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沈黙の演技

Jack Sunnucks

スティーブン・キング原作の映画『IT/イット“ それ”が見えたら、終わり。』で見事に役を演じたソフィア・リリス。次世代ハリウッドスターの到来を予感させる15歳の女優に、i-D は「あなたを震え上がらせるのは何か?」と尋ねた。

This article originally appeared in i-D's The Acting Up Issue, no. 349, Fall 2017.

あの殺人ピエロの映画『IT/イット』がアンディ・ムスキエティ監督によってリメイクされた。今作にもとりわけ記憶に残るシーンがある。しかし、である。そのシーンの主役は恐怖のピエロ、ペニーワイズではない。純真な子どもの魂を吸いとるピエロではなく、15歳のアメリカ人女優ソフィア・リリス演じるベバリー・マーシュの、バスルームの鏡の前での佇まいだ。

Necklace stylist's studio.

観客は身体を固くし、シンクから血が噴き上がるのを身構える(1990年に放映されたTVシリーズ版の最も恐ろしいシーンのひとつなのだ)。だが次の瞬間、ベバリーは自分の長い髪を呆然と瞬きもせずにハサミでズタズタに切り刻む。思いもよらない瞬間だ。ハラハラではなく静かな恐怖がある。ベバリーを演じる才ある若き役者、ソフィア・リリスの演技が強烈な恐怖を呼び起こすのだ。「いつも似た役をもらいます」とソフィアはベバリーについて語る。このベバリーがスクリーンで見せる真の恐怖は、彼女を襲う狂気のピエロにではなく、暴力的な父に対してだ。「髪を切るのはアンディ・ムスキエティ監督のアイデアです。監督はショートヘアのほうがいいって言いました。でもプロデューサーたちはロングのほうがいいって。それで監督は『じゃあ髪はロングで。でも2つシーンを撮ったら切ってしまおう』って」

Earring stylist's studio.

このリメイク版『イット』は、ティム・カーリーがペニーワイズを演じたTVシリーズに比べると、はるかに原作に忠実に作られている。だから10代のキャストたちが経験するさまざまな試練もまた、彼らに迫るバケモノと同じく見応えがある。「私が出る映画はいつも普通じゃないことが起きる。死んだ母親、私を捨てた母親、乱暴な父親」とソフィアは、短篇映画『リップスティック・ステイン(The Lipstick Stain)』(2013)のアディーや、HBOのドラマ『シャープ・オブジェクツ(Sharp Objects)』のカミーユなど、これまで演じてきた役についてジョークを言う。「だけど、いつかハッピーな役がくると思ってます!」 ソフィアには繊細な感情を表現する才能がある。内向的な演技をするときには、目で雄弁に語り、15歳とは思えない微妙なニュアンスを表現しながら、苦悩を抱えた少女を演じる。「ベバリーとはいくつも共通点があります。自分の感情の扱い方や、人とのつながり方に」とソフィアは言う。

Earring and Shoes stylist's studio.

この映画の根幹には<負け犬クラブ>というグループの友情が、つまりフィン・ウルフハード演じるおしゃべりなリッチーや、ジェイデン・リーベラー演じる真面目なビルたちの友情がある。ベバリーは小さな仲間たちを結束させる。もちろんクラブの男の子たちは彼女のことが気になっているのだ。「みんないい人ですよ」とソフィアは共演者たちについて語る。「女の子が私だけだったからどうなるかわからなかったし、気まずいかなと思ったけど、そんなことはなかったです」。スクリーンに映る<負け犬>たちの絆は、この不気味な映画が最も暗くなる場面でも輝きを放つ。ムスキエティ監督は10代の役者たちに対して、役柄での友情と同じく本物の友情が生まれるように促したが、それがいい結果を生んだ。「みんなで自転車に乗ったりして楽しんだの。あらゆることを全員で楽しんで、それで絆が深まっていったんだと思う」と彼女は言う。

ソフィアが演技に熱中するきっかけを作ったのは、義理の父親だった。彼が映画を学んでいたとき、その卒業制作のプロジェクトでソフィアに主演を頼んだのだ。彼女は子どもの頃、ニューヨーク大学のリー・ストラスバーグ演劇・映画研究所で7歳からレッスンを受けたり、14歳で『夏の夜の夢』の舞台に上がるなど、 とてもクリエイティブに過ごした。「古いフランス映画を観て育ちました」と彼女は映画をどう学んだかを語る。「どれも結末がひどかったですね。私はビル・マーレーの大ファンです。『恋はデジャ・ブ』と『ロスト・イン・トランスレーション』がお気に入りです」。ビル・マーレーを挙げたのは納得できる。ふたりとも冷めた表情をするからだ。人はソフィアがとぼけているのか笑わそうとしているのかよくわからない。「10代のキャストたちはぐったりしてたと思う」。彼女はブルーバックで12時間撮影し続けたことを真顔のまま甲高い声で言った。「監督はシーンがうまくいっても『カット』って言わずに、『唾を吐け』って言うんです。そう言われてはじめは戸惑ったけど、撮影の終盤には慣れました」。監督のムスキエティはアクティビティをしてみんなのやる気を取り戻させた。カラオケをしたのだ。「彼はとてもうまいんですよ」とソフィアは、ムスキエティが歌う「ボニーM」について語った。

アイコニックな血のバスルームのシーンは、ソフィアにとって撮影のハイライトのひとつになった。「汚れましたよ」と彼女はニヤッと笑う。「壁は血まみれだし、私も浴びました!」 それはCGIを使用しない数少ないシーンでもあった。

その後、ソフィアは同じく強烈なプロジェクトに取り組んでいる。上述のTVシリーズ『シャープ・オブジェクツ』だ。このドラマでは、エイミー・アダムスが凶悪な殺人事件を取材すべく故郷に戻る女性を演じている。「いつかコメディをやらせてください。もう少し幸せな人生を送りたいんですよ」と彼女は訴えかけてるフリをする。また、ソフィアは始まったばかりの役者の道と学業とを両立させようとしている。たいていの人にとって学校は恐怖でしかないが、彼女は違う。「怖いものってあんまりないです」と彼女は言う。「前は蜘蛛が怖かったけど、もう慣れました。でも失敗はとにかく怖い。失敗しないかっていつも怯えてます」。しかし、そんな失敗はすぐに起こりそうもない。ソフィアが演じたベバリーには、人を引き付ける魅了があった。それは近年の忘れられないスクリーンデビューのひとつに数えられる。「私はラッキーなんですよ」と彼女は言う。駆けだしの俳優・女優へのアドバイスを求められたときのことだった。彼らはエイミー・アダムスやビル・スカルスガルドと共演する幸運に恵まれていない。「誰にでもそんな時期があるんですよ。そのうち何か変わるって伝えたいです」

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Credits


Text Jack Sunnucks
Translation Hiromitsu Koiso
Photography Collier Schorr
Fashion director Alastair McKimm

Hair Holli Smith at Art Partner. Make-up Dick Page at STATEMENT Artists. Nail technician Natalie Pavlovski at Bridge Artists using CHANEL Le Vernis. Set design Kadu Lennox at Frank Reps. Photography assistance PJ Spaniol, Erik Snyder and Jarrod Turner. Styling assistance Lauren Davis and Sydney Rose Thomas. Hair assistance Kelsey Morgan. Production Felix Frith and Evan Schafer.

Sophia wears all clothing Prada.