『ヒューマン・フロー 大地漂流』:アイ・ウェイウェイ インタビュー

中国の現代美術家であり、活動家でもあるアイ・ウェイウェイ(艾未未)が、23ヵ国におよぶ難民たちの旅をつづった映画最新作『ヒューマン・フロー 大地漂流』について語る。

by Juule Kay; translated by Aya Takatsu
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dec 7 2017, 8:58am

「どこにも行くところがないのなら、それは故郷がないということ」。イギリスで2017年12月に公開されるアイ・ウェイウェイの映画最新作『ヒューマン・フロー 大地漂流』のポスターには、そう書いてある。これは近年深刻化している難民問題(ウェイウェイは「人間問題」と呼んでいる)に対してだけでなく、このアーティスト自身にも当てはまることだ。2012年に公開されたドキュメンタリー『アイ・ウェイウェイは謝らない』以来、彼自身もまた難民であることは明白である。『アイ・ウェイウェイは謝らない』の監督アリソン・クレイマンは、中国の刑務所から釈放されるアイ・ウェイウェイや、東京の空港で逮捕される彼、そしてその上海のスタジオが破壊されるところをドキュメントした。

その当時、政治活動を理由にアイは故郷である中国を追われていた。だから彼は自分を、世界中に散らばる、力ずくで故郷を離れさせられた6500万人(第二次世界大戦後もっとも多い)のひとりととらえているのだ。『ヒューマン・フロー』は世界全土から集められた事実と分析、感動を混ぜ合わせた作品なのである。その中でアイは、難民それぞれの運命を前面に引き出した。

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Human Flow, Ai Weiwei

「シリアの現状を示すだけでは十分とはいえない。人間の本質の全体像をとらえ、それがどこから来て、どのようにこうした結果に帰結したのかを知らなければならない」。自身の目で人間性の悲劇を証明するためにこのアーティスト/活動家が、クルーと一緒に23ヵ国(シリア、ギリシャ、メキシコを含む)を旅したのにはこんな理由があったのだ。

i-Dはベルリンにあるスタジオでアイ・ウェイウェイに会い、インタビューを行った。

——「人間問題」をご自分の目で見るため、23ヵ国を旅されたのですね。この旅でいちばん大変だったことは何だったのでしょうか。
「問題はたくさんありました。各国で特別チームを組まなければなりませんでした。キャンプにいる人たちすべて(警官、越境請負業者、難民)を組み入れるには、どこへ行くにも時間にかなり正確でなければいけない。だからきちんと準備する必要があったのです。かなり危険なこともあります。しかしいちばん難しいのは、取材のあと、結局自分には誰も助けられないと実感しながらキャンプを離れるときです。この映画があとでその役割を果たしてくれる、そして願わくば気づきをもたらすはずだと自分に言い聞かせ続けなければなりませんでした」

——難民に関する統計を出しながら、一人ひとりのストーリーを見せたかったそうですね。この映画を通して伝えたいメッセージとは何ですか?
「この映画そのものがメッセージです。マスメディアでも頻繁に取り上げられているこうした問題をなぜ映画で作る必要があったのか、そのことをまず一人ひとりが自問する必要があるでしょう。この映画の関心は、そうした問題の断片的な描写を再生産することでなく、理解しようとすることにあります。人間が直面する困難を理解するためには、そうした事柄を見なければなりません。写真では断片的すぎて、その背景にあるものをとらえるのが難しいでしょう。私たちはそうした背景について多くを知りません。マスメディアが報じないからです。なかには3世代のあいだキャンプで過ごしているような家族も、つまり人生すべてを難民として過ごす人もいるのです。彼らが苦しんでいることは知っていても、誰も手を差し伸べない。世界はひとつになるべきなのに、そうはならない。バラバラなんです」

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Human Flow, Ai Weiwei

——ポスターには「どこにも行くところがないのなら、それは故郷がないということ」という引用句が使われています。あなたも政治的理由で中国を離れなければならなかったわけですが、この言葉はあなたにも当てはまると思いますか?
「そうですね、故郷(ホーム)という考えを反映した言葉です。故郷とはつまり、より寛容で、自分のすべてが受け入れられ、拒否されない場所のことです。自分が拒否されるのであれば、それはもう故郷ではない。わたしは祖国で一度も受け入れられたことがありません。わたしを刑務所に入れ、打ちのめし、追放しました。今わたしはドイツで暮らしています。自由を選んだのです。ドイツ語を話せないので、それはとても限定的な自由だと言えるわけですが」

——故郷はあなたにとって何を意味しますか?
「わたしには故郷がありません。両親を訪れるというごくプライベートなときですら、故郷に帰れるという感覚がないのです。政治的な理由で、両親は常にリスクにさらされた状態で暮らしています。人生を通して。だから両親と一緒のときも、わたしは安全ではないのです」

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——あなたはかつて80日以上収監され、思想以外のすべてを奪われて釈放されました。このような極限状態で気づいたことはありましたか?
「いちばんひどい状態は、殴られたときでも収監されたときでも、敵だと思われたときでもありません。それはあらゆるコミュニケーション手段を剥奪されたときです。あんなふうに逮捕されると、語彙をすべて失ってしまう。誰も話す人がいませんでした、看守でさえも。だからまったく新しい語彙を得ることになります。あらゆる動きや見たものすべてが、まったく新しい意味を持ちはじめるのです。受け入れるのはとても大変でした。しかしそれは、外国に行ったすべての難民が経験することに他ならないのです」

——わたしたち一人ひとり、もしくは皆がこの「人間問題」を解決するためにできることは何でしょうか。
「グローバリゼーションや政治的状況の緩和により21世紀はよりよい状態になるものだと、誰もがずっと願い続けてきました。しかし、今はかつてないほどの国境が作られ、国々がはっきりと隔てられているように見えます。私たちはこうした状況に耐えるのではなく、打開しようとしなければならない。問題の原因はすべて人にあるとわたしは信じています。だから今、解決策を探す必要がある。変化をもたらす力があると、私たち皆が信じなければならないのです。それを信じられなくなったとき、ひとは希望も、信頼も、人間性も失ってしまうのだから」

ヒューマン・フロー 大地漂流

2019年1月12日(土)よりイメージ・フォーラムほかにて公開。