティ、ジュリー・ディカーロ(Julie DiCaro)のツイートの力が大きい。彼女はそのツイートで「自分が自分のいちばんの応援団にならないと」という思慮深いアドバイスを書き込み、27万以上のいいねを獲得した。

彼女のこのツイートは、疑いようもなくグウェンドリンの行動を支持するものだ。ナルシシズムは芸能界において、まるで山火事のように広がっているが(学術誌『Journal of Research in Personality』に掲載された論文によると、リアリティ番組のスター、俳優、ミュージシャンは、誰よりもナルシシスト度が強いそうだ)、グウェンドリンの場合は病的なナルシシズムとは違う。むしろ、まさに健全な自己肯定といえる。では、そのふたつの違いとは何か?

自己肯定とナルシシストの境界線が曖昧なのは、幼年時代に端を発する場合があるようだ。『It’s Not Always Depression』の著者で心理療法士のヒラリー・ジェイコブス・ヘンデル(Hilary Jacobs Hendel)によると、私たちは発育期に賛辞を真に受けないよう、制御することを教わるという。

「私たちはみんな、傲慢不遜になることはよくないと教えられます。なので、褒められても『そこまでじゃない』とすぐに否定してしまうんです」

賛辞を得ると、私たちの心と身体にポジティブな感情が発生する。しかし大人たちは、その感情を直ちに打ち消してしまう。

「自分についてポジティブな意見を耳にすると、身体は自然と大きくなったように感じられる。それが〈big-headed(大きな頭=うぬぼれ)〉という比喩表現の元になっているのでしょう」とヒラリーは説明する。

「しかし、その反応に対して、『思い上がるな』『目立ちたがりだ』『自信過剰になるな』と、第二の感情、すなわち羞恥心が生まれます。それが誇りや喜びという第一の感情を押しつぶしてしまうんです。羞恥心はどんな感情にもまさり、私たちが必要としているひと、愛しているひとたちから非難されないように私たちを守ってくれる。それがあるからこそ、最初に感じた誇りや喜びを葬って、自分自身が追放、排斥される危険性を避けることができるんです」

過剰なナルシシズムは精神疾患の一種とされ、私たちはみんな、ナルシシズムという広いスペクトルのどこかしらに位置している。ヒラリー曰く、健全なナルシシストは「2歳頃、ナルシシズムが甘やかされる環境で育つことで生まれる適切な自意識を有しています。子どもが奔放に育ち、自分はすばらしいと思っていても、成長すればそのフェーズを過ぎ、自分自身と同じように他人に気を遣うことができるようにます」

いっぽう、病的なナルシシズムはずっと醜悪なかたちで表れる。遠くからでもわかるほどだ。チャーリー・ブルッカー(Charlie Brooker)の『ブラック・ミラー』が教えてくれている通り、現代に生きる私たちを映し出す鏡はスマホ。2019年のナルシシストは、私たちのスマホにまとわりつくことを使命として生きている。

自己啓発本『Destruction: Free Yourself from the Narcissist』の著者マリアンヌ・ヴァイスリッチ(Marianne Vicelich)は同書内で、かつてフロイトが有害なナルシシズムと診断した疾患が現代社会においていかに表出するか、それを定義づけるふたつの特徴を指摘した。

それは「他人の注目を欲する」ことと「直ちにそれを欲しがる」こと。それに加え、『The Narcissism Epidemic: Living in the Age of Entitlement』を上梓したジーン・トゥウェンギー(Jean Twenge)とW・キース・キャンベル(W. Keith Campbell)は、「他者との深いつながりの欠如」を指摘している。

バランスを取るのはなかなか難しい。しかし、見目麗しいひとびとの姿をネット上で日常的に目にしながら、健全なナルシシズムをある程度持ちつつ、「ほら、私イケてるでしょ。褒められてしかるべきでしょ」と主張することは間違っているようにはみえない。

23歳のアーティスト、ブルースのInstagramアカウントには、作品の写真に混じってセルフィーが何枚も散見される。彼は自分自身のナルシシスト的な傾向を自覚しており、それでも健全なほうに進もうとしているという。「ただ、コントロールするのは難しいです」とブルースは吐露する。「SNSを使う時間は減らしました。少なくともメインのアカウントは。ナルシシズムと自閉症を抱えており、それが度を越して、目に余るくらいになってしまうことがあるので」

そこで彼は、〈フィンスタ〉をつくり、批判的なフォロワーたちの目に自分のナルシシスト的な傾向が映らないようにしている。24歳のロッティも同じだ。彼女のメインアカウントはメイクアップの作品を投稿する場だが、時折セルフィーが現れる。
「もし今、状況が違ってInstagramを個人的な目的のためだけに使っていたら、自分のことを中心に考えるために、Instagramからは距離を置きますね」と彼女は語る。

「インスタでつながっているひとの半分は実際に会ったことがないひとたちです。リアルな友人は数える程度。でも、自分の人生にとって誰が大切なのか、誰の意見に自分は価値を置くのか、そのことに気づくのが重要。結局、みんな何らかの理由でインターネットを使うし、ネット上で自分の見た目を取り繕ったり丁寧に構築して、他人の目に実物以上に魅力的に映るようにすることだって簡単です。いいねをもらうたびに、褒められている気分になるんです」

バランスを取るのはなかなか難しい。しかし、見目麗しいひとびとの姿をネット上で日常的に目にしながら、健全なナルシシズムをある程度持ちつつ、「ほら、私イケてるでしょ。褒められてしかるべきでしょ」と主張することは間違っているようにはみえない。

ヒラリーは、褒め言葉を変に歪めるよりも、素直に受け取ったほうが、私たちの自尊心に確かな影響を与え、適切なナルシシズムへと少し近づけるはずだと考えている。「それには癒しの効果がある」と彼女は断言する。

「カタツムリのようにゆっくりとしたペースになること。そうして、自らの身に起きたすばらしい物事について語るとき、身体のなかで感情が沸き起こるのを感じてください。最初に感じるのは羞恥心です。でも、その羞恥心に少しだけ横に外れていてもらえば、そのほかの感情に気づくことができます。社会で教えられたメッセージには反することになりますが、誇らしい気持ちを取り戻すことで、ゆっくりとそれらの感情を紐解くことができる。そしてそれを脳が認識することで、どんどんポジティブな感情を得られるようになります」

結論はこうだ。ナルシシストであることは必ずしも悪いことじゃない。それがどこに根づいているかを把握し、それをコントロールできるのであれば。

自己肯定感を抱くこと、自分の価値を理解することはすばらしい。ただ、そればかり考えるようになることは避けたい。自己満な人間は嫌われる。

This article originally appeared on i-D UK.

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