「ファッションとはずっと型にはまらない関係を築いてきた」A$AP Nast インタビュー
NY在住のヒップホップアーティスト/ラッパーが、家族、ファッションアイコン、デビューコレクションについて存分に語ってくれた。
Photography Bladimir Corniel
10年前、A$AP Mobとともに彗星のごとく現れたA$AP Nast/タリク・アマー・デヴェガは、ヒップホップに革命を起こしたラッパーのひとりだ。90年代半ばのニューヨークのブーンバップの影響を感じさせながらも彼らがつくる新世界へと誘う「Trillmatic」でブレイクしたこのヒップホップコレクティブは、ハーレムのラップの歴史に南部生まれの新しいサウンドを融合。それは簡素だがカリスマ性を感じさせる、とびきりクールなサウンドだった。
それからの10年、Nastはそのクールさを強みにLouis Vuittonのヴァージル・アブローとタッグを組み、ショーやキャンペーンのモデルを務め、ついにコペンハーゲン・ファッションウィークでカプセルコレクションを発表するに至った。ロサンゼルスにいる彼に、ファッション、家族、自分のやりたいことを実現する極意について話を聞いた。

──まず、ファッションにまつわる最初の思い出を教えてください。きっかけはミュージックビデオや雑誌の写真? それとも服でしたか?
最初にファッションに興味を持ったきっかけは、あまりよく覚えていない。ファッションとは、ずっと型にはまらない関係を築いてきた。子どもの頃から、僕の服装は周りの子たちとはひと味違った。でも、ファッション業界とかそういうものを目指そうと思ったことは一度もないんだ。
──昔憧れていたブランドは? 年上の子が着ているものを参考にしたりしました?
母からはすごく影響を受けた。きっかけは母が着せてくれた服。それに、他の子と同じものを着て学校に行くのも嫌だった。かなり好みがうるさい子どもだったんだ。みんなと同じ格好をしたくない、普通じゃないのがいい、っていう思いがずっとあった。うまく説明できないけど。
──自分のスタイルを築くうえでもお母さんの影響は大きかった?
彼女からはものすごく大きな影響を受けた。80年代後半から90年代前半にかけて、母は生粋のゲットー・ガールだった。スパンデックスとオーバーサイズのボンバージャケットを着て、Reebok Classicを履いて、ドアノッカーのイヤリングをつけていた。お気に入りはスウェットパンツとAir Maxのスニーカー。それがずっと記憶に残ってる。

──素敵です。
彼女にはずっと独自のスタイルがあって、それが忘れられない。僕は今でもAir MaxとかReebok Classicのファンなんだ。スウェットやトラックスーツも好きだし。それが僕のスタイルの原点になった。でも、僕は気まぐれだから70年代も大好き。祖母もすごくおしゃれな女性で、シックでエレガントだった。ドレッシーでプレッピーなものが好きなのも祖母譲りだと思う。彼女はファーやパールを身につけて、Vanessa Peteyを着こなしてた。
──最高ですね!
だから、ファッションは家族共通のものなんだ。でも、さっきも言ったように、いわゆるファッション好きになりたかったわけじゃない。ずっときちんとした格好をするのが好きなだけ。
──仕事でステップアップするなかで、ファッションアイテムのコレクションを始めたんですか? 買ったけど着ていないものもありますか? それとも、レアなヴィンテージアイテムを探すのが好き? あなたのアプローチを教えてください。
自分が何を集めているかみんなに知ってもらう必要はないと思うから、少しだけね。僕が集めているのは、Comme des Garçonsのアーカイブ。IsseyやYohjiも。ここのアイテムはたくさん持ってる。でも、いつも自分が持っているものの多さにうんざりして、処分しなければいけなくなる。スニーカーも同じ。僕はコレクターじゃない。コレクターっていうのはいろいろ溜め込んで、一生閉まっておくだろ。自分が持っているものの量には圧倒されるよ。わかるだろ?
──カート・コバーンと2PACをファッションアイコンとして挙げていますが、彼らがアイコニックだと思う理由は?
今は特に自分なりのスタイルがなくてもいい時代だけど、カート・コバーンにはひと目で彼とわかるスタイルがあった。それは服のことじゃない。(彼が着ていたのは)カーディガンやTシャツ、ジーンズ、Converseなど、なんの変哲もないものばかりだった。肝心なのは着こなしだ。彼はそれに間が抜けた感じのハットやあの巨大なメガネを合わせていた。彼はこういうアイテムの独自の着こなし方を発見したんだ。

──全くその通りですね。
誰だって、一度はブルージーンズとコンバースを履いてみるだろ。でも彼はそれを自分だけのスタイルに変えた。そこがカートのカッコいいところだよ。最もシンプルでありふれたものを、自分のものにする。そういうアイテムを使って、彼にしかできない着こなしを楽しんでいた。
──あなたにとって完璧な服、完璧なルックとは? 定番のコーディネートはありますか?
定番のコーディネートはいくつかある。ひとつはスウェットパンツ、クルーネックセーター、スケーターソックス、Air Maxの組み合わせ。もうひとつは、スラックスとスニーカーに白のTシャツかフーディ。スーツもいろいろ持ってる。プリーツ入りとかオーバーサイズのものとか。
──あなたのクリエイティビティの源は? それは何かに取り組んだ結果生まれるのか、それとも自然と刺激を受けるんですか?
ほとんどは自分自身から。自分の想像力を使ってね。他には人間観察とか、映画を観たりとか。
──人間観察は楽しいですよね。
そうだね。僕はあらゆるものからインスピレーションをもらうんだ。例えば、消防車が今ここを通り過ぎたら、「これをジーンズに落とし込んでみたい」とかね。みんな「いったい何の話?」って感じかな。
──すごいですね。
僕は大半のものに対して型にはまらないアプローチをとる。クリエイティビティがどこから生まれるかなんてわからないし、個人的にはどうでもいい。とにかく作り続けて、今やっていることを続けて、それでうまくいってる。
「自分がどう生きてるかもよくわからない。ただ続けてる。何でもやりたいことに挑戦してるだけだよ」
──現代を生きるミュージシャンとして、あなたはもちろん最高のパフォーマーですが、360度すべて完璧にこなし、創作し、明確なヴィジョンを描き、強力なアートディレクションとヴィジュアルアイデンティティを保ち続けるのは、とても大変なことだと思います。あなたには初めから自分自身をアーティストとしてみなす明確なヴィジョンがあったのですか?
いや、まったく。今も正直そんなことはないよ。自分がどう生きてるかもよくわからない。ただ続けてる。何でもやりたいことに挑戦してるだけだよ。
──なるほど。つまり段階的な感じ?
段階的に進めるようにしてる。計画を立てるのは苦手なんだ。だって計画を立てたところで絶対に計画通りには進まないから。物事が計画通りに進まないとめちゃくちゃ頭にくるんだ。僕だって怒りたくないし、幸せな気分でいたい。いつも笑顔でね。僕は毎朝起きるたびに違う人間になってるんだ。気持ちも常に変化してる。今夜夢を見て、目が覚めたら何もかも変えてしまうかもしれない。でも、その次の日にまた変わる可能性もある。それでも何とかなってる。めちゃくちゃでとっ散らかってるけど、僕はそれで何とかなってる。
──今までにもらった最高のアドバイスは?
シンプルに、〈夢を追え、カネじゃなく本当の夢や目標を追いかけろ〉。僕が生まれた場所ではみんながカネを追い求めていたから、特に印象的だった。みんな自分が得意なことは気にもかけず、稼げる方法ばかり知りたがる。夢を追いかければ、カネは後からついてくる。カネと女性を追いかけずに、夢を追え、ってね。〈最高の父親になりたい〉とかでも構わない。もしそれが自分の夢なら、やり通すんだ。
──ひとりで過ごすのは得意ですか? それともチームで進める方が好き? あなたにとってコラボレーションの重要性は?
どっちもかな。僕は一匹狼だけど、コラボレーションも楽しむタイプ。いいエネルギーさえ生まれるならね。最高のものはコラボレーションから生まれるんだ。

──2020年、コペンハーゲン・ファッションウィークでカプセルコレクションを発表しましたね。ファッションの分野でこの先の計画は? コレクション制作やブランドとのコラボレーションのプロセスについて少し教えてください。
これもかなり型破りなコレクションだった。コペンハーゲンでのことは、まさに僕や地元の仲間たちが故郷で夢見ていたことが現実になったんだ。ゲストを招待して、思い切り盛り上げたかった。本当はランウェイショーをやりたかったんだけど、ギリギリで実現できなかった。その代わりに楽しいパーティーを開いたんだ。タイトルは〈PDP(Please Don’t Pet)〉だ。僕と兄弟のD33J、他にも何人かDJが参加した。コロナで何もかもペースを落とすことになった。これからどうなるかもわからないけど、今もまだ進行中だよ。みんなこの旅を楽しんでる。友だちと一緒にやれるのは楽しいよ。それだけで幸せになれる。
──本当にそうですね。そろそろこの辺で終わりにしたいと思います。最高でした。ありがとうございました。
こちらこそ楽しかったよ。
──お時間をいただいてありがとうございました。
ありがとう。良い1日を!
Credits
With thanks to Tiffany & Co.
Photography Bladimir Corniel
Production Sun-ny Side Up
A$AP Nast wears coat and T-shirt COMME DES GARCONS. Jacket and trousers model’s own. Cardigan MAISON MARGIELA. Hat UNDERCOVER. Boots BOTTEGA VENETA. All jewellery (worn throughout) TIFFANY & CO.
All jewellery (worn throughout) Tiffany & Co.