昔ながらの価値観とニュー・ファッション:ミラノ・メンズ・コレクション

シルヴィア・フェンディが新たな時代の陽気な“平和大行進”で2017年秋冬ミラノ・メンズ・コレクションを沸かせた一方で、MSGMは“女王”の世界に反逆の精神を描いた。

by Anders Christian Madsen
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19 January 2017, 6:31am

Fendi fall/winter 17

「昔ながらの価値観と新しいファッション」と、ミラノで2017年秋冬Fendiメンズ・コレクションを発表したばかりのシルヴィア・ヴェントゥリーニ・フェンディは言った。パトリス・バウメル(Patrice Bäumel)によるトランス全開のトラック「Surge」を盛り込むなど、ミシェル・ゴベールが観客のエネルギーを掻き立てるべく作り出したサウンドトラックで幕を開けた今季Fendiのショーは、シルヴィアがFendiメンズウェアのクリエイティブ・ディレクターに就任してからの2シーズンでもっとも力強く世界観を打ち出した。「ポジティブなカラー、そして楽観的な世界を欲しています」と彼女はショーの世界観を説明した。未来的な化学繊維に、人類がもっとも古くから用いてきた衣料素材である毛皮を合わせるなど、力強くポップな世界観からは、プロテストのデモ行進にも似た活気と勢いが感じられた。ヘッドバンドやジャンパーにはシンプルながらも力強い単語が織り込まれ、プラカードの役割を果たして、ショーは新たな時代の平和大行進さながらのエネルギーを放っていた。アーネスト・ヘミングウェイによる詩に影響を受けたと語るシルヴィアは、そこに見た「"Love"や"Hope"、"Listen"、"Try"といったシンプルな単語が、これまでになく私に共鳴した」と話す。また、バックステージに貼られたムードボードには「ひとに耳を傾けてから自分の意見を述べなさい。きちんと考えてから書きなさい。自分で稼ぐようになってから金は使いなさい。きちんと調べた上で賭けなさい。ひとをとやかく批評するなら、まずは少し静観してみなさい。祈る前に、まずは許しなさい。辞める前に、まずはやってみなさい。仕事を辞める前に、まずはお金を貯めなさい。死ぬ前に、世の中に何かを与えなさい」というウィリアム・アーサー・ワードによる格言も書かれていた。

Fendi autumn/winter 17

ロンドン・メンズ・ファッションウィークで発表されたショーがそろって「新たな時代の新たな政治活動的アングル」を打ち出していたのに対し、ミラノのブランドは全体的に平和主義をもって現在の政治的風潮に挑む姿勢を打ち出していた。シルヴィア・ヴェントゥリーニ・フェンディもミウッチャ・プラダもドナテッラ・ヴェルサーチも、60年代から70年代にかけて、人々が平和を信じて訴えていた世界に育った女性たちだ。だからこの方向性は当然なのかもしれない。この週末から昨日までに見られた多様性溢れるコレクションの数々は、「平和意識」という本質的にして根源的な部分での繋がりを核とするヒッピー思想を思わせるものがあった。しかしだからといって非現実的な理想を謳うわけではなく、いまの世界に蔓延する悲観とネガティビティに風穴をあけ、光を差し込ませようと果敢に挑む姿勢に満ちていた。現在でこそ検閲に便利なツールとなり、ドナルド・トランプの幼稚で口汚い言葉を正当化するための便利なフレーズに成り下がってしまった「ポリティカル・コレクトネス」は、もとはこの3人の女性が生まれ育った世代によって打ち出された素晴らしい概念だった。第二次世界大戦を終えた世界に「もう二度と同じ過ちをおかさないために」打ち立てられた世界の共通認識なのだ。そしてそのような風紀のなかで育った子どもたちは、平和を「当たり前」として過信することはなかった。そして、ポリティカル・コレクトネスという概念がなぜ生まれなければならなかったのか、その歴史を深く肌で感じながら成長していった。そのように育った世代が作り上げたのが、今季のFendi、Prada、そしてVersaceのコレクションなのだ。

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Fendi autumn/winter 17

「どんなふうに生きようと、こういうルールに則っていれば物事は単純なのよ」とシルヴィアはヘミングウェイの詩に目を落として言った。「普遍的な言葉が散りばめられていると思う。だからそれらの言葉をコレクションに散りばめたかった。それと、そこにFendiという名前を入れたかったの。私にとってFendiというのはロゴではなく、たくさんの人が作り上げてきた歴史を意味する"文字の並び"。Fendiの文字を入れることにしてから、私たちは『Trust Fendi(Fendiを信じて)』『Try Fendi(Fendiを試してみて)』なんて冗談で言い合ったりして、楽しんだわ」と言ってシルヴィアは、両サイドにFendiの文字が編み込まれたヘッドバンドを指差しながら微笑んだ。「今回作ったアイテムは、どれも日常的に着られる服。毎日でも着たい、そう思ってもらえるような服です」。古いものと新しいものを融合した今季のFendiには、まったく無理が感じられなかった。ナイロン地のフライトジャケットのスリーブには、その内側からファーのラッフルが大胆にあしらわれ、モダニズムを体現したようなグレーのコートからはヒョウ柄プリントが施されたファーのスリーブが伸びていたりと、むしろ、突然変異的でドラマチックに生まれた新たな世界観のように感じられた。ここ数シーズン、Fendiは新たなコレクションを発表するたびに、Fendiらしい果敢かつ陽気な精神で、新たな世界を切り開いてきた。今季のコレクションは、その方向性をさらに突き進んだ末に生まれた、元気でユニークな壮観の内容だった。「過去は振り返らず、未来だけを見て進みたいと思っています。この先、良い時代がはじまって、良いものがたくさん生まれるはずだから。でも、そんな未来を築くためには、まず既存の価値観を見直さないと。これまで受け継がれてきた価値観を、絶対に失ってはいけないわ」。そこへKポップのスターが現れ、彼女との写真撮影をせがんだ。その向こうには、「Fantastic」の文字が織り込まれたヘッドバンドがあった。シルヴィアが作り上げた今季コレクションの世界観は、まさにこの単語の意味そのものだった。

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MSGM autumn/winter 17

「"衝突"はMSGMにとってとても重要な要素です」と、デザイナーのマッシモ・ジョルジェッティは今季MSGMメンズ・コレクションのショー後にバックステージで語った。そこにあったムードボードには、ヘッドスカーフで頭を飾ったエリザベス二世の写真があった。2017年秋冬MSGMメンズ・コレクションのミューズは、イギリスのエリザベス二世——ステージに登場したモデルたちはそろって美しいパターンのスカーフを頭に巻いていた。現在Netflixで公開され、誰もが熱狂しているドラマ『ザ・クラウン』だが、ジョルジェッティもまた登場人物たちの素晴らしいコスチュームや、イギリスのカントリー調ファッションに夢中になっているひとりだそうだ。そしてその「イギリスのカントリー」とそこに見る「スポーツ」にこそ、ジョルジェッティは"衝突"の要素を見つけたという。「貴族とスポーツですね」と彼は話す。スコットランドのバルモラル城を舞台として、最新テクノロジーが香るカントリー調キルトや上品に用いられたタータン、オーバーサイズのフェアアイル編みニット、ダメージ加工がほどこされたジーンズなどを盛り込んだ世界を作り出した。そこには、第二次世界大戦後の世界に新たな価値観が生まれ、女王ですらも反逆精神を掻き立てられた革命的な時代が描かれた『ザ・クラウン』のストーリーが見て取れた。1977年に生まれたジョルジェッティは、当然ながら、シルヴィア・ヴェントゥリーニが肌で感じて育った終戦直後の世界を実体験としては知らない。しかし、『ザ・クラウン』でその時代を観て、「今の世の中と少しも変わらないじゃないか」と感じたのかもしれない。

MSGM autumn/winter 17

Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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