What Keeps You Alive 

現代に生まれ変わるレズビアン・ホラー映画:『テルマ』『デーモン・インサイド』

セクシーなヴァンパイアの時代は終わった。レズビアン・ホラーの新たな幕が開く。

by Ciara Pitts; translated by Nozomi Otaki
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23 October 2018, 5:56am

What Keeps You Alive 

以前はレズビアン・ホラー映画といえば、ヴァンパイア映画ばかりだった。ランバート・ヒルヤー監督の『女ドラキュラ』(1936)に始まり、70年代のヒット作『バンパイア・ラヴァーズ』(1971)や『闇の乙女』(1971)、そしてかの名作『ヴァンピロス・レスボス』(1971)。他にも、『ハンガー』(1984)やデヴィッド・リンチが製作総指揮を務めた『ナディア』(1994)などのカルト映画も誕生したが、レズビアン・ロマンス作品の人気が高まった90年代半ば以降、レズビアン・ホラーは衰退の一途をたどり、劇場公開された数少ない作品も、これまでのようなヴァンパイア映画ばかりだった。しかし今、『テルマ』(2017)と今年公開(日本では劇場未公開。来年1月にDVDが発売予定)の『デーモン・インサイド』によって、このジャンルは〈牙〉を失い、新たに生まれ変わろうとしている。

ノルウェー発の神秘的なスリラー『テルマ』で、ヨアキム・トリアー監督は、カミングアウトや青春を描く典型的なストーリーを新たな次元へと押し上げた。進学を機に敬虔な両親のもとを離れ、オスロに引っ越した主人公テルマ(エイリ・ハーボー)は、クラスメートのアンニャ(ベッドルームポップアーティストのカヤ・ウィルキンス)に惹かれていく。無邪気なやりとりを通してアンニャと心を通わせるテルマ。不安から自らの感情を否定しようとした彼女は発作に襲われ、テルマのうちに眠る、不可解で危険な超能力が明らかになっていく。

コリン・ミニハン監督の『デーモン・インサイド』は、ホラーの普遍的なテーマを踏襲しつつも、レズビアン・カップルが主役を演じることで、斬新な作品となっている。ブリタニー・アレン演じるジュールズとハンナ・エミリー・アンダーソン演じるジャッキーは、結婚1周年を祝うために休暇をとり、人里離れた湖畔の山小屋を訪れる。豊かな自然のなかで愛を確かめ合うふたりだが、ジャッキーの言動は怪しさを増していく。辺ぴな舞台に漂う不吉な前兆は、ただの〈前兆〉ではなかったのだ。狂った本性を露わにしたジャッキーは、愛する妻、ジュールズに命懸けの鬼ごっこを仕かける。愛する相手を100%知ることなど誰にもできないというテーマに挑む、スリルに満ちた衝撃作だ。

レズビアン・ヴァンパイアを描く映画が世にあふれているのは、このテーマを初めて取り上げたJ・シェリダン・レ・ファニュの小説『吸血鬼カーミラ』が繰り返し再解釈されてきたからかもしれないが、独自の解釈を繊細に表現した作品も多い。例えば、『ハンガー』でカトリーヌ・ドヌーヴが演じるミリアム・ブレイロックは、吸血して仲間を得ることにスリルを覚えていたかもしれない。しかし、さらに深く掘り下げると、これは彼女がもっとも恐れる寂しさ、孤独、死をもたらす行為でもあった。冷酷な雰囲気を漂わせる『闇の乙女』は、残酷で表面的なヘテロセクシュアルの愛と、艶やかで安らぎに満ちたひたむきなレズビアンの愛を、明らかに対比している。これらの作品の同性愛の描きかたは素晴らしいが、同ジャンルの他作品では、同性愛はいまだに悪として描かれている。

トリアー監督とミニハン監督の作品で興味深いのは、セクシュアル・アイデンティティによって悪魔化した、または不当な扱いを受けるキャラクターがいない点だ。『テルマ』の主人公は邪悪で恐ろしい出来事に遭遇するが、自分が同性愛者だと気づくことで、最終的には自由と愛を獲得し、自らを受け入れる。劇中で描かれるテルマとアンニャの関係は、嘘がなく思いやりに満ちている。本作は神秘的なスリラーであるとともに、ロマンス映画でもあるのだ。『デーモン・インサイド』も、ジャッキーの残虐性や暴力への執着を、同性愛者であることの原因や結果としては描いていない。本作はレズビアンであることを心の葛藤とはせず、当然のように敬意を払い、当たり前のものとして扱っている。今年最高ともいえる迫真の演技を披露したアレン演じるジュールズは、強靭で勇敢な同性愛者で、私たちが心から応援できるキャラクターだ。

『テルマ』と『デーモン・インサイド』はステレオタイプを超え、これまでのレズビアン・ホラーにはない深みに到達した。ストーリーそのものはファンタジー色が強いが、現実的で誰もが共感できるテーマを通して、クィアに共通する不安を鋭く描いている。

LGBTQは徐々に受け入れられつつあるが、異性愛が当たり前とされる今の世界において、同性カップルの恋愛に不安は付きものだ。『デーモン・インサイド』は、この不安をありありと描いている。記念日を祝うはずの休暇は生き残りをかけた究極の戦いとなり、ただジャッキーを愛してしまったばかりに、ジュールズは残虐な行為から逃げ惑うことになる。同様に、『テルマ』で描かれるカミングアウトの体験も、様々な点でとてもリアルだ。主人公はただ自分に正直に生きたいと願うが、それに伴う不安はあまりにも大きく、自分が価値のない人間だと思い込んでしまう。トリアー監督とミニハン監督は、社会の主流から取り残された人びとの心に潜む恐怖を見事に描き、ゾッとするほど正確なメタファーで、私たちはひとりではないのだと思わせてくれる。

現代のレズビアン・ホラーの勢いはとどまるところを知らない。「#20GayTeen」(昨年末から今年初めにかけて登場したハッシュタグ。eighteenにgay teenをかけて〈2018年は同性愛者の年〉というメッセージを発信している)からも、今年がレズビアン映画の当たり年だったのは明らかだ。様々なジャンルが流行するのも当然だろう。米国で9月14日に公開されたクレイグ・マクニール監督作『Lizzie(原題)』は、1892年のリジー・ボーデン事件に基づく作品で、クリステン・スチュワートとクロエ・セヴィニーが恋人を演じている。2019年公開予定で、同じく伝記映画の『Benedetta(原題)』は、ポール・ヴァーホーヴェン監督によるエロティック・スリラー。ジュディス・C・ブラウンの小説『ルネサンス修道女物語 : 聖と性のミクロストリア』を映像化した本作は、ヴィルジニー・エフィラ演じる17世紀のレズビアンの修道女、ベネデッタ・カルリーニが幻覚に悩まされ、他の修道女と恋に落ちる姿を描く。私たちが求めてやまないレズビアン・コンテンツ(誰だって同性愛者を演じるクリステン・スチュワートが観たいはず)のなかでも、この2本は絶対に見逃せない。

公開を控えているこれらのレズビアン・ホラーは、観客の興味を引くためにLGBTQを貶めなくとも、LGBTQがホラーの主役になりうることを証明している。このように、レズビアン・ホラーを華麗に進化させた『テルマ』や『デーモン・インサイド』に並ぶ、驚異的で緻密な作品が生まれるのだとしたら、復活を遂げたこのニッチなジャンルは大いに報われるはずだ。

テルマ』は10月20日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開。