タイの奇才・アピチャッポンを体験する

映画監督・美術作家のアピチャッポン・ウィーラセタクンが描く美しい風景、控えめな愛情表現、アジア的な死生観--軟水のようにまろやかで心にスッと入っていく映像作品。彼の個展と特集上映は、慌ただしい師走に一服の清涼剤となるだろう。

by Yuuji Ozeki
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09 December 2016, 2:50am

《ゴースト・ティーン》2009年 インクジェット・プリント 《Ghost Teen》 2009, Inkjet print

アジアの隆盛は映画の世界でも起こっている。タイの映画監督であり、美術作家のアピチャッポン・ウィ―ラセタクンはその最たる一人と言って良いだろう。1970年、タイ・バンコクで医者の両親のもとに生まれ、タイ東北部イサーン地方のコーンケンで育ち、シカゴの美術学校で映画を学んだ後、映画監督のキャリアをスタートさせた。故郷タイの東北地方を舞台にした作品が多く、その土地の伝説や民話・風俗をベースに個人的な森の記憶や夢などを織り交ぜた、静謐かつ抒情的な映像作品を数多く発表している。森の生き物たちや死者の魂と寄り添って生きる村人の姿は、八百万の神や山への信仰が生活の根底にある我々日本人に共通する点も多い。いまだに残る長閑な農村の一方で都市部の急激な発展とともに変わりゆく東南アジアの現在進行形を、これら独自の東洋的な感性で描いた美しい景色は唯一無二の世界である。アピチャッポンの作品はヨーロッパでも衝撃と好意を持って受け入れられ、『ブンミおじさんの森』(2010)ではタイ映画史上初となるカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞している。現在では日本でも特集上映「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ 2016」が催されるなど、その才能から目が離せない存在だ。

そして、12月13日より東京都写真美術館の総合開館20周年を記念した「アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち」展が開催される。本展覧会では、アピチャッポン作品の重要な要素でもある「目に見えない亡霊=Ghost」をキーワードにすることで、これまで直接的に言及されることが少なかった社会的、政治的側面を探求。また亡霊=Ghostというキーワードから、映像本来が持つ美学的諸相を改めて検証し、アピチャッポン作品の魅力に迫る。

また、12月17日からは「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ 2016」が好評により、アンコールイベントとして戻ってくる。今年日本初公開となった『世紀の光』をはじめ、全ての長編映画を特集上映するほか、開催期間中には監督本人の舞台挨拶やQ&Aも予定されている。劇場では上映作品を網羅したパンフレットも販売予定だ。

アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち
会期:2016年12月13日(火)~2017年1月29日(日)
会場:東京都写真美術館 東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
休館日:毎週月曜日(ただし月曜日が祝日の場合は開館し、翌平日休館) 、12月29日 - 1月1日
開館時間:10:00 - 18:00(木・金は20:00まで)、1月2、3日は11:00-18:00
料金:一般 600円/学生 500円/中高生・65歳以上 400円

アンコール!アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ 2016
会期:2016年12月17日(土)~2017年1月13日(金)
上映作品:『真昼の不思議な物体』、『ブリスフリー・ユアーズ』 、『アイアン・プッシーの大冒険』 、『トロピカル・マラディ』、『世紀の光』、『ブンミおじさんの森』、『光りの墓』、アートプログラム(中・短編集)
会場:シアター・イメージフォーラム 東京都渋谷区渋谷2-10-2
問い合わせ先:03-5766-0114

Credits


Text Yuuji Ozeki

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