鮮烈な“漂流の記録”

美術作家・佐藤貢の自伝的な旅の記録を綴った『旅行記』の出版記念展が開催されている。上海からパキスタン、インド、チベットへと続く“濁流”に流され、1人の芸術家の人生を変えた旅の記録とは。

by Kanayo Mano
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05 August 2016, 9:00am

「全財産二十五万円とパスポートを握り締め、アパートの鍵も自転車の鍵も掛けずに、ほんのわずかな荷物だけ持って、まるで近所の商店街へ切れた茶菓子でも買いに行く様に上海行きの船に飛び乗った(……)」

夏目漱石の"坊っちゃん"顔負けの勢いで、美術作家・佐藤貢(さとうみつぐ)の旅は幕を開ける。そして、標高4,700メートルの峠を自転車で越えようと試みたり、凍てつく荒野の夜を身ひとつで(牙をむく野犬に吠えたてられながら)過ごすことになったり、インドの高所を走る列車から突き落とされそうになったりと、彼の旅路は一時も目を離せないほど激しく、過酷で、生々しい。そんな彼の旅を綴った『旅行記(前編+後編)』の出版記念展が、東京・銀座の森岡書店で開催されている。

「次から次へとトラブルに見舞われて、それでも倒れた先に必ず何かを掴んでいる。同書から感じ取れる佐藤さんの"人間力"には凄いものがあるので、少しでも多くの方に知ってほしい」と話す森岡書店の店主・森岡督行。今回の出版記念展では、"漂流物"を用いた佐藤の作品も展示されており "漂流の旅"を綴った同書と合わせて、彼の作風を肌で感じることのできる特別な機会となっている。

「その時に感じた感覚を、そのまま書いた」と佐藤自身が語るように、五感にガツンと響くような、純度の高い言葉で表現された"旅の記憶"である本書をぜひ一読していただきたい。読み終えたとき、読者の日常にも、それぞれの"旅"が続いていることに気づかされるはずだ。

佐藤貢「旅行記」出版記念展
会期:開催中~8月7日(日)
会場:森岡書店 東京都中央区銀座1-28-15
8月6日(土)19時から、佐藤貢のトークショーを予定。

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Text Kanayo Mano

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