そして神はトミーを創りたもうた:エッセイ&リリック

バンクーバー出身のラッパー トミー・ジェネシスが自らのアイデンティティとセクシュアリティについて語る。さらにi-Dのために彼女が書き下ろした最新のリリック「A Free Freestyle for Anyone to Perform」を公開。

by Tommy Genesis; translated by Aya Takatsu
|
nov 7 2017, 9:52am

This article originally appeared in The Sounding Off Issue, no. 350, Winter 2017.

生まれたとき母は私にジェネシス(訳注:旧約聖書の『創世記』という意)という名前をつけた。父は嫌がった。からかわれると思ったからだ。でも時がたつにつれその名前が物事はやがていい方向に向かうんだってことを思い出させてくれるようになった。神さまとの約束であるかのように私は自分の名前を手放さない。自分が小さく、取るに足らない存在だと感じるときには、「あなたはジェネシスなのよ」って自分に思い出させるの。あなたにはこの人生でやるべきことがある、さもないと運はいま尽きてしまうんだって。

両親は教会で出会った。父はピアノを弾く母の姿を見て一目惚れしたっていうわけ。父は若いころにインドから移民としてやってきた。祖父は科学者で祖母は看護師だった。インドの南端にある田舎の町に住んでいたときに、カナダで科学者と看護師の求人募集の記事を見つけたの。そして何の確約もないまま服だけ持ってカナダへ渡った。家族や伝統から離れるというその選択が、私たちの人生を変えたってこと。

Tommy wears jacket and jumpsuit Miu Miu. Hat stylist's studio.

小さいころは多くの時間を車の中で過ごした。父の仕事は転勤が多くて、いつも移動していたから。車が私にとって安心できる場所、私の家になった。ときには数週間しかいない街もあったし、数日のこともあった。でも母は何かを作ったり遊んだりして、いつだって私たちを退屈させなかった。住むところがないなんて私たちに一度だって感じさせたことはなかった。母と父は郊外に住むハーフ同士のカップルだった。子どもの頃、なんでみんな父をそういうふうに扱うのか。なんで私をそうやって扱うのか。どうしていつもそういうことが起こるのかわからなかった。肌も目の色も明るい姉はいじめられたことなんかない。毎晩自分の目の色が変わるようにお祈りをしたことを覚えてる。そして初めて私が私であることを誇りに思ったときのことも。ある夏キャンプに行ったときだった。私は8歳で女の子は誰も私と遊んでくれなかった。なぜ口をきいてくれないのか聞くと、私のような人とは話しちゃいけないからだと言った。納得できなくてこう言った。「私のどこがいけないのよ?」女の子たちは「肌の色が濃すぎるのよ」と答えた。すごく変な感じがした。それで父に電話をしたの。父はキャンプ場までやってきて、"君たちのそばかすをぜんぶ集めたら私より色が濃くなるだろう"ってその子たち全員に言った。そして私のバックグラウンドを話して聞かせたわ。どこから来たか、とか。そのあと"肌の色が明るいからという理由で誰も君と遊んでくれなかったらどう思う?"と尋ねた。父が話し終わる頃にはその子たちは泣いていた。いつもこんなにうまくいけばいいのにって思う。

Jacket and top Saint Laurent by Anthony Vaccarello.

私にはおかしな記憶がいくつもある。私は虐待と怒りと痛みの世界から来たの。インドの先祖たちは分断されている。もともとみんなヒンドゥー教を信奉していた。だけどその後、キリスト教に改宗した人たちは離れて行った。南インドでのキリスト教の普及に尽力したのは使徒トマスという人。だけど私は彼らの子孫じゃない。何をしでかすかわからない問題を起こししそうな存在ってところでしょうね。いろんな人種の血が入り混じったバイセクシュアルのラッパーで、アートの学位を持ってるんだから。

音楽をやろうなんて思ったこともなかったし、それは今でも同じ。始まりは映画だった。だから今でもミュージックビデオ監督と編集は自分でしている。私って人目に出るのは得意ではない方なの。自尊心がありながらシャイでもあるっていうのは、最悪の感情よね。作品について語るのは好きじゃないし、自分について話すのも好きじゃない。インタビューは難しいわ、いい気分でいられたことがないんだもの。誰にも本当の自分を見せたことはない。音楽を作っていればしゃべる必要はないでしょ。現象学(「人それぞれ見ている世界が違う」ことを証明する哲学)を信頼しているの。アートを作るときは、それを何らかのものにしたいのであって、何かについてのものにしたいわけじゃない。私も音楽でそしてインタビューで、同じことを感じている。もし私がここに座って何かがいいと思う理由について説明したとするなら、その"何か"は失敗作ってこと。アーティストの力など借りず、作品自体で成立しないのであれば、それはアートと呼べる? ラップを始めたのは、純粋に自分に歌なんて歌えないと思ったから。でも最近、歌を始めたの。純粋にラップの気分じゃなかったから。

Robe Supreme. vintage Bodysuit Malin landaeus. Trainers Fenty x Puma.

14歳の妹がいる。この広い世界の中で彼女は私のお気に入り。彼女ほど思いやりにあふれて、寛大で、知性のある人は母以外に会ったことない。14年のあいだこの小さな人が怒っているのを一度も見たことがないもの。彼女はあらゆる状況に実際の年齢以上の意識を持って対処してる。こう前置きしなきゃいけないのは今年まで彼女は私の音楽を聴くことを許されていなかったから。父は私の最大のファンなんだけど「おまえの音楽を妹に聴かせたいんだったら、彼女が聴くことのできる曲をつくるんだね」と言った。つまり下品過ぎるなってこと。私はカナダの実家にいて、2階に上がり自分の部屋の?ドアの下に靴下を詰めて、父に音楽を止めるように言ったわ。ベッドルーム・スタジオを作ってLogic(音楽制作ソフト)を立ち上げた。その日に作った曲「I'm Yours」はアルバムの最初の曲。

先週ニューヨークのバーでひとりの女の子が近づいてきて「自分には天使が見える」って言った。天使は信じてる。与えられた境遇に自分が見合っているといつでも思っているわけじゃないけど次のアルバム『Genesis』ではそうなると願っている。「あなたのセクシュアリティについて表現して」と言われたんだけど最近の私の音楽は性に触発されたものじゃない。年齢が上がると違う種類のエネルギーに対して心がオープンになるの。この世界はほしいものと必要なものがごっちゃになってる19歳の男の子みたい。私も以前はそうだったけど、私が持っていないものを他人から与えられることはないって気づいたの。魂がなかったら私は内臓と骨と血でしかない。

Jumper, shirt and hat Raf Simons.
Jacket Supreme. Hat Louis Vuitton. Earrings Chloé. socks nike. Boots Rockport works.
Robe Supreme.
Hoodie Balenciaga.
Kimono and bodysuit Chanel. Socks Nike. Boots Timberland.
T-Shirt Gucci. Bracelet Balenciaga. Bandana stylist's studio.
Hoodie Raf Simons.

A Free Freestyle for Anyone to Perform by Tommy Genesis

とっても小さく とっても新しい私の背中はまっすぐ
物事をはかる定規を見える
窓はくもってる 歴史はしょぼくれてる
苦痛なんて退屈 木々はみごとな黄金色
空を見上げれば 目の中に落ちてくるーー
夜の火に目をやれば 真上に照らし出されるエンブレム
感情はすべて出しても 言うべき言葉はない
ベッドは完璧に整えても 寝るべき場所はどこにもない
私は毒 痛みの瞬間を示すの
私は有毒 でもそれは男にとっての問題だというふうに話すの
私はロバ 馬じゃない レースはしない
あの人たちは私にまたがるけど 雌鶏みたいな雄鶏を追い回すために私を使ったりしない 私はチンパンジーみたいに葉っぱは食べないし、水も飲まない
心が心を食べるとき 闇の中で自分の心のために戦うの
あなたを食べさせて 性的な意味じゃなくーーあなたを食べさせて この痛みを埋める何かと一緒に

すべてを読み解くあなたのおでこいっぱいのエンブレムは見慣れない
車の中にいて 鍵はかけないで 塗装ははがさないで
スピードを出し過ぎちゃダメーー思い出に残りそうな場所には連れて行かないで
自分の中にある忍耐に目を向けて、曲がるのがわかる?――私がイカレてるがわかる?
階段を見るみたいにあなたは私の目や髪を見つめる そこでイカレてるの
舌が回る正常に機能する 痛みを飲み込むことはできるけど あなたには私を見させない 汚れるための小石
私はイカレてしまって 自分の手の上や手首の上を歩く 私はサーカス、そしてライオン、子どもみたいに話す
でもその子どもはライオンを見る、心の中のライオンを、私の酔いが覚めることはない、私が混乱することはない

ドアを開けたいなら 心の内側からノックする
ドアを開けたいなら 心の内側からノックする

暗い水 暗い部分 暗い肌 それは神のアート
暗い天国 暗い柄 循環するランタン
星が死に 肉体的危害がわかるようなかたちで その腕とともにヒトデのように生まれ変わる
私たちは食べない 私たちは女の子 私たちは痩せてるのが好きな
私たちは軽いのが好き だからあなたは私たちを投げ 利用し 妻にする
お腹がすいているのが好きなの
孤独でいるのが好きなの
膝を立てて ハイハイで家まで帰るのが好きなの
欲しがられたいけど あなたが欲しがるまでは帰らない
信じてもらいたいけど あなたが信じないなら行かない
愛されたいけど あなたがただ愛してくれないのなら負けない
自分の胎児が私たちを外皮で覆い あなたの浮気相手にしてしまうーー
今から永遠に この天候のもと 日の出が私たちを捕まえ

私たちは飛ぶの
だってかわいいもの
私たちは女の子
脚と羽根を持ってる
かわいいと感じるのが好き
でも罪という立場に甘んじている

いつの日か あなたは私を呼ぶだろう と私の空の声が言った
いつの日か あなたは私を愛するだろう、と高校生の私が言った
私の考え方は変わっていく 私の限界は震えている 私のあごは剃りたて 私の心は湿った車道
入っていくことはできないけど 参加しないわけじゃない
だからその輪の中に入って、口を開く
最高というのも問題ね、 ちどでも良くなれば ずっと良いものがほしくなる
一方で最悪は心の半分を変えてしまう部分なの

Credits


Photography Mario Sorrenti
Fashion Director Alastair McKimm

Hair Bob Recine at The Wall Group using Rodin. Make-up Francelle at Art + Commerce. Nail technician Alicia Torello at The Wall Group using Essie. Photography assistance Javier Villegas and Kotaro Kawashima. Lighting technician Lars Beaulieu. Styling assistance Desiree Adedje, Sydney Rose Thomas and Madeleine Jones. Hair assistance Kabuto Okuzawa. Make-up assistance Ryo Yamazaki. Production Katie Fash and Steve Sutton. Casting director Samuel Scheinman at DM Fashion Studio.
Translation Aya Takatsu