「文化的な行為はすべて政治的」篠田ミルとMars89が語る、音楽と政治の距離

フジロックに端を発した「音楽に政治を持ち込むな」発言から早3年。〈#自民党2019〉のプロジェクト事務局が、「若い世代に政治に興味を持って頂きたいという狙い」で「音楽やアートを使って」いくと宣言した今、音楽と政治はどのような関係にあるのか。yahyelの篠田ミルとDJ/コンポーザーのMars89が話し合った。

by Kentaro Takaoka; photos by Houmi
|
13 June 2019, 10:09am

この記事は『i-D Japan No.7』ヒーロー号から転載しました。

英単語の「party」は、DJパーティだけでなく、人びとが集まって形成される集団や政党も意味する。つまり人が集まれば意見の相違が生まれ、集まる人数が増えれば大きな意味での「政治」となる。人が集まる場に毎週のように関わる20代後半の次世代を担うミュージシャン2名。彼らに政治への関わりを語ってもらった。

1人目は、アンダーグラウンド・クラブミュージック・シーンで信頼を積み上げるDJ/コンポーザーMars89。今年の1月にはUNDERCOVERのパリコレでのショーへの楽曲提供やヴァージル・アブロー主催のパーティにも出演。普段はSNSで政治的な発言をすることに躊躇しない。

2人目は、クラブミュージックの質感を取り入れたバンドyahyelのサンプラーを担当する篠田ミル。3月に発売された待望のセカンドアルバム『Human』、そのリリース記念となる恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブも完売と好調。もともとメディア論を専攻していたという。

音楽と政治への感度の高いアーティストの言葉を通じて、現在ならではの実感を共有したい。

Mars89, 篠田ミル, yahyel, ヤイエル
Mars89(左)と篠田ミル(右) photography Houmi

【日常から立ち上がる政治的な感覚】

ーー以前の日本では、海外からの政治的な音楽を消費文化として接して、歌詞や行動を理解していなかった場合が多かった。それもあってアーティストが政治的な発言をする機会が少なかったのですが、現在は増えている印象です。まずふたりが最初に政治的なことに興味を持ったきっかけはなんでしょうか?

Mars89:自分にとって特に参考になるような日本人アーティストがいたわけではないですが、普段からパンクやヒップホップを聴いていたので、音楽と社会や政治がつながっていることが自然でした。

篠田ミル(以下、ミル):自分は90年代のテクノの流れですね。ベルリンで行なわれていたラブパレードは、路上でDJをするわけですが、音楽性だけを抜き出して政治的であることを完全に脱色することはありえない。

ーーここ数年で社会状況を含めて変わってきた実感はありますか?

Mars89:批評家のマーシャル・マクルーハンは「芸術は早期警報システム」と言っていましたが、社会と向き合って表現してきた人からその警報が発せられて、その流れで政治をより身近に感じ取る人が増えてきたんだと思います。もし政治が急激に悪くならずにふわっとした状況だったら、反応するアーティストも増えなかったかもしれない。だから社会が明らかにヤバい方向に向かっているのも原因のひとつかな。

ミル:日常的にネットでつぶやいたりすることで、可視化されやすくなったんじゃないでしょうか。そのぶん、みんな自分の見たい世界しか見ない「フィルター・バブル」的な分断も深刻になったとは思いますが......。

ーースマホでネットを毎日見るようになったから、上の世代とは見える世界が違いますよね。実際に参加した政治の場の思い出はありますか?

Mars89:僕はデモに行くことと募金することは同じ感覚ですね。子どもの頃、ユニセフに募金していたことの延長線上にあります。いちばん空気感が良かったのは、杉田水脈議員の「LGBTは生産性がない」という発言に対する自民党本部前の抗議デモ。レインボープライドの人たちも来ていて熱気がすごかった。LGBTQの当事者じゃない自分でさえも勇気づけられた感じがしました。

ミル:あの場は明るい気持ちになりましたね。官邸前での抗議活動は定期的に行っていて、自分にとって初期的な体験でした。

1560237333346-FH010012
篠田ミル(yahyel) Photography Houmi

ミル:一方、ネット右翼系のYouTubeチャンネル 「チャンネル桜」の主催する講演会にあえて行ったことがあります。大学院で自分の研究テーマを探しているときに、日本人のナショナリティに興味があって、それがいちばん歪んでいる現場に行ってみようと思って。参加者は想定と違って、割と気のいいお爺ちゃんたちでした。韓国のことを悪く言う講演をひたすらやっていて、「韓国人は◯◯だから!」と言うとご年配の方から笑いが起きて、綾小路きみまろのトークショーのようでした。誰かに対してヘイトを向けるのがレジャー化しているような印象を受けて、辛い気持ちになりましたね。

Mars89:「日本人」という括りのなかに所属することで安心感を抱いている人もいそう。すべての差別に共通すると思うけど、線を引いて優越感を得ているのかも。近所の定食屋とかでその手の話をしている人がいると、もう行きたくないな……って思ってしまいます。ナショナリティだけでなく、「男/女って◯◯」っていう話とか、引っかかりポイントは日常的に遭遇しますよね。

ーークラブなど音楽の現場でもそういう会話はありますか?

Mars89:誰にでも無意識の偏見みたいなのってあると思うんですよね。本人が差別しようという意識や悪気がなくても出ちゃっている場合がある。

ミル:それで悲しい気持ちになったのは、フジロックに行ったときですね。会場で「中国人はマナーが悪い」みたいな会話が飛び交っているんですよ……。

ーーそういうことに対して自分たちでアクションはしてますか? 例えば、Mars89さんは今夜、官邸前で辺野古に関する抗議行動があって、そのためにグラフィックを作っていますよね。

Mars89:日常的に作っていた物を公開しただけで、そのためにというわけではなかったんですけどね。グラフィックは曲を作っているとき、息抜きに制作します。音楽に関して僕はトラック制作だけなので、歌詞を書く人だったら、そういうタイミングで書いているかもしれない。

ミル:僕は友達が差別的なことをポロっと言ったときに「いや、それは……」と伝えます。そういう努力はしていて、やっぱり言わないとダメですよね。当の本人は無意識なことも多いので、「気づいていなかったんだよ」「ありがとう」と言われますね。

Mars89:攻撃ではなく訂正していく。近い人に言っていくのは大事ですね。信頼関係があるから言うほうも言いやすい。でも正直、何回か注意しても全然直らなかったら「アイツいいや……」って残念な気持ちになってしまいますね。

【場づくりや消費行動も政治性を帯びる】

ーーふたりはクラブやライブハウスなど、人が集まる場所をオーガナイズしていますが、そのなかで意識的に行なっていることはありますか?

Mars89:間接的ですが、普段から反差別的な発言をしていると、僕が主催のパーティにセクシストやレイシストがある程度入って来にくくなるかも。杉田水脈の生産性の話だと、子孫を残すだけが人の価値ってことになるけど、そうなると芸術は無意味で無価値なものになってしまう。逆にそこに価値を見出すことが文明の証ってことになるかなと思う。決められた価値観からあぶれる人間がいて、クラブはそういう人が安心して過ごせる場所にもなってほしいし、いろいろな人を肯定できる場所であってほしいかな。

ミル:僕はオーガナイザーというよりパフォーマーなので、オファーされたときにその相手がどういう人か調べますね。例えば、奥田(愛基・元SEALDs)くんが関わっているパーティ「THE M/ALL」から出演依頼が来たら、ギャラは関係なく出演したり。

Mars89:フェスとかイベントでも、政治性の強いアーティストを呼ぶことによって直接的でなくても意識表明にはなる。ほかにも、コンスタンチンという海外のDJがセクハラ問題で活動できなくなったように、罰さないと来る人が安心できる場にはならないと思います。ドラッグだと被害者は自分だからある程度自己責任で済みますが、セクハラは被害者がいるので。

ーーただ「自己責任」という言葉は、相手を突き放してる感じになりかねないので難しいですよね。

Mars89:ドラッグの場合もつきつめると自己責任というのは難しい。個人の楽しみのために使う人が多いと思うけど、そうじゃない人もいるし、使用するに至った社会環境の問題もある。リーガライズや個人使用の非犯罪化の流れのなかでも触れられるように、社会として考える必要もあるし、完全に個人の問題というわけにはいかないと思う。あと、ドラッグに限らずお金を出すときに、その行き先を考えたほうがいいかも。

ミル:誰にお金に払うかという消費行動も意思表示になる。投票になる。

Mars89:ファストファッションの服やDHCの商品、プーチンのカレンダーを買わないとかね。

【政治の実感をわかせるために】

ーー日常的な政治意識ですね。2年前のフジロックでは「音楽に政治を持ち込むな」という発言が話題になりました。海外から音楽を日本に持ってくると、どこかが抜け落ちてしまって表面的になってしまう象徴的な出来事ですよね。

Mars89:そんなこと言う人がいるんだって、笑ってしまいました。笑ってる場合ではないんですけどね(笑)。結局、反権力的なものに「政治的」というラベルを貼って遠ざけているだけなんじゃないかな。

ミル:日本ではカギ括弧で括られて、「政治」という大きくて遠いものになってしまう。そもそも文化的な行為はすべて政治的なんです。わかりやすく政治的なパンクとかだけでなく、一見まったく政治的じゃないエルヴィス・プレスリーを聴くこと自体、白人が黒人の歌唱法で体を動かすということが人種観に対する影響があったり。ソ連にビートルズを持っていくことも、かなり政治的なわけで。どこで何をやってもあらゆる文化的行為はそもそも政治的なはずなのに、日本では脱色されている。

1560237006787-1Q8A0399
Mars89(左)と篠田ミル(右) photography Houmi

ーー政治を身近にするにはどうすればいいですかね?

Mars89:もっと身近な話題に絡めていけばいいのかな。イギリスの労働党みたいな「労働者の立場です」という政党が日本にはない。実際、自分たちの手にするお金の話を政党にしてほしい。やっぱりお金の話はリアルなんじゃないのかな。

ミル:お金の話は関わりやすいかもしれないですね。想像がつく。消費税や年金も、なんで払うのかを話さないと変わらない。

ーー日本ではアーティストが清貧であることが美しいとされることもありますが、お金とアーティストの距離感について考えはありますか?

Mars89:作品とお金を直接結びつけるかどうかはアーティスト次第ですが、アーティストも生活するうえでお金は必要なので、もっと生活の話をすればいいと思うんですよね。ファンがアーティストを崇拝して理想像を作り上げた結果、生活感がなくなっちゃってるみたいな例はよくみる気がしますね。アーティストも家に帰ってたら家事をするはずなんだけど、謎のすごい人というか崇高な概念みたいになってしまっている。オーディエンスと同じ目線のアーティストは減ったのかな。アイドルの場合、そこを逆手にとって距離感を近づけて握手会をしたり(笑)。

ミル:会いに行けるアイドルも、結局遠い存在なんですけどね......。

Mars89:DJやアンダーグラウンドのアーティストは、崇拝される存在になったらおかしいような気がしますね。同じ高さの目線で一緒のエネルギーを持っていてほしい。

ーーそういった同じ高さ目線のアーティストはいますか?

Mars89:周りのDJは近い気がします。行松陽介さんとLIL MOFOさんは、生活の話も政治の話も音楽の話もしていて、それが同一線上にあって全部含めてライフスタイルになっている感じがしますね。

ミル:僕は、CEMETERYくんとか。アーティストでなければ、奥田くんも近い気がします。

Mars89:ただ生活で一緒のところにいながらも、若いアーティストには夢を見せなきゃいけないなと思うことはありますね。まだできてないですけど。

ーーパリでトム・ヨークと一緒にDJしたりしてるじゃないですか。それが夢だと思いますが(笑)。

Mars89:そう捉えてもらっているなら嬉しいです。僕は音楽の勉強をしたわけでも楽器が演奏できるわけでもなくて、音が出るものを寄せ集めてなんとかしてる感じというのもあって、表現することに対するハードルを高くしたくないんですよね。社会と切り離された存在ではなく、生活感がありつつ夢を見せられたらいいなと。

ミル:僕もその意識があって。ベースを弾いていたけれど、下手で楽器嫌いになって、一生演奏はできないと思っていた。だけど、サンプラーは叩けば音が出るので演奏はできる。それでも曲は作れるんだなと思って。楽器が弾けなくてもアイデアとパソコン1台で、やれるんだぞと。

ーーでは、今回の『i-D Japan no.7』の特集はヒーローですが、2人にとってのヒーロー観は?

Mars89:抑圧されているもののために戦うのがヒーローなのかな。仮面ライダーでもバットマンでもそうですが、弱者側に立つような物語が多いですよね。あとアメリカは、売れたミュージシャンが奨学金制度を立ち上げたり、慈善事業にお金を使うのは当たり前じゃないですか。音楽だけでなく俳優でもそう。日本ではそういうのがない。売れてこそできることもあると思うので、売れた人は是非やってほしい。僕ものちのちは、ヴィヴィアン・ウエストウッドのように戦車に乗って政治家の家にプロテストしに行ったりしたいですね。だからレコード買ってください(笑)。

ミル:僕にとって永遠のロールモデルは、DJのKode9。ミュージシャンとしてもレーベルオーナーとしても偉大なんですが、大学教員としても研究書を書いていて、それらがつながって独特の磁場を持っているんですよね。「音楽を作ること」と「音楽について書くこと」の両方ができる人が、僕のなかでの究極的なロールモデルです。イギリスはクラブカルチャーとアカデミズムが近いという伝統がありますね。

1560237490658-FH010020-2
Mars89 Photography Houmi

【音楽も政治も、まずは現場へ】

ーー西洋には「ノブレス・オブリージュ」という、高い社会的地位や権力を持っている側が責任を果たす文化があるわけですよね。でも日本ではあまり見られない。

ミル:なんででしょうね。日本は、誰かが失敗したときに、その人のせいにしたがる自己責任論が強い気がしますね。僕は全部みんなのおかげだし、全部みんなの責任だと思ってます。失敗をその個人の「自己責任」として短絡させずに、社会の失敗として捉えて、どうやったらみんなで救ってあげられるかを考えていくほうが幸せだと思うんですけどね……。

Mars89:ミスってもやり直せる可能性がないと、みんなビビって何もしなくなるから、自己責任論は良くない。アーティストが社会に対してできることって色々あるけど、どういう未来に生きたいかを考えることが重要な気がする。

ミル:アーティストは無責任なことを妄想したり、提示したりできる稀有な職業だと思う。

Mars89:僕はディスカッションするのが大好きなんですよ。僕は楽しんでいても相手に批判されてると感じさせてしまったりして申し訳ない気持ちになることもあるんですが、普段の生活でもっと建設的なディスカッションを楽しめるようになるといいと思います。

ミル:「論破」って言葉がなくなればいいんですよね。ディスカッションは共同制作やセッションみたいなもの。どっちが勝つではなく、キャッチボールのようなものですから。

Mars89:あとはデモやクラブミュージックにしても、現場に行ってほしい。クラブという環境で音楽を聴いてほしいというのと同じように、デモという人が集まっている場でどういうエネルギーがあるのかを感じてほしい。ネットでの情報収集も悪くないけど、実際に物事が起こっている場所に来てほしいな。

1560237534908-1Q8A0517
Mars89(左)と篠田ミル(右) photography Houmi

Credits


TEXT KENTARO TAKAOKA
PHOTOGRAPHY HOUMI
MARS89 AND MIRU WEAR ALL CLOTHING MODELS’ OWN.

Tagged:
Music
Politics
think piece
yahyel
mars89
Miru Shinoda