トモ・コイズミが考える、量産しないファッションの可能性

NYファッションウィークで披露したラッフル・ドレスで一躍注目を浴びたデザイナーのトモ・コイズミ。現地でのランウェイの反応やファッションとの出会い、カスタムオーダーの未来について彼が語った。

by Tatsuya Yamaguchi
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09 August 2019, 11:17am

「既製服(レディ・トゥ・ウェア)をやることも、便利化されたファッションビジネスのシステムに足を踏み入れる気もありません」。物腰柔らかに、しかし、淀みない口調でそう語るのは、ファッションデザイナーのトモ・コイズミ。その一言からも30歳の彼が独自のアティチュードを持っていることは明らかだ。

2019年2月、ニューヨーク・ファッションウィークに彗星の如く現れた彼は8年ものあいだ数多のアーティストやセレブリティに衣装を提供し、コスチュームデザイナーとして質実剛健なキャリアを積んできた。ショーの舞台は、Marc Jacobsのマディソンアベニュー店。ベラ・ハディッドや、グェンドリン・クリスティーが身にまとったカラフルな色彩とボリューミーなシルエットが独自のフェミニニティを賛美する28体のドレスルックが、瞬く間にファッション界を惹きつけた。

トモ・コイズミの原点——そして、「今も常に頭のなかにあり、デザイナーとしての軸になっている」のは、14歳のとき、雑誌の写真を通してジョン・ガリアーノによるDiorのオ ートクチュールコレクションに心を奪われた「実感」と「感動」だ。2000年代初頭、パソコンもiPhoneも手元になかった少年時代に邂逅し、その後の人生を決定づけたガリアーノの名は、彼との対話中に何度も話題に上る。当時と今の高度な情報化社会の違いを匂わせながら、「実感って本当に強い。自分のすべてのスタート地点だし、今でも色褪せず残っている。だから、どんなに迷っても戻ることのできるところなんです」。偶然目にした数枚の「イメージ」は、それほどまでに彼のスタイルに影響を与え続けているのだ。

世界中の人々から驚きと絶賛の声が巻き上がったニューヨークでのファースト・ランウェイショー実現までのストーリーは、彼が、ガリアーノに関する雑誌の記事をスクラップブックに貼り付けていた頃では起こり得ない事件だった。トモ・コイズミは、昨年10月、VOGUE Talentsを仕切るサラ・マイノに作品をプレゼンテーションする好機を得た。彼女がInstagramにポストしたオーガンジーを重ね合わせたクチュールライクなドレスは、インターネット上のファッション・コミュニティに即座に波紋を投じることになる。彼のInstagramのフォロワーは急増。そして、ショーの仕掛け人であるケイティ・グランドもまた、トモ・コイズミが放つファンタジーの虜になっていた。2019年1月、日本時間の早朝4時、彼女からダイレクトメッセージが届く。「あなたと一緒に何かプレゼンテーションをやるべきだと思っている。例えば、次のファッションウィークでどう?」。寝惚け眼に、衝撃が走った。

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ALL CLOTHING TOMO KOIZUMI.

「去年の秋頃からヨーロッパを廻りながら、海外で自分の服を“見てもらう”ことをもくろんでいたんです」。そう振り返る彼が、現代ファッションを牽引するスタイリストの誘いを断る理由など、少しだってなかった。「国内のアーティストと良い仕事ができていた反面、どこか天井が見えてきた感覚があったんです。じゃあ、これまでも、この先も、自分がデザイナーとして“もっとも情熱を注いでいるもの”はどこにあるのかと考えたとき、必然的にインターナショナルなフィールドに目が向かったんです」。憧れの存在が一堂に会した「夢よりも夢のような」チームが、トモ・コイズミの初舞台に力を注いだ。「世界に向けた挨拶の場として、あのショーは紛れもなく成功でした」

「ショーに出た半分は既に世に出ているもの。つまり、やっていることはまったく変わっていないんです」。ラッフルを使ったデザイン自体は4年以上前から継続しながらブラ ッシュアップしてきた独自の技法のひとつだ。「あの日、ショーに来場した業界のキーパーソンや関わってくれた人たちは手放しに褒めてくれた。友達とお茶する約束も美術館に行く予定もすべて白紙になりましたよ(笑)」。彼らのリアクションは、正直で、早い。「国境を越えて作品を認めてもらったことは何よりも嬉しかった。僕は、ニューヨークに滞在した10日間で起こったすべてのことに励まされたんです」。世界中からのリース依頼、有力リテーラーからの企画書——例えば、「既製服ラインをエクスクルーシブで作ろう」といった提案——が彼のメールボックスに届き続けて1ヵ月が経った。

「最近考えていることがあって」と、彼は切り出す。「量産され、流通されなければファッションの意味はないのか?」と。靴やバッグといった、普段自身が制作していない分野とのコラボレーションには前向きの様子だが、「量産して売るためのデザインは自分がやらなくても誰も困らないし、そうではない方法で社会に還元できることがある」と、次第に語尾を強めていく。

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ELENA WEARS DRESS TOMO KOIZUMI. SHOES SUPERGA. SAKI WEARS DRESS TOMO KOIZUMI. SHOES VINTAGE FROM PIN NAP.

衣装デザインの仕事で確かな基盤を持っている彼の一貫した関心は、“表現”のプロフェッショナルと協業するファッションフォトグラフィーとライブステージの上にあって、 14歳の彼がそうであったように人の心を震わせる「イメージ」を届けることだ。「世界中のアーティストや役者、ダンサーといった自分のアティチュードを持っている表現者と自分の洋服がどう共鳴していくかに興味があるんです。男の子が着ても意外と似合うんですよ」。姿勢はブレない。「今は、海外とのコミュニケーションやシッピングにおける垣根はほとんどない。Instagramで世の中にイメージが広く出回った先で、それが誰かに、何かの影響を与えられるというシンプルな流れが理想なんです。自分の服を見て、誰かがデザイナーを目指すとか」

「カスタムオーダーの敷居が下がるといいなと思うし、自分がファッションと関わるうえで意識していきたいことのひとつですね」と、クライアントの希望を叶える“一点もの”の衣装を作り続けてきたデザイナーが未来像を話す。それを聞いて、アパレル産業の深刻な廃棄処分問題が頭をよぎった。脳内を悟られたのか、「もしかしたらカスタムオーダーってエコなのかもしれませんね」と、トモは言う。彼の視点は、プレタポルテの常識から半歩だけ外側にある。ティーンエイジャーで心に刻んだオートクチュールの夢を指針に、したたかで確実な歩みを進めるデザイナーが“ファッション”に向けるシャープな愛情は、この業界を次のステージに突き動かすかもしれない。この占いが、どうか外れないでほしいと、心から願っている。

Credit


Photography Masaya Tanaka
Styling Ai Suganuma
Hair Ritsu
Make-up Yuka Hirata
Photography assistance Misuzu Otsuka, Styling assistance Seki Reina. Make-up assistance Lee Hyangsoon
Models Elena Kendall and Saki Nakashima at Bravo models