生き残る少女の条件:スラッシャー映画と性

ハロウィンを前に、過去のホラー映画を振り返りながら、恐怖を生き延びたヒロイン(ファイナル・ガール)たちについて語ろう。

by i-D Staff
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15 September 2016, 11:13am

ホラー映画への出演で俳優の人気に火がつくなどということはほぼないと言っていい。女優であれば特にだ。フェミニズムにおけるホラー映画の評価は今も昔も非常に低い。ホラー映画では、性に奔放な女性が考えうるもっとも残忍な罰を受けて、ほぼ確実に死に至る傾向にあることは、誰もが知るところだろう。アルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』でシャワー中に刺殺されるあの有名なシーンが世界に衝撃を与えて以来、ホラー映画では性的に活発な女性たちがとにかく酷い扱われ方をしているのだ。その傾向がもっとも顕著なのが『蝋人形の館』で、美しいパリス・ヒルトンが服をゆっくりと脱いで彼氏を誘惑した後にフェラチオを始めると、次のシーンではもう頭を鋭利な刃物で突き刺されているのだ。そんなことがまかりとおるホラー映画というジャンルだが、女性を侮蔑していない例外的な映画もある。ティーンホラー映画の王道プロットに「Fuck you」と中指を突き立てる女性登場人物たちに捧げる讃歌として、この記事を捧ぐ。

まずは1978年まで遡ってみよう。ジョン・カーペンターが監督を務めた映画『ハロウィン』で、当時無名だったジェイミー・リー・カーチスはローリー役を演じ、"絶叫女優"の名をほしいままにした。殺人鬼に追われるものの見事生き延びたローリーに、映画研究家のキャロル・J・クローバー(Carol J. Clover)は自身著書『Men, Women and Chainsaw: Gender in the Modern Horror Film』のなかで"ファイナル・ガール"というステータスを与えている。"ファイナル・ガール"とは、セックスや薬物依存とは無縁であり、ときに性別を問わない名前が与えられ、殺人鬼とは何かしらの関係にある女性を指すキャラクターカテゴリーだ。ローリーは、劇中で武器を使うことで男勝りの強さを発揮していくこととなり、これを観た男性の観客は彼女に感情移入してしまい、ローリーを性の対象として見ることができなくなる。

『ハロウィン』はホラー映画における女性の扱われ方の通例を2つ、浮き彫りにしている。女性のセクシュアリティを否定的に描いたその通例とは「純潔な女性は救われ」「性的に活発な女性は殺される」というものだ。『ハロウィン』は女性を主人公として描き、ホラー映画の型を覆している点では評価されるべきだろう。しかし、処女のローリーは生き残り、性に奔放な他の女性たちはことごとく殺されてしまうのだ。純潔がローリーの命を救い、健全とも言える性活動を送る女性たちが殺されるこの物語は、女性のセクシュアリティが命取りになるという発想を印象づけてしまう。

映画史において、最も正当な女性生存者は、ウェス・クレイヴンの『スクリーム』シリーズに登場するシドニー・プレスコットだろう。この映画は90年代にホラー映画ブームを再燃させ、それまでまかり通っていたホラーの定説をことごとく覆した。シリーズ第1作となった『スクリーム』(1996)で、ステューは「お前は処女じゃない。だから死ぬ。それがルールだ」とシドニーに言う。シドニーは全4作を通して殺人鬼を返り討ちにして生き延びるだけでなく、劇中でセックスに及べば殺されるという通例を覆した。可愛くて人気があるシドニーだが、性的鑑賞の対象になることを拒み、ローカットのトップスや短いスカートなどは一切身につけていない。劇中では彼氏とセックスもしている。性的に活発な女性を売女呼ばわりし、かつ次々に殺し続けてきたホラー映画の歴史に、華麗に中指を立てたプロットなのだ。

その後も3作の続編に登場するシドニーは、戻ってくるたびに強さを増し、殺人犯からつけ狙われるものの、最後には悩める女性のための電話相談事務所を運営するパワフルな女性へと成長していく。ウェス・クレイヴンは、ホラー映画に登場する女性の鑑となるキャラクター像を作り出したのだ。

『ハードキャンディ』に登場するヘイリー・スタークもまたフェミニズムに適ったキャラクターだろう。エレン・ペイジ演じるヘイリーは14歳の学生だ。フォトグラファーを名乗る性的暴行犯のジェフとオンラインで出会ったヘイリーは、性的な内容を多分に含むメッセージのやりとりを経て、ジェフと喫茶店で対面する。自身が思春期の女であることをアピールし、会話のなかで性をほのめかすヘイリーは、スラッシャー映画のステレオタイプの対極をいくキャラクターになっている。ネタバレになるが、何を隠そう、実はこの14歳の彼女こそ、過去の性的暴行や殺人を告白したジェフを苦しめ、吊るし上げる立場となる。「君は一体何者なんだ?」と訊くジェフに対し、ヘイリーは「あなたがこれまでにその目で犯し、手で犯し、心と体を傷つけ、そして殺した女の子たちよ」と言い放つ。

ヘイリーは犠牲となった女子たちのために立ち上がる。「お前が俺に言い寄ってきたんだ」と主張するジェフに対し、ヘイリーはこんな風に切り返す。「みんなそんな風に言うのよ、ジェフさん。小児愛者のひとたちはみんなきまって『あの子が僕をその気にさせたんだ。あの子が僕にそうさせたんだ』って言うの。『あの子は年齢こそまだ少女かもしれないけど、大人の女性として振舞っていた』ってね。子供のせいにするなんて簡単なことよね。背伸びして大人の真似ごとをしたいだけで、彼女たちはまだ少女なのよ」。もしもヘイリーが頭の切れる勇敢な女の子でなければ、彼女もまた犠牲者となっていたちがいない

最近では、2015年に公開された『イット・フォローズ』が"性的に活発な女の子は死ぬ"というスラッシャー映画の定説を覆した。マイカ・モンロー演じるウルトラフェミニンなジェイ・ハイトがセックスに興じているシーンからこの映画は始まる——だが、セックスこそがこの主人公の生き延びる唯一の方法なのだ。彼女は超常的感染症に冒されており、性行為を通して他人を感染させなければ自分の命が奪われることになる。性感染症の病原が幽霊だと考えれば理解しやすいかもしれない。この映画は、退屈になりつつあったホラー映画業界に風穴を開けた。監督デヴィッド・ロバート・ミッチェルが作り出したこのユニークで進歩的な恐怖の物語は、ヒロインが呪いを乗り越える姿を描き、性に迷走する現代社会がとうとう女性のセクシュアリティに対しオープンになってきていることを示してくれた。

ここまで定説を覆すヒロインの好例を、過去から現在までの映画と共に挙げてきた。しかし「そこに多様性が見られるか」と問われれば、「ノー」と言わざるをえないだろう。やはりと言うべきか、これらのヒロインたちは現在の映画業界同様、ヘテロセクシュアル(異性愛)の白人ばかりだ。とはいえ、まずはこれらの映画と女性主人公たちが、女性軽視で知られる映画ジャンルの定説を覆してくれたことに感謝しよう。現実世界では「セックス=死」という図式は当てはまらないし、女性だからといって犠牲者になるわけでもない。私たちの人生がホラー映画のステレオタイプ通りに運ぶわけなどないのだ。

Credits


Text Billie Brand
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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