Photography Yao Peng

ファッションの未来を担う5人のイメージメーカーにインタビュー

名門セントラル・セント・マーチンズ美術修士課程でファッションイメージを学んだ学生たちに、インスピレーション源やこの分野の未来について話を聞いた。

by Mahoro Seward; translated by Nozomi Otaki
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28 January 2022, 5:14pm

Photography Yao Peng

ファッションイメージの多様化がいまだかつてないスピードで進むなか、来るべき未来について訊くには、業界に入る直前の若者以上にふさわしい相手はいない。そこでi-Dは、セントラル・セント・マーチンズ(CSM)美術修士課程ファッションコミュニケーション専攻でファッションイメージを学んだ5人の学生にインタビュー。写真からスタイリング、映像、VRまで、彼ら彼女らの作品は、広がり続ける分野とファッションイメージ制作の可能性を証明している。

中国ネットサブカルチャーの美学からロンドンのストリートウェア、人工知能(AI)まで、多岐にわたるプロジェクトは、時代の移り変わりを鋭い視点から捉え、未来のヴィジュアルカルチャーのさまざまな可能性を垣間見ることができる楽しさに満ちている。ファッションの明日を担う5人のクリエイターに、インスピレーション源やファッションイメージの未来について話を聞いた。

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マータス・チャイ 

──卒業制作について教えてください。

僕の卒業制作は、ロンドンのストリートウェアシーンとユースカルチャーに関するzine。〈発表して販売するコミュニティ〉、アーカイブファッションの団体、レイヴやクラブ客のファッション、スケートカルチャーなど、いろんなグループやコミュニティを取り上げた。

 

──あなたにとって、強力なファッションイメージとは?

物語を語ることができるもの。写真に切り取られた何気ない瞬間は、念入りにつくられキュレートされた撮影よりもずっと強力で、人の心を掴むと思う。

 

──現代におけるファッションフォトの意義とは?

ファッションフォトというのはSNSに掲載し、オンラインで拡散するためのものだと思っているひとも多い。それもある意味では本当だけど、プリント写真がニッチになり、話題にするひとも減るにつれて、印刷されたファッションイメージは今まで以上に貴重で重要なものになっていると思う。今は誰でも長時間スクリーンで何かを見ることが多いから、実際に触れられる写真がもつ力はさらに大きくなっている。

 ──尊敬するファッション・イメージメーカーは?

エレイン・コンスタンティン、スティーヴン・マイゼル、アラスデア・マクレラン、それからステフ・ミッチェルやヒューゴ・コンテのような若い世代のフォトグラファー。ユースカルチャーを捉えるのが得意なひとや、ドラマチックでダイナミックな写真、映画のスチール写真みたいな写真を撮るひとに惹かれる。

──現代は人種、ジェンダー、セクシュアリティ、そして広義でのアイデンティティの政治にまつわる対話が、ファッションの分野で今まで以上に重要性を増しています。そのなかで卒業を迎えたあなたは、このような対話に対して、自分の作品をどのように位置付けますか?

スケートカルチャーのようなトピックに取り組んで、ほとんど取り上げられる機会のない、コミュニティの中で疎外された人びとに目を向けたいと思うようになった。メインストリームのメディアで目にするのは、ストレートでシスジェンダーの白人男性ばかりだから。

Melanin Skate Gals and Pals〉という、有色人種やクィアのスケーターに安全な空間を提供しているスケートグループに出会った。自分も有色人種として彼らの活動にすごく感動したし、自分のプロジェクトはファッションだけに留まらないと気づくことができた。ファッションは、コミュニティで疎外されたグループを讃える手段になったんだ。

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ヤオ・ペン

──卒業制作について教えてください。

私の卒業制作は、〈土味〉という文化的現象、もしくは中国のインターネットで公開されているショートビデオのジャンルから着想を得たもの。以前取り組んだ魅惑的な社会主義の美学に基づいて、いま中国のネットを席巻しているプラグマティズムの美学を取り入れた奇抜なデコレーションを作品と一緒にスタイリングした。例えば、バイカー用ウィンドブレーカー風コットンジャケットや家庭用サウナマシン、〈携帯電話傘〉なんかをね。

 

──あなたの中心的なテーマは?

土味という言葉が中国で注目を浴びたのは2017年頃で、英語の〈the taste of soil(土の味)〉をそのまま直訳した。もともとはダサいとか時代遅れという意味だったけど、2年後には有名なシンボルへと進化し、意味も変わった。土味のビデオやそこから派生した映像は、シンプルで古臭く、ちょっとチープな感じのものも多いけど、現代のポップカルチャーにはそぐわないシンボルでインターネットを席巻した。

 

学部生のとき、写真を通してこの土味を捉えるようになった。ただ低俗なだけじゃなく、実はすごくクリエイティブな文化に思えたから。個人的に土味はサブカルチャーの美学だと思っていて、Z世代のサブカルチャーへの貢献、そしてここ最近の世界中のメインストリームではないカルチャーを追求しようという流れから、私たちはメインストリームのファッションの美学へと向かっていくのではないかと思う。

 

──尊敬するファッション・イメージメーカーは?

ひとりはレン・ハン。彼は人間の身体を使って、さまざまなポーズを通してユニークな写真を撮っていた。注目を集めるためにヌード写真を撮るのは好きではないけど、レン・ハンの作品を通して、だんだん人間の身体に秘められた謎に気づいていった。彼の影響で、モデルにはよく不自然なポーズをとってもらう。もうひとりは、CSMでファインアートを学んでいる友だちのプリンセス・バタフライ。私の撮影のテーマにぴったりなアイテムをたくさん作ってくれた。彼女は中国における土味の美学の研究の第一人者でもあって、彼女が作る服は、花びんドレスや火鍋の牛肉ドレスなど、中国的な美学を凝縮してる。

 

──あなたが考えるファッションイメージの未来は?

ファッションイメージの未来はボーダーレスだと思う。ファッションイメージは写真でも映像でも、3DのARやVRでもいい。まだ誰も知らない新しいメディアも登場するかも。

 

──修士課程に進んだときの将来の計画を教えてください。進学してからそれは変わりましたか?

アートディレクターになり、中国と西洋のアバンギャルドな現代ファッションのヴィジョンを融合して、現代の中国文化に沿った新しい美学をつくりたいと思っていた。今はまだ、その計画からはかけ離れたところにいる。でも、修士号を取って終わりではないし、これからも勉強や研究を続けたい。

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カラン・ヒューズ

──卒業制作について教えてください。

人工知能の世界を探り、ファッションイメージの概念を押し広げる抽象的な作品をつくった。AIには無限の可能性があるから、型にはまらないイメージ創造の手法を探ったり、実験していくことが大切だと思う。

 

──あなたの中心的なテーマは?

AIアーティストのマルサスとのコラボレーションで、画像と動画を制作した。ファッションアーカイブの3DスキャンやGAN(Generative Adversarial Network:敵対的生成ネットワーク)での画像や動画制作など、従来的ではない方法で抽象的イメージをつくりたくて。The ARC LondonからAlexander McQueenのアーカイブアイテムをいくつか借りて、自由に動き回ったり細部まで見られる環境で、みんなにアーカイブアイテムを間近で鑑賞してもらえたら最高だと思ったんだ。

 

──尊敬するファッション・イメージメーカーは?

ニック・ナイトは史上最も革新的なイメージメーカーのひとり。彼が従来の枠を超え、新しい媒体を取り入れたのは、すばらしいことだと思う。それから、マンフレッド・ティエリー・ミュグレーの80年代や90年代の写真からも刺激を受けた。彼の写真のシュルレアリスムや色づかいにね。

 

──現代は人種、ジェンダー、セクシュアリティ、そして広義でのアイデンティティの政治にまつわる対話が、ファッションの分野で今まで以上に重要性を増しています。そのなかで卒業を迎えたあなたは、このような対話に対して、自分の作品をどのように位置付けますか?

自分もクィアの人間として、できるだけ多様なモデルを起用するようにしてる。個人的には、服にジェンダーは存在しないと思う。今回のプロジェクトの服は女性的だと思われるかもしれないけれど、シスジェンダーの男性モデルに着てもらった。何かの効果を狙ったわけではなく、似合っていたから。大切なのは先入観にとらわれないこと。

 

──あなたが考えるファッションイメージの未来は?

CGIやAIで制作したイメージが増えてほしい。まだ研究するべきことはたくさんあるし、AIは大きな可能性を秘めている。AIから生まれるものはとても抽象的で、美しい。それから、ファッション業界のキャスティングがもっと多様になってほしい。 

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アパーナ・アジ

──卒業制作について教えてください。

この作品は、たとえるなら自分に宛てた抽象的で包括的な手紙。自分とともに育った物語やキャラクターをたどる、もうひとりの自分に手渡す備忘録のようなもの。この写真には始まりも終わりもないけれど、ひとつの物語を提示していて、その内容は見るひとの想像に委ねられている。レム睡眠で見る滑稽で断片的な夢みたいに、現実と非現実のはざまを行ったり来たりする感じ。

 

──あなたの中心的なテーマは?

このプロジェクトの出発点は、慣行化されたイメージ制作の手法に逆らうこと。ヴァナキュラー写真やファウンドフォト(※アマチュアによる日常を捉えたスナップ写真)から、アジアと南アジアのアイデンティティ、パフォーマンス、衣服のリプレゼンテーションについて調べた。ここでのパフォーマンスとは、人の無意識の芝居がかった感じや、動作と動作の間にあるもののこと。まだ十分に調べられてはいないけど。私自身も昔遊んでいた、伝言ゲームから生まれた作品もある。伝言ゲームは人間のミスや不正確さに基づくゲーム。

 

──現代におけるファッションイメージの意義とは?

現代のファッションイメージは、誰もが自分や自分の物語に自信を持てるよう鼓舞するものであるべき。ファッションイメージは、アイデアを刷り込む力が危険なほど大きい。特に人種、ジェンダー、身体、アイデンティティにまつわるイメージはなおさらそう。だから、ファッションイメージは正しく扱う必要がある武器のようなものだと思ってる。まだまだ先は長いけど、たくさんの優秀なイメージメーカーが断固として自分自身のアイデンティティや物語を表象することで、ファッションイメージが今世界中に広がっている北半球やヨーロッパ中心主義的なアプローチを打ち破る日を楽しみにしてる。

 

──尊敬するファッション・イメージメーカーは?

私の作品は、好きなイメージメーカーの要素を取り入れたヴィジュアルを融合したもの。パッと思いつくのは、ディアナ・ローソン、ロナン・マッケンジー、フェン・リーかな。特に魅力を感じるのは、親密さやそのひとが信じる美学を表現しているユニークなヴィジュアル。彼らの作品は、社会派ドキュメンタリーとファンタジーを見事に融合している。私自身も、作品でこのふたつを組み合わせるのが好き。

 

それから、Rottingdean Bazaarのユーモアも、ファーハン・フセインの構図やロケーションも好き。私の作品の淡い色合いには、ハーリー・ウィアからの影響を感じられると思う。彼女は一体どうやってあの写真を生み出しているんだろう、っていつも不思議に思ってる。

 

──あなたが考えるファッションイメージの未来は?

ファンタジーとオーセンティシティ(※真実/本物であること)は別々の独立した概念ではなくなり、共生関係を築いて、お互いの領域に入り込んでいくと思う。

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オンジ・シム

──卒業制作について教えてください。

〈Real-Time〉は、都市部でデジタル機器に頼って暮らす人びとから着想を得たもの。ファッションイメージを通して、デジタルカルチャーの個人的な体験を共有することで、私たちが今生きている時代、私たちの在り方を表現したかった。抽象的なデジタル空間と物理的な都市景観が、VRやARなどの没入的かつ一般参加型の媒体によって融合するこの世界で、私たちがどのように現実とデジタルのアイデンティティを示しているかを調べた。それから、同じ瞬間を別の角度から捉えて提示することで、真実や認識の主観性について掘り下げた。

 

──あなたにとって、強力なファッションイメージとは?

革新的なファッションイメージ制作とは、新しい形式のファッションコミュニケーションやマルチプラットフォームでの体験、オーディエンスの交流を提示するもの。

 

──現代におけるファッションイメージの意義とは?

どのイメージにもそれぞれ目的や意図があるけど、イメージは価値を創造し、発展させるものであるべきだと思う。最近ではSNSやさまざまなプラットフォームを通して、画一的な広告ではなく多様なファッションイメージを見せることで、短時間かつユニークな方法で人びとの注目を集めることが可能になった。例えばSNSでは、イメージはこれまでとは異なる方法でアイデンティティに携わり、目に見えない価値を生み出す。無から何かを創造すること、もしくはイメージの文脈を変えることは、とても興味深い分野だと思う。

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