「TOKYO ART BOOK FAIR 2017」ディレクター・中島佑介 インタビュー

10月5日(木)から10月8日(日)まで天王洲アイル・寺田倉庫で開催される「TOKYO ART BOOK FAIR 2017」。国内外の出版社やアーティストなど約350組が参加するアジア最大規模のブックフェアだ。TABFのディレクター・中島佑介に、アジア圏で生まれつつある出版カルチャーの新たな動き、なぜいまが本にとって一番面白い時期なのか、ブックフェアの秘める可能性について訊いた。

by Sogo Hiraiwa
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05 October 2017, 8:19am

——中島さんがTABFにディレクターになられて今年で3年目ですが、それ以前と以後で大きく変わったところを教えてください。
「スタートしたのが2009年、そのときはまだ「TOKYO ART BOOK FAIR」とはいっていなくて、「ZINE'S MATE /TOKYO ART BOOK FAIR」という名前でした。元UTRECHT代表の江口宏志さんとロンドンのPAPERBACKのディレクターをやっていたオリバー・ワトソン(Oliver Watson)さんが中心になって立ち上げたイベントで、会場は表参道のGYREと原宿のVACANTでした。そのときは規模も小さくて、ZINEとか個人の自費出版がメインでしたね。徐々に海外からの参加者も増えていって、2014年の段階で出店者は300組ほどになっていました」

——出展者数は一気に増えていったんですね。
「僕は2015年にディレクターとして引き継がせてもらったんですけど、そのとき意識したのはブースの区分けでした。それまでは、個人で自費出版している人もビジネスとして出版活動をしている人も混ざって並べていたんです。優劣をつけずフラットに並べることで、出版の多様性を見せるという点では機能していましたが、一方で来場者からは"混ざっていて見にくい"という反応があったりもしたのでその辺りをもう少し整理できないかなと。具体的には、それまであったAブース(ある程度の規模で出版活動をしている出版社や個人が参加)とZブース(小規模で作っているZINEや自費出版を作っている個人が参加)に加えて、"インターナショナル・セクション"という枠を作りました」

——Aブースとはどう違うのでしょうか?
「個人・企業は問わず、より国際的な視点を持ってビジネスとして出版活動をしている人たちを集められないかなと思ったんです。このブースには海外の気鋭出版社や日本の出版社でも積極的に海外に出ていっている人たちが出展しています。なので、プロダクトとしてのクオリティがきちんとしたものを求めている人はそこに行けばいいし、個人の出版活動、クリエイションの根源みたいなものを感じたい人はZに行けば見つかります。出版にもいろんな表現があるので、来場した人が求めているものにきちんとアクセスできるように整理したかったんです」

——毎年TABFは「ゲストカントリー枠」というのが設けられていて、今年はアジアですよね。中国、韓国、シンガポール、台湾の4カ国からそれぞれキュレーターを招いて、各国の出版やZINEを紹介するということでとても楽しみなのですが、どうして今年はアジアなのでしょうか?
「アートシーンというと欧米が盛んなイメージだと思うんですけど、ここ最近アジア圏でも新しい活動が増えてきているんです。特に台湾、韓国、シンガポール、中国の出版やアートブックには他の国では見られない新しい動きも出てきています。今回のTABFに参加している各国のキュレーターからもそう聞いていたんですけど、言語の壁があってなかなか他の国まで届いていないんです。今回、4カ国をまとめて紹介することでアジア全体の流れも見せつつ、その比較から各国の違いみたいなことも感じてもらえればと思っています」

——その新しい出版の流れには例えばどんなものがあるんでしょうか?
「ただ情報を伝えるものではなく、ページをめくるだとか印刷物として紙に定着させるとか製本するといった物質的なものを伴う本の特性を活かしたものになってきていますね。それはアジアだけではなくて、世界的にみてアートブックはより洗練されてきている気がします」

——中国のキュレーターを担当しているヤンヨー・ユアン・ディさんは、レン・ハンの写真集やステレオ・スコープ付きの本など色々面白い本を出版しているんですね。WEBで目録を眺めるだけでも面白かったです。
「ヤンヨーさんの主宰しているJiazazhi Pressはアジア圏ですごく注目されている出版社です。すでに国際的に評価されている作家の本を出版しているわけではないんですけど、本にする作り方が上手いんですよね。それによって、作家のことは知らないけど本から興味を持つようになって、結果的に作家の名前が世界に知られていくようになったりしていて」

——誰の本かということではなく、本のつくりに惹かれて買う。
「そうですね。彼の活動は国にも認められているみたいで、行政が建物を作ってくれて、そこに図書館とブックショップを作ったりしています」

——本屋には流通されていない海外の出版物を見られるのもブックフェアの楽しいところですよね。
「あと作り手がブースに立っているので話せるんですよ。コミュニケーションをとることでその国の出版文化や自分の知らなかった表現に対して興味を持つきっかけにもなると思います。ずっと本を扱ってきていて僕自身感じることですけど、手元に届いて"なんかいいな"と思う本には作り手の思いが込められている感じがするんですよ。それをより感じられるのがブックフェアという場かなと思いますね」

——出展者同士がつながったり、新しい本の企画が生まれたりするようなこともありそうですよね。
「去年、TABFのなかでSteidl Book Awardというのを開催したんです。そこで受賞はしなかった作品なんですけど、そのダミーブック(見本)を見て興味をもった他の出版社から出版されたということもありました。そういうことがいろんな形で起こるといいなと思っています」

——『i-D Japan no.3』のジンスタ企画も去年参加したTABFで『HIGH(er) magazine』と『NEW ERA Ladies』を知ったのがひとつのきっかけでした。ZINEについてはどう考えていらっしゃいますか?
「本は一回作るとその本というメディアの特性がわかるんですよ。それが次の制作に活かされていって、継続していくことで出版文化が豊かになっていくと思うので、その入り口のひとつとしてZINEはすごくいいんじゃないかなと思いますね」

——英『i-D』の記事で、デジタルネイティブ世代がZINEに回帰してきているという記事がありました。それによると、SNSで発言すると意図していないところまで届いてしまって、知らない人からお門違いな批判がきたり、ネガティブなコメントが見えてしまうと。そういうのは求めてないし、自分が届けたいと思う人たちに届けばいいから、ZINEのようにフィジカルなもので意見や表現を発信するんだっていう趣旨でした。
「それはすごく面白いですね。僕は印刷物って沢山の人に届けるために作るものっていう感覚でしたけど、いまの子たちは届きすぎない感じがいいんですね」

——もう一度、本というメディアの話に戻りたいんですが、雑誌とWEBの関係と同じように、情報はデジタルに移せても、移行しきれない要素も本にはたくさんあるんじゃないかと思います。
「そうですね。数年前、電子書籍が出てきたときに書店としてどう思いますかって意見を聞かれたときにも同じように答えていたんですが、僕は、電子書籍になっても伝わるものは電子書籍になっちゃっていいと思っています。でも物質を伴った本じゃないと伝わらないものがあって、そういうものだけが本として作られていくんじゃないかと。最近は過渡期を過ぎて、そういう本のあり方が徐々に定着しつつあると感じますね。もしかしたら本はいまが一番面白い時期なのかもしれない。一方で若い世代には、本を新しいメディアとして捉えてくれたらいいなって思っています。さっきのちょうどいい距離に届くメディアというのはすごく面白い意見ですよね。そういう本の形式を活かした表現のあり方を若い世代がどういうふうに作っていってくれるのか楽しみにしています」

——「本はこれから面白くなる」っていいですね。
「特にアートブックは面白いと思うんですよ。小説も、もちろん手にとって読むと全然違うと思うんですけど、ある程度置き換え可能なものだと思うんですよね。でもアートブックは紙の手触りやどのくらい開くといった読書に伴う感覚が作品の伝わり方に大きく影響するものなので、作り手がより意識的になることで、ひとつの作品を見せるのとは違うものを伝えられるメディア、表現になり得るのではないかなと思いますね」

——海外だと20-30代の人たちに新しい動きがあるとさきほど仰っていましたが、日本でもそういう流れは感じますか?
「写真にはすごく感じます。でもアートブックとか本っていう構造を考えて、写真以外の表現を本という形で伝えるっていうのは写真と比較するとまだ少ないかもしれません。今回、4カ国のキュレーターたちはドローイングなどを表現した本を持って来てくれるみたいなので楽しみにしています」

——来場した人がそれを手にとって、触発されるかもしれませんしね。
「僕も本当に楽しみなんですよ。あと今回は、横尾忠則さんが装丁を手がけた本や雑誌を400点ほど展示もするんですけど、いま見ても新鮮な驚きがありますね。3号で廃刊になったメンズ版の『流行通信』があったんですけど、そのグラフィックデザインをみても"このアイデアはないな"って感じます。いまの若い子が見てもすごく新鮮なんじゃないかと思いますよ」

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THE TOKYO ART BOOK FAIR 2017
会期:2017年10月5日(木)~10月8日(日)
会場:寺田倉庫 東京都品川区東品川2-6-10
5日 15:00-21:00
プレビュー・オープニングレセプション 1000円 6・7日 12:00-20:00 無料 8日 11:00-19:00 無料

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