イ・ラン×鈴木みのり対談:アイドル、仕事、ジェンダーを巡って

先日開催された『i-D Japan no.6』刊行記念イベントの一部をレポート。「アイドルという仕事・システムはなくなってほしい」と話すイ・ランと「型にはまることで自分らしい表現をみつけられる人もいる」と語る鈴木みのりが、アイドルのあり方、仕事、ジェンダーを語った。

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29 November 2018, 7:13am

日々の葛藤や疑問、自意識との戦い、人間関係、労働。社会との接点を通して「自分はいったい何者なのか」をみつめたアーティストのイ・ランによる初のエッセイ集『悲しくてかっこいい人』と、『i-D Japan no.6』フィメール・ゲイズ号。この2冊の刊行を記念したトークイベント「イ・ランとみのりとしゃべりましょ」が、11月8日の夜、下北沢の本屋B&Bにて開催された。

登壇者は以前から交流があり、共に『i-D Japan no.6』にも寄稿しているイ・ランとライターの鈴木みのり(時折ハン・トンヒョンがイ・ランを通訳でサポートした)。ふたりの希望によって、対談感のない親密な「おしゃべり会」となったトークの内容は、アイドルからフェミニズム、生きていくことまで徒然に転がっていった。ふたりが紡ぐ、やさしく力強い言葉に思考を巡らした2時間を届ける。

イ・ラン:せーの!
鈴木みのり&イ・ラン:イランイラン、ミノリラン、イヤギヘヨ(이랑이랑 미노리랑 이야기해요)
イ・ラン:韓国語で「イ・ランとみのりとしゃべりましょ」という意味。今日はいろいろしゃべりましょう。企画してくれたのはみのりちゃんです。
(会場拍手)
みのり:ランちゃんと知り合ったきっかけは、普通に彼女のファンとしてソウルまで追っかけをしているうちに仲良くなって。今年の7月、ソウルに行ったときにお互いの問題意識を話して、その会話をもとに書いたエッセイを『i-D Japan no.6』にそれぞれ寄稿しました。せっかくなら、刊行と合わせて話す機会が作れたらいいなって。
イ・ラン:たくさん話しましたね。私は「名誉男性」だった自分について(男性主義的な社会に迎合すること)、日本語が読めないからみのりちゃんの文章はわからなかったけど。
みのり:わたしは大ざっぱに言うと「女性という言葉」が指す範囲への問いから、エッセイを書きました。最近日本では#MeToo運動やフェミニズムの流行もあって、メディアでも「女性」っていう看板を掲げる特集が増えたの。たとえば早稲田文学の女性号。でもそこで言われる「女性」ってなにを指すんだろう?と思って。わたし自身トランスジェンダーという一属性を持ってるんだけど、女性というカテゴリーが語られるときにトランスジェンダーってなかなか話題にならないのね。女性の権利の話に含まれて語られないし、世の中に発信する力を持ったトランスジェンダーも少ない。そういうなかで、今回のi-Dに必要な問いとして立てて、さらにどう生きていったらいいのか、というようなことを書きました。

イ・ラン:今日はなにをしゃべりましょうか?
みのり:どうしようかね。すごい人!(当日は追加席も満員)

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イ・ラン:みのりちゃんは今日、何してた?
みのり:今日はお仕事。舞台に出演するから、吉祥寺の稽古場でずっと稽古していた。脚本がしばらく出来上がらなくて大丈夫かな?と不安だったけれど、今日仕上がってきたんだよね。
イ・ラン:どうして舞台?
みのり:自分の説明をずっと求められてきたからか、文章を書くときもしゃべるときも言葉を選ぶし、内省しがちだから、人に動かしてもらう機会があったらそのあたりがほぐれるかもと思って、オーディションを受けたの。以前から作品を観ていた演出家さんだったから、この人に動かされてみたいなって。
イ・ラン:私がいちばん苦手なのは、他人に指図されること。
みのり:わたしも文章を書いているとこだわってしまうけど、相手に委ねたいという気持ちもあるかな。
イ・ラン:私たちはお互いに指図する人じゃないから仲良くなれたのかも。でも、こうしてください、ああしてくださいと言うのはけっこう好き。
みのり:ランちゃんから急に深夜に電話がかかってきて、こないだ公開された新曲のPVの撮影を手伝ってくれないか、ってことがあったね。人に頼るのがうまいなーって思った(笑)。
イ・ラン:みのりちゃんなら好きかも、と思って誘っただけだよ(笑)。 あとPV監督も紹介したかった。私は友だちが大切だから、友だち同士を紹介したいと思うことがよくある。
みのり:誰かに巻き込まれて、よくわからないところに行くのが好きだからうれしかったよ。舞台も自分でコントロールできないからおもしろい。

イ・ラン:本当は一回きりのイベントがあまり好きじゃない。どうしてわざわざお金を払って私のイベントにくるんだろう? といつも思ってしまう。私がみなさんにできることはあんまりないでしょ、でもなにか持って帰ってほしいから、韓国でトークイベントするときは質問を集めてホワイドボードに書いてから、順に答えていくの。今日はみんな、何を聞きたくて来たの? このイベントはひとり2,000円、105人だから約20万円でしょ。そのために何をしようか。マイクがあるからどんな話を聞きたいのか聞きましょうか。
来場者A:ひょっとしたら歌を聴けるかなって思って。
イ・ラン:ライブとトークは一緒にやらない。歌うモードと話すモードで別々のスイッチがあるから、一緒には押せない。

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来場者B:ふたりにK-POPの話を聞きたいです。(イ・ランさんはアイドルスタイルの音楽制作に関わるK-POPプロジェクトを準備中と語っていた、鈴木みのりさんもK-POPへの造詣が深く『ユリイカ』などで執筆する)
みのり:誰かが前に立って、人びとを勇気づけることは大事だと思う。だからSMエンターテイメント(少女時代やSHINeeなどを輩出した韓国大手芸能事務所)の契約期間の長さなんかの問題もあったけど、アイドルという存在も大事だと思ってしまう。
イ・ラン:私は現在あるアイドルという仕事・システムはなくなってほしい。舞台でパフォーマンスしたいという純粋な気持ちでアイドルになったのに、大きなシステムが彼、彼女たちを縛って、世間知らずで自分を語ることもできないようにしてしまうから。CL(元2NE1)のように自分らしい表現を貫いている人もいるけれど、極わずか。CLは希望。
でも、そんなCLでさえYGエンターテイメント(CLが所属するSMに並ぶ大手芸能事務所)が彼女に何もしてあげないから、本当に可哀想。f(x)のアンバーも自分らしい活動をはじめたら、事務所が何もサポートしなくなった。研修生時代から頑張って、ひとりひとり力をつけて今も残っているのは少女時代くらい。アイドルが1年で100組以上デビューする韓国では、そのシステムによってアイドルが消費されるだけの存在になってしまってる。
みのり:私もジレンマは感じるんだけど、やっぱり一概に悪いとも言えない。型にはまることで自分らしい表現をみつけられる人もいるんだよね。SHINeeのキーくんは作られたシステムの上でやりたいことをやっているように見えるし、最近は舞台衣装やグッズのプロデュースをして、自分でちゃんとミーティングも仕切ってると聞いたりもする。
イ・ラン:そうだね。なんでみんな「アイドル」を名乗るんだろうと思う。CLに憧れる若いアイドルが今多いんだけど、それなら最初からアーティストになれないのかな? 自分らしさを表現できるアイドルって0.01%にも満たない特殊なケースだから。
みのり:『i-D Japan no.6』で大好きなハロプロの和田彩花さん(アンジュルム)にインタビューさせてもらったのね。和田さんは自分で作詞作曲はしなくて、初めはプロデューサーのつんく♂さんの言うことを地道に聞いてきた。でもどんどん自分からも動くようになって、自分の人生を通して曲を表現できたらそれこそが素晴らしいアイドルの形なんじゃないかって彼女は言っていて、まさにそうだと思った。憧れのアイドル像はレディー・ガガなんだって。
イ・ラン:最近韓国のTVで元人気アイドルの現在を追ったドキュメンタリーが放送されていたんだけど、それが悲しいの。お金の管理もわからない、携帯料金の払い方も知らない。
みのり:宇多田ヒカルさんは飛行機のチケットの取り方とか一般的なことを何も知らなくて、人間活動を送ると言って一度休業していた。そういうことは、アイドルに限らないんじゃないかな?
イ・ラン:韓国のアイドル・システムだと、学校以外はずっとスタジオのなかで社会を知る機会がない。K-POPプロジェクトがどうなるかわからないけれど、何か今のシステムを変えられないかなと思ってる。
アイドルに対して批判的になってしまってみのりちゃんが別の視点を返してくれたけど、フェミニズムも同じだと思う。今、韓国ではフェミニズムがすごく盛り上がっていて、強くてきつい女性たちの意見だと思われちゃってるけど、みのりちゃんの見方、私の見方、それぞれあるんだろうなと思った。
みのり:ランちゃんの意見が悪いわけではないし、指摘する問題点も理解できるからね。
イ・ラン:韓国では俳優が自分を表現したいと思っていても、一部のスター以外は演出家の入れ物のような存在になってしまっているのが現状。契約の期間、長いあいだ消費されて、絶望していく友だちの俳優も多くて。その姿を見ているのは本当に辛いから、「辞めたら?」って言ってしまう。
みのり:うーん、言いたいことわかるけれど……。わたしは舞台芸術のパワハラやセクハラについてのワーキンググループに参加していて、その関係で、キャリアのために自分を押し殺してしまうという若い俳優の声も聞く。一方でわたし自身は、今稽古している舞台で演出家にけっこう意見を伝えるのね。このあいだは「ホームレス」を表現するうえで、表現する側がちゃんと知ったうえでやらないのはどうかと思うって言ったり。わたしにとっては身近な存在だし、自分もそうなる可能性があるから、泣いちゃって。自分の置かれている立場が辛い場合でもどうしてそこに居続けるのか? みんながみんな自分の意志を貫いて生きていけるか? 表現の世界は難しい話だなと思う。
イ・ラン:いま可愛くて人気のある俳優でも、この先が怖いと言っていた。他にやれることがなくて将来に絶望しながら仕事をしているのは見ていて辛い。だから少数のうまくいっているケースを話せない。
みのり:わたしの場合はフリーのライターで不安定だし、いつ自分がホームレスになってもおかしくないと思ってる。でも学歴社会の日本で大学を中退している身だし、女性やトランスジェンダーへの就労が差別的ななかで、他に選択肢がないからやるしかない。もちろん頭のなかではシステムの悪さもわかっているし、全然稼げないし。i-Dの原稿料とか超安いから(笑)。自分のジェンダーの話なんてしないで済ませたいんだけど、誤解や偏見がある一方で他に発言してくれる人がいないから繰り返すしかない。ずっと前説をやってる感じ。自己実現とか自己表現みたいな本題になかなかいけないんだよね。だから厳しい状況はそれとして、そのなかでハマった型から抜け出して、自己表現に達した成功例を評価したくなる。……時間になっちゃったね。
イ・ラン:アイドルの話しかしなかったね。フェミニズムの話ももっとしたい。
みのり:ラジオやろうよ。私ももっと話したい。
─最後にお知らせなどあれば。
みのり:仕事ください(笑)。
イ・ラン:私もフェミニストだと言ったら仕事がなくなって、ラジオもクビになって、攻撃されることが多くなった。日本でも仕事ください(笑)。