フランク・オーシャン主催のナイトパーティ「PrEP+」をめぐる批判とその反論

フランク・オーシャンが立ち上げたクラブパーティ「PrEP+」。1980年代のNYCナイトクラブシーンへのオマージュを捧げたこのイベントはしかし、告知後すぐにLGBTQコミュニティから非難を浴びていた。そこでは何が問題視されたのか。オーシャンが応答したブログの全文を交えてその経緯をたどる。

by Sogo Hiraiwa
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29 October 2019, 8:09am

フランク・オーシャンが主催する新しいナイトパーティ「PrEP+」の初回が10月17日に開催された。1980年代のNYCナイトクラブシーンへのオマージュを捧げたこのイベントは、「もし80年代にPrEPの薬が開発されていたら」という仮定のもと、「人々が集い踊るための現在進行形のセーフ・スペース」を創造する試みである。

「PrEP(暴露前予防内服)=Pre-exposure prophylaxis」は欧米を中心に広まっているHIV感染予防法、及びその薬のこと。抗ウイルス剤〈ツルバダ〉を一日一錠飲むだけで約9割の予防効果があるとされており、近年高い注目を集めている。しかし、米国内での認知度もまだ高いとはいえないようで、オーシャンが「PrEP+」と銘打ったのもそのためだろう。HIV/AIDSに対する人々のステレオタイプや古い認識を刷新するために、彼は80年代初頭から90年代にかけてエイズ危機の渦中で倒れていったゲイの人々が生き延びた世界を作りあげたのだ。

イベント当日はNY拠点に活躍するDJのSXYLK、シアトル出身のプロデューサー/DJのSangoらがDJをプレイし、それぞれがフランク・オーシャンのリミックス曲を披露、トリにはシークレットゲストのJUSTICEが演奏するなど盛り上がりをみせたようだ。ところが同イベントは批判を受けていた。告知が出た直後から、そしてイベントの終演後にも。どういうことだろうか?

告知文で「人種差別、ホモフォビア、性差別、障害者差別、どんな差別に対して不寛容。ダンスフロアはダンスするためにある」とインクルーシブ(包括的)な態度を示していたにもかかわらず、PrEP+でプレイしたDJにクィアは少なく(ほとんどがヘテロセクシャルの白人だった)、イベント自体が招待された人しか参加できないエクスクルーシブなものだったのだ。招待制なのにSNS投稿するのは宣伝的なパフォーマンスにすぎないのではないか、という声もあった。またより大きなものとして、クィアの歴史をなかったことにしているという批判が出た。

80年代のHIV感染者はたしかに死と隣り合わせの状態にあったが、「クィア理論やNYCの(ナイトクラブも含む)カルチャー」は彼らなくしてありえなかった。彼らはHIVに感染していながらにして、今にもつながる文化を築いていったのだ。ちょうどブルースが差別に耐えてきた黒人たちの手によって生まれたのと同じように。

こうした批判に対してフランク・オーシャンはPrEP+の翌日、自身のTumblrに次の投稿をした。

RE:LAST NIGHT

Gilead Sciencesから金はもらってない

Blondedがインディペンデントに企画した

そのことは先にはっきりさせておこう

NYCにおける70年代後半のクラブ文化と80年代のナイトライフは特別なもので、これまで幾度となく語られ、書かれてきました。刺された著名人から、Studio 54やDanceteriaといったミッドタウンのクラブ、MuddやParadise Garageといったダウンタウンのクラブまで。その存在、その音楽、そのルックス、その規制のなさ(笑)。当時のNYがレーザーとディスコの照明だけではなかったことは理解しています。そこに犯罪と貧困が蔓延っていたこと、クラブ文化つまりそこにあったゲイコミュニティの大半がHIVとAIDSによって失われてしまったことも知っています。2019年には、毎日飲めば90%以上の割合でHIV感染を防ぐことができる錠剤があります。 2012年、FDA〔米食品医薬品局〕によって承認された薬です。けれどもPrEPをめぐる価格戦略は悪質としか思えないほどで、実際この薬の認知度は低いままです。ある人たちの命を救えるかもしれない薬への大きな障害となっているのが、この〔高額な〕価格です。そして、もうひとつの大きな障害が認知です。その名前でなかったら、単に僕の好きなクラブの時代に着想を得た音楽と照明を使っただけのパーティになっていたであろう今回のイベントにPrEP+という名前をつけようと思い立ったのは、クイーンズ地区の古い眼鏡工場の地下にあるこのクラブをデザインしていたときのことです(金曜日僕たちの後にすばらしいテクノナイトを開催してくれたThe Basementに感謝)。僕は、多くの人の死と共に多くの約束が永遠に失われた時代に、もし何かが、何万人もの命を救うことができた何かが存在していたらどんな様子だっただろうかと想像を巡らせました。僕はアーティストです。なくても困らない現実を想像することがその役目の核心です。パーティ開催の数日前、チームの仲間とこのテーマについて話し合っていたときのことです。一緒に働いている建築家が、PrEPの薬は認知度だけなら「100%浸透」していると言いました。それは絶対に間違いだと思い、僕はある友達(誰かは言わないけど(笑))にPrEPが何か知っているかと訊いてみると、彼はこう答えました。「バイアグラとかそういう類のやつでしょ?」。数年付き合った元彼はLAのゲイクラブで初めて会ったとき、この薬のことを知りませんでした。認知度はいつでも私たちがそうあってほしいと望むほど高くはありません。ともかく、僕は今わめいています。みんながPrEPについて話しはじめたことが嬉しいです。昨日のパーティに来て僕たちと一緒に踊ってくれたすべての人に感謝します。あなたたちは全員美しく、そのエネルギーは正しかった! Bouffant Bouffant、Sango、Justice、Sherelleにも感謝、昨日のセットはマジで良かった。あ、それからもうひとつ、このパーティがPR行為だとかなんとかっていう投稿を見かけたけど、勘ぐり野郎はとにかく次のPrEP+に来て、酒でも飲んでてよ。そしたらあんたが踊るのに必要なだけバーカウンターの椅子をどけてあげるから。すべての人に愛を込めて。ステイ・セーフ。

そしてPrEP+開催からわずか7日後、24日の昼前にはPrEP+第二弾がその日の夜開催されると発表された。

今度は招待状なしで、21歳以上なら誰でも参加。出演者も鬼才プロデューサーArca、有色人種のクィアDJコレクティブ Papi Juice、Discwomanに所属するジャマイカ出身のShyboi、コロンビア出身のテクノDJのLeeon と全員クィアで構成されていた。このレスポンスの速さからは、フランク・オーシャンがPrEP+に込める思いの強さがひしひしと伝わってくる。

またこの日、オーシャンは以前からSNSで話題になっていたSZAのヒット曲「The Weekend」のカバーのフルバージョンを初披露し、話題を呼んだ。この数週間で、新曲やマーチャンダイズの発表・発売が続いているフランク・オーシャン。しばらくはますます目が離せなくなりそうだ。

追記
アメリカでは現在、 FacebookがPrEP(薬)の広告を掲載拒否したとして問題になっている。理由は「文言が政治的すぎる」というものだが、具体的に何か政治的すぎるのかは説明されていない。数年前には同様の広告が、Twitterに掲載拒否されたこともあるようだ(同社はその後、批判を受け掲載を認めた)。オーシャンが述べていた、PrEPの低い認知率にはこのような事情も関係しているのだろう。

また「エイズ危機は今でも続いている」という専門家もいる。アメリカにおける黒人のHIV感染率は白人に比べて高いという調査結果があり、人種間の認知格差は広がっているのだ。そうしたなか、オーシャンのようなスターがナイトクラブという形でPrEPを啓蒙していくことには計り知れない意義がある。

アクティビストのピーター・スタレーは次のように述べている。「彼の活動は、白人のゲイPrEPアクティビスト100人の活動よりずっと多くの、若いゲイの黒人にリーチするだろう」


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