空前のバラクラバ・ブームが内包する問題

TikTokをはじめ、SNSで大流行しているバラクラバ(目出し帽)。その歴史やファッションアイテムになるまでの経緯、その裏にある偏見や文化盗用問題を、有識者の意見を通してひも解く。

by Geremia Trinchese
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20 March 2022, 2:37am

Immagine di sinistra via @hijabi_frog; immagine di destra via @shamilnaa

現在のY2Kリバイバルに代表されるように、ファッションのトレンドが常に過去を参照していることは周知の事実だ。同様にバラクラバ(目出し帽)が空前の大ブームを迎えているのも、このアイテムが様々なスタイルや意味を与えられることとなった、長く複雑な旅の結果に過ぎない。現在このアイテムは、現実世界とネット上の世界の両方を席巻している。2022年2月時点で、TikTokの〈バラクラバ・スカーフ〉の視聴回数は2億1400万を超え、この音声があらゆる場所で使われ、専用のフィルターまで作られ、パリ・ファッションウィークのコレクションにも度々登場している。

そもそもバラクラバとは何か

ここ最近のネットの動向を追っていれば、バラクラバが2022年冬の最新トレンドであることは知っているはずだ。まだ知らないひとのために説明すると、バラクラバはもともと軍で使用されていた、このように顔のほとんどを覆い隠すアイテムだ。史上初の使用記録は1854年、クリミア戦争中のバラクラヴァの戦いだ。他に自由に使える物資がなかった英国兵が、厳しい気候から身を守るためにこの帽子を着用した。

バラクラバはいかにファッションアイテムとしての地位を確立したのか

ファッションデザイナーのヴィンチェンツォ・ヴェネルーソ(Vincenzo Veneruso)によれば、ファッション業界に初めてバラクラバが取り入れられたのは、1976年のWalter Albiniによる〈Guerriglia Urbana〉コレクションだ。しかし、それ以降のバラクラバの使用を時系列順に明らかにし、現在のトレンドへと押し上げた明確な原因を突き止めるのはほぼ不可能だ。ヴェネルーソはおそらく「キム・カーダシアンとカニエ・ウェストが関わっている」と指摘するが、それもはっきりとした答えを導き出すには不十分だ。自身のアイコンにバラクラバを使用しているイラストレーター、ミセス・ライオット(Mrs Riot)は、2019年にPUSSY RIOTがこの帽子をかぶっているのを見て使い始めたという。

バラクラバがトレンドになった理由

2020年代前半に話を戻そう。新型コロナウィルスのパンデミックが世界を大混乱に陥れ、同時におしゃれの価値観が一変する前、街を歩くひと全員がマスクをしているのを見たらどう思っただろうか。今では顔半分を覆い隠すことがある程度当たり前になったが、以前は奇妙で、不審に思うひともいたはずだ。しかし、今となっては不安に思うこともなく、マスクはすっかり日常の一部となった。このプロセスのおかげで、バラクラバの使用は数年前よりもずっと受け入れられやすくなった。

ミセス・ライオットは、このアイテムをロゴに使おうと決めたのは「政治性の高い決断で、見た目だけでなく反逆のシンボル」だという。「身元を隠してミセス・ライオットとして活動できるようになったので、バラクラバは私にとって革命的でした。誰も私の正体を知らなければ強気でいられるし、自分よりも大きな何かの一部になったような感じがします。自分は自由だと思えるんです」

さらにもうひとつ考慮すべき点がある。家の外で過ごす時間が減りつつある今、快適なソファからますます離れがたくなっている。屋外でも何かに包まれる安心感に得るためには、冬のバラクラバは理想的なアイテムだ。

TikTokでバラクラバがバズった理由

DIYのトレンドとも関連していて、比較的観点に手作りできるバラクラバは、まさにTikTok向きのアイテムだ。必要な材料は、毛糸とかぎ針だけ。さらに無限にカスタマイズでき、簡単なハンドメイドアイテムが真にクリエイティブな作品となる。最後に、バラクラバは自分で作っても、自宅で制作しているひとから購入しても、環境に悪影響を及ぼさない活動のひとつでもある。

昨年バラクラバの制作と販売を始めたフィレンツェ在住のクリエイター、ヴィタミナ(Vitamina)は、依頼が殺到したため、すぐに注文数を制限しなければならなかったと語る。典型的なお客さんについて訊くと、彼女は「そんなものはない」と答えつつ、年上の世代からも「たぶん贈り物かジョークとして」注文があったと教えてくれた。

そのわりに、周囲ではほとんどバラクラバを目にしないというひとも多いだろう。ヴィタミナも「イベントでも2〜3個見かけたくらいで、ほとんどはInstagramで見かけた」という。つまり、バラクラバは、その見た目から、SNSにぴったりなトレンドなのだ。画面上で消費されるために作られたアイテムともいえるだろう。日常のアイテムとしてはイマイチだとしても、TikTokの動画なら、奇抜なデザインは絶大な効果を発揮する。

正直なところ、テレワーク中もしくはリモートで講義を受けるあなたの部屋には、SNSでシェアしたいシンプルでクールな要素はそこまで多くないだろう。2020年にマレットヘアを試してみてもう飽きてしまったというひとも、バラクラバを試さずにはいられないはずだ。

バラクラバと文化盗用問題

理論上は、何もかもが完璧に思える。とはいえ、なんらかの社会的、政治的、宗教的意味と結びついているアイテムが流行すると、その意味が歪められる可能性があるだけでなく、リプレゼンテーションや文化盗用の問題を生み出すこともある。例えば、ヒジャブの着用はフランスをはじめとする多くの国で議論を呼んでおり、それが解雇につながる国もある。

何らかのアイテムが本来の意味を失うことは、往々にして起きるものだ。例えば、2019年、パレスチナの苦難の歴史を表すシンボルであるクーフィーヤにも同じことが起きた。どのケースにおいても、文化へのオマージュと文化の盗用の境界線は非常に曖昧だ。

クリエイターのキヨナ・マヤ・バックホルター(Kiyonah Mya Buckhalter)は「身につけるときにその意味や歴史を心に留めることを意識する」ことが大切だと語る。コンテンツクリエイターのスミ・サイブブ(Sumi Saiboub)は、「得をするひととクレジットに名前が載るべきひとの間には境界線が引かれている」という。学生のラジェ(Rajae)も、共感について語った。「オマージュとは自分が知っているものを他人に共有したいとき、敬意を示すやり方でそのものへの関心を高めることです」

キヨナによると、バラクラバの流行は「問題は頭を覆うことではなくイスラムフォビアである」ことを示す数多くの事例のひとつに過ぎないという。「ファッションのために頭を覆うことは楽しいおしゃれかもしれませんが、宗教のためにそうすることは、それとは真逆です」。セルマのように、バラクラバの事例は「ヒジャブの問題とは完全に異なり、このふたつは同じものとしては捉えられない全くの別物」と主張するひとも入れば、ヒジャブの一般化に一役買っているという声もある。「目的はファッションでも宗教でも、頭を覆うことが例外でなくなれば、(このトレンドは)ポジティブな現象にもなり得ます」とスミは説明する。

しかし、ラジェとナダ(Nada)によれば、このトレンドはダブルスタンダードの助長につながる恐れもあるという。今まで一度もバラクラバをかぶったことがないナダは、かつて彼女のヒジャブを「抑圧の道具」とみなしていた人びとが、今ではバラクラバを「おしゃれ」として捉えていることを指摘する。「英国ではスポーツ大会でヒジャブが禁止されたり、フランスでは違法になるという話もありますが、そのいっぽうで、ファッション誌の表紙ではみんなかぶりたがる。これをダブルスタンダードと呼ばずに何と呼びますか?」とナダは訴える。

スミも彼女に同意する。「ビーニー帽でもすでに同じことが起きました。顔を隠すベールが社会的に受け入れられるアイテムに置き換えられたら、あなたはすぐに日常の一部になる。でも、それは全て肌の色次第です」

バラクラバの流行が顔を覆う行為の一般化を促しているとしても、それが全面的にポジティブなプロセスになるとは限らない。一般化とは、日常の中の特別なジェスチャーを簡素化、変換し、それに伴うシンボリズムを取り去り、最終的に宗教的、政治的な敬意が失われてしまうことを意味する。「バラクラバは、他のあらゆるトレンドと同じように、宗教的な目的で身につける女性たちがおしゃれで身につける人びとと同様に認められ、さらにそのふたつの違いが認識されることで初めて、プラスの影響をもたらすことができます」

最後に、たとえ頭を覆う行為のポジティブな一般化が起きたとしても、その効果が全員に適用されるとは限らない。ダイア(Dhya)は、バラクラバがトレンドになったことに喜びを感じるいっぽうで、それが前向きな変化にはつながらないと確信している。空港で通訳として働いていたとき、彼女は「同じように頭を覆っていたとしても、肌の色やエスニシティによっていかに対応が違うか」を目の当たりにしたという。「身につける目的がファッションでもイスラム教でも、結局はそのふたつで全て変わるんです」

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