saint laurent 17 spring/summer at paris fashion week

アンソニー・ヴァカレロが、デザイナーに就任して初のSaint Laurentコレクションを発表し、パリ・ファッションウィークが幕を開けた。

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okt 6 2016, 5:55am

Saint Laurent spring/summer 17

パリのベルシャス通りに建設が進む新しいSaint Laurent本部にネオンで輝くYSLのロゴが、アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)のメッセージを深層心理的に表しているのだとすれば、それは「現在改装中」と示唆する素晴らしい方法だと言わざるをえない。エディ・スリマン(Hedi Slimane)の後継者としてヴァカレロがSaint Laurentの次期クリエイティブディレクターに就任したと報じられてから5ヶ月が経つ。この間、スリマンのようなポップアイドル的デザイナーが築き上げてきた世界を引き継ぐということは、相当の謙虚さをもってでしかアプローチできないことだっただろう。ヴァカレロは、スリマンが作り上げた、「反逆的ロックンロールとユース精神」のSaint Laurentという路線を、細心の注意を払いながら避けて、独自の解釈を施した。彼のSaint Laurentデビューコレクションは、このメゾンが80年代に打ちだしたグラムロックの世界観をルーツにしつつ、スリマンが同メゾンで最後に発表した先シーズンのコレクションの世界観にヴァカレロ独自の新しい視点を加え、巧みに新時代へと移行を果たした形となった。「Saint Laurentのアイデアをただ楽しみたかったんだ」とヴァカレロはショー後に語った。スリマンの後継ということで加熱していた期待や予測への対処として、ヴァカレロはメディアからの質問は受け付けず、ファッション批評家たちに厳選したプレビューを行なうという形式をとった。

Saint Laurent spring/summer 17

ショーノートで、ヴァカレロは、今回のコレクションのインスピレーションについて、「社会には不遜で不快とも受け取られうるデザイン」として、Yves Saint Laurentの1972年『スキャンダル』コレクションに見たパロマ・ピカソ(Paloma Picasso)の影響を挙げている。Saint Laurentのようなブランドを改めてローンチしなければならないヴァカレロの心中を想像すると、この言葉に、「もしかすると今ヴァカレロが置かれている立場を指しているのではないか」という憶測すら頭をもたげる。Yves Saint Laurentという老舗メゾンの歴史への畏敬は感じられつつも、やはりヴァカレロのトレードマークである毅然とした淫らさも健在だった。危険なほど短いスカート丈や露出した肩、深くハート型を描いた襟ぐりのドレスや、レザーレットを用いたドレスなどに、それが顕著に見られた。MTVを観、ハイエンドファッション誌にスーパーモデルたちを見ながら思春期を生きたヴァカレロが「セクシー」として認識した80年代調の世界観がこのコレクション全体のトーンになっていた。ランウェイには、i-Dの表紙でもおなじみのフレジャ・ベハ(Freja Beha)やアンジャ・ルービック(Anja Rubik)、セレーナ・フォレスト(Selena Forest)、ヤスミン・ワイナルドゥム(Yasmin Wijnaldum)などのモデルを起用していた。ヴァカレロはまた、ブラックのスキニージーンズやペールブルーのボーイフレンドデニム、ジャケットなど、スリマンが打ち出してSaint Laurentとして根付いた要素も独自の視点で解釈し、そこへ自身が得意とするアシメトリーで脱構築デザインを作り上げたミニスカートや、彼が愛する、ゆったりとしたフィールドジャケットなどを盛り込んだ。きっと、Saint Laurentのヴァカレロ時代を象徴するアイテムとして人気を集めるに違いない。

Saint Laurent spring/summer 17

コレクション中もっとも驚きだった要素は、肌を露出させるカクテルドレスの数々に見られた美しいジゴ袖でも、クチュール調プロムシェイプでもなく、短く立て続けに登場したキリム調デザートジャケット3作品だった。うちひとつは、騎兵が着るジャケットのようなディテールが施されたもので、エディ・キャンベルがまとってランウェイへと登場したが、これがショー中盤を盛り上げ、またYves Saint Laurentがかつてコレクションで取り入れたマラケシュの要素へのトリビュートともなっていた。しかし、ヴァカレロがYves Saint Laurentへのトリビュートとして今コレクションで服に繰り返し見せた最大の要素は、やはり『Le Smoking』コレクションからのモチーフ——エレガントなブラックのテーラリングと、数々のタキシードルックスだった。今回披露されたウィメンズのショーで唯一投入されたメンズのルックは、タフな男性モデルが着た上品なブラックのシースルー・シャツと股上の深いテーラードのパンツで、これは来年1月に発表されるヴァカレロのメンズSaint Laurentデビューコレクションを予見させるルックとなった。「現在改装中」の老舗メゾンとして、それは新時代を迎えるにあたって当然の世界観だったといえる。しかし、前任スリマンがたった7シーズンという極めて短い期間で完全にリブランディングしてしまったメゾンに、いま新しく加わった形のヴァカレロにとっては、これは改装ではなく再建だろう。いや、脱構築ともいえるかもしれない。これから数シーズンにわたり、ヴァカレロはYves Saint Laurentが残した偉大な作品群と世界観にSaint Laurentのコンテンポラリーなアイデアを盛り込み、且つ、そこに自らの視点と声を織り込んでいかなくてはならない。

Saint Laurent spring/summer 17

報道によると、ヴァカレロがSaint Laurentのショーをパリ・ファッションウィークの初日に開催した背景には、そうすることで多くのプレスを初日前からパリ入りさせてほかの若いパリ発デザイナーたちのショーへと誘導したいという思いがあったようだ。Kochéのデザイナー、クリステル・コシェール(Christelle Kocher)は、そんな若いデザイナーのひとりで、レ・アールの天蓋のもと行なったショーには、アメリカ版『Vogue』の関係者がほぼ全員駆けつけた。コシェールは、引き続き現代版『パリの喜び』を独自の視点から描き、Chanelのメゾン・ルマリエのアトリエにより美しく装飾がほどこされた複雑な作りのストリートウェアを通して、近年この街で巻き起こっている文化の交差に関する主張を打ち出している。高級住宅地のエリアは、多文化が入り混じるエリアの影響を受けて変化し始めており、また今年起こったテロを受けてパリの街には高レベルの警戒態勢が敷かれ続いている。パリのなかでももっとも混雑が激しい場所であるレ・アールでショーを行なうというのは、勇敢なチョイスだったと言わざるをえないが、しかしそれが今のフレンチ・ユースに息づく不遜な精神なのだ。彼らは、恐怖心に屈するなど考えてもいない。

Koche spring/summer 17

オリヴィエ・ティスケンス(Olivier Thyskens)もまた、恐怖心に打ち勝ち、得意とするゴシックの世界観を提げて復帰して、ブランドを再ローンチした。シングル『Frozen』で世界を沸かせていたマドンナがこの時期に着ていたドレスの数々で、彼の作品を覚えている読者も多いだろう。自分自身のブランドへ復帰するのは、たとえばヴァカレロのように誰か他のデザイナーが築き上げたブランドに参加するよりもプレッシャーこそ少ないかもしれないが、それでもやはりショーの最後にランウェイへと挨拶に出てきたティスケンスはどこか不安そうな表情だった。しかし、ティスケンスには不安に思うことなどなかったのだ。彼ほどの際立った美的感覚を持ったデザイナーの作品は、いつでもファッションの世界で正当な評価を受けるものなのだから。

Olivier Theyskens spring/summer 17

Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.