KENZOが“フィルム”で物語ること:ウンベルト・レオン interview

「2時間の映画を観るのと同じ体験をすることでしょう」。ウンベルト・レオンが、自身初監督作品であるKENZOの新キャンペーンフィルム『The Everything』、そして敬愛してやまない高田賢三について語る。

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sep 10 2018, 1:27am

とある日の早朝、KENZOのクリエイティブ・ディレクターのひとりであるウンベルト・レオンが脚本と監督を務めたキャンペーンフィルムについて話を訊くため、渋谷に向かった。ホットコーヒーを口にした彼は「今回の“映画”について話したいことは山ほどあるよ」と笑みを浮かべながら話す。監督デビュー作でもある。「過去7年間で制作したKENZOのキャンペーンフィルムと同様に、この29分13秒間のフィルムは2時間の映画を観ているかのような時間を過ごすことができるはず——だからこそ、すべての細部に注意を払わなくてはいけないんだ」——作品のタイトルは『The Everything』という。

キャストに迎えたのは「不可思議な力で引き寄せられティーンエイジャー・グループの悩める女性リーダーのジョージーを演じる」ミラ・ジョヴォヴィッチをはじめ、アレクサンドラ・シップ、コディ・スミット・マクフィー、サーシャ・フロロヴらがティーンエイジャー役を演じる——ウンベルトの友人であるスパイク・ジョーンズ監督もカメオ出演し、彼の実の家族も参加している。つまり、実力派俳優から若手、そしてアマチュアの面々に至るまで的確な役に配された、“スーパーパワー”を持った子どもたちとその母が織りなす物語である。「これはきわめてクラシックなファミリーストーリー。家族の苦難とそれを乗り越えていく有様を描きたかったのです」。まずは目の前のディスプレイに注力し、29分13秒間のスーパーなひと時を堪能あれ。

——物語の構想はいつごろから思い描いていたのですか?
このストーリーは過去8年間ほどかけて、あくまで個人的に書き出していたアイデアが土台になっているんだ。例えば今、ここに座っている僕がテーブルの端に置いてある砂糖の山をすっと見流すだけで、その砂糖が1つ、目の前のコーヒーカップに入ってくるかもしれない——脚本の始まりは「ああ、こんなことをやれたらいいのに」と思う僕自身のパーソナルなイマジネーションに関係しているんだ。僕を高揚させる“馬鹿げたスーパーパワー”をキャンペーンフィルムに落とし込むなら「僕が撮りたい」と進言したら、皆が歓迎してくれたというわけ。

——大きなストーリーラインについて教えてください。
アイデア自体はとてもシンプルなものです。ミラ・ジョヴォヴィッチが演じる女性には——彼女が寝ているベッドを取り囲むシーンでわかるように——13人の子どもたちがいる。なぜ彼らが共に支え合うひとつの家族であるかは物語の謎のひとつとして、言えることは“多民族家族”であるということ。それに、ティーンエイジャーの生活は酸いも甘いも、たくさんの出来事や心の動きがあるから、彼らが多くの変化を受け入れながら“ミニ・アダルト”に移行するかけがえのない時期をフィーチャーしたかったんだ。

——撮影の舞台のひとつは、ご自身の出身校であるカルフォルニアのローズミード高校だったそうですね。
そうなんです! 僕は、高校時代というタイムピリオドのなかで自由に遊びたかった。もし撮るなら、絶対に母校に戻りたいとも考えていたし、校長先生に僕が25年も前に卒業した生徒だったと話すと惜しみない協力を快諾してくれたんだ。僕の同級生はエキストラとして参加しているし、ジョージ、シェリー、ミミ、ボビーとほぼすべてのキャラクターは友人の名前からとったんだ。彼らにも、ミラにも「自分の出身校で映画を撮影して、友だちも全員巻き込むなんて、まるでジョン・ヒューズじゃないの」って言われたよ。でも、まさにそう。自分が体験した高校時代ほど参考になるものはないし、そこに立ち戻るというアイデアが気に入っているんだ。

——もちろんすべてのキャストがKENZOの服を着ていますが、彼らの個性を表現する衣装として完璧にフィットしているように感じました。
どんな映画においても非常に大切なことだね。シェリーはパステルカラーの服を着ていて、ボビーはちょっとオタクっぽいけどクール——彼自身はそのことにまだ気付けていないんだけどね。ローズはタフでおてんばな感じで、ミラーは少しだけエフォートレス。ママはもっと肩の力が抜けていて気楽さが滲み出ている——と、僕のなかですべてのキャラクターを思い描いていたし、実はコレクションのデザインをする時点ですでにそうした人物像を脚本のなかに投影させていた。どのキャラクターがどんな衣装を着るかまで考えていた。映画の制作者がこれほどまで正確に衣装を考慮できるというのは稀有で贅沢なことだと思う。僕は常々、ランウェイもキャンペーンも含め、シーズン全体を通してひとつのコレクションを論理的で美しく、多面的に表現するべきだと考えてる。今回は特に、すべての要素を結びつけながらひとつのフィルムのなかにまとめあげることができたと思っているよ。

Photography Harry Matenaer

——ということは、映画監督だけでなく数多くの俳優やアーティストと組んだKENZOのキャンペーンフィルムは、今やKENZOの表現として欠かせないものですか?
うん。キャロルと共にKENZOのクリエイティブ・ディレクターに就任した2011年から、僕たちは常にキャンペーンの可能性を推し進めてきた。5人の黒人モデルを起用したキャンペーンは初めての撮影であり、僕たちが発する最初のステートメントでもあった。当時は「なぜそんなことをするのか?」と聞く人もたくさんいたけど、その答えは明白です。真の“多様性”を祝福したかったから。つまり僕たちは広告キャンペーンのプラットフォームを“メッセージを伝える場”として活用するべきだと考えたのです。それからグレッグ・アラキ、ショーン・ベイカー、アナ・リリ・アミルプール、カリル・ジョゼフ、ナターシャ・リオン、キャリー・ブラウンスタインといった素晴らしい監督をKENZOに迎え入れてキャンペーンを制作してきました。キャロルと僕、そしてKENZOというブランドは常に“文化”を第一に考えてきたんだ。

——それらが“一本の映画”のようであると。
KENZOのキャンペーンフィルムを撮り始めて感じたことがひとつあるんだ。いわゆるファッション・ムービーは視覚的な魅力に溢れ、とても美しく、ロマンチックでエネルギッシュだけど、僕たちにとっては深みがなく物語性に欠けているようにうつる、と。だから僕がしたいことのひとつは“映像に物語を戻す”ことだった。単なるコマーシャルでなくファッション・ムービーでもなく。仮に今から20年経って、自分の過去を振り返ったとき、すべてのやってきたことがKENZOのためであったと断言したいし、すべての“フィルム”が誰かにとって重要な作品だったと感じたい。意味のある映画をつくり、まるで映画そのものを宣伝するかのように印刷広告を使うことができないかと常に考えてきました。広告は“スペース”であり、その機会を無駄にしたくないという思いがあるのです。

——映画とファッションは、いつの時代もとても強く結びついています。
数え切れないほどにね。人々のファッションを誇張した現実として映画化した素晴らしい例はたくさんある。ほんの一例をあげれば、僕が大好きなハワイアンシャツについて知るならバズ・ラーマン監督の『ロメオとジュリエット』とテリー・ギリアム監督の『ラスベガスをやっつけろ』を観る必要があるね。そこには魅力的なキャラクターと同時に“最も極端”なハワイアンシャツが登場する。ファッションと映画は固く手を結び合い、観る人に伝わるレベルで互いを刺激する何かが常に存在しているんだ。

Photography Yang Wang

——「La Collection Memento(ラ・コレクション・メメント)」は最たる例ですが、現在のKENZOは常に創業者である高田賢三さんの功績や作品、その生き方に対する敬意を表し続けてきました。ウンベルトさんにとって高田さんはどのような存在なのですか?
KENZOでの僕の仕事は、歴史あるファッションハウスの美学を現代に移行させることだと常に話してきました。だからすべてのコレクションにおいて彼がかつてやった“何か”にトリビュートを捧げているし、特にメメントは、彼自身と彼が生み出してきたもの——その“旅”の歴史を祝福する時間を与えてくれるものなんだ。

今は、賢三さんについて語る絶好の機会だね。そもそも彼は誰よりも早く日本人デザイナーをグローバルな存在へと押し上げた人物だし、もし彼がヨーロッパにいなかったらYohji YamamotoとCOMME des GARÇONSはパリでそう簡単に受け入れられることはなかったとさえ思う。これは決して忘れてはいけないことだし、今考えても本当に刺激的な事実だ。そして彼は日本だけでなく、アジアをも代表していると思う。アジア人のデザイナー、アジアのアイデアを持って、アジアの人々のために世界のドアを開けてくれたと。僕たちがこれまでの7年間で明らかにしたかったこと——そしてきっと深い理解を得られていることは、高田賢三という存在がデザイナーとしてどれほど大切か、若いデザイナーに多大な影響を与えてきたことを忘れてはならないという願いであり、僕たちのコレクションは「彼が何をしたのか覚えている」とはっきりと宣言することなんだ。

KENZO - LA COLLECTION MEMENTO N°3 Photography Mohamed Khalil
KENZO - LA COLLECTION MEMENTO N°3 Photography Mohamed Khalil

——最後に大切な質問があります。映画監督としての次回作の予定はありますか?
うーん。将来のことは分からないな。僕はこの映画を作るのが心から楽しかったんだけど、この続きをもっと観たいと思った?

——はい、もちろん。あのラストシーンの後が気になって仕方ありません。
そう言ってくれるなら何かが起こるかもしれない。冒頭の15分間で登場人物について知ってもらえたと思うけど、僕の心のなかにはもっと大きな物語があるんだ。もしかしたら今作が“序章”になって、8部作になったりして(笑)。あるいは、彼女が子どもたちと一緒にいることの真実が明らかになる日もくるかもしれないね。