ティーンを熱狂させるラッパーLEXがコロナ禍で向き合った人生と「今」

先日3rdアルバム『LiFE』をリリースしたばかりの18歳のラッパーLEX。英語よりも日本語を、遠くの目標よりもこの瞬間の喜びを、馴れ合いの優しさよりも他人にコミットする優しさを──彼の価値観はいま大きく変わろうとしている。

by Bob Yoshida; photos by Shina Peng
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28 September 2020, 9:00am

世界中のティーンエイジャーがヒップホップに熱狂し、各国にティーンなら誰しも知る「ラップ・スター」が生まれている。日本でもフリースタイル・ラップのブームを経由して若者にヒップホップが受容されているものの、ラップ・スターと呼ばれる存在はまだいない。

しかし、日本における「ラップ・スター」になる可能性を秘めたアーティストの一人が、2002年生まれ、18歳のラッパーLEXだ。16歳の頃からSoundCloud上で楽曲を発表し始めた彼は、2019年、デビューアルバム『LEX DAY GAMES 4』とセカンドアルバム『!!!』の2枚のアルバムをリリースしシーンに衝撃を与えた。

最新系のトラップビートからオールドスクール、さらにはオルタナティヴロックやハウスミュージック、ガバなど、あらゆる時代のあらゆるジャンルの音楽をリファレンスにおいたトラック。そのうえで、エモーションに歌うようなフロウやシャウトを見せつけるラップスタイル。LEXはリル・ウジ・ヴァートやトラヴィス・スコットのようなラッパーが、ロックスターのような荒々しさとヒップホップの枠をはみ出した音楽を追求し始めた時代とリンクしたアーティストだ。

彼のステージにはスマートフォンを持った10代の少年少女が押しかける。オーディエンスは皆、エネルギッシュなステージに熱狂しながらリリックを口ずさむ。LEXの楽曲やそのリリック、スタイルは同世代のティーンから熱狂的な支持を得ているのである。惜しくも初の全国ツアーは途中で中止になってしまったが、その熱は今も広がっている。

そんななか8月にリリースされたアルバム『LiFE』は、タイトル通りLEX自身が自分の人生と向き合って生まれた作品である。なぜ、人生のなかにある、快楽や絶望をさらけ出すリリックは生まれ、ティーンたちを熱狂させるのだろうか。

──新型コロナウィルスの自粛期間中はどのように過ごしていましたか。

LEX:「人との関係が途切れているな」と思ったのでひたすら友達とかに電話をかけていました。今までは電話するのが全然好きじゃなかったんですけど、人と関わらないとダメになりそうで長電話したりとか暇電をすることが増えましたね。

──今年の全国ツアーは途中で中止・延期となってしまいましたが、4月にはEP『NEXT』をリリースし、その後3rdアルバム『LiFE』をリリースされます。攻撃的で刹那的なEPに対して、アルバムはJP THE WAVYやLeon Fanourakis、C.O.S.A.など様々なフィーチャリングアーティストが参加し、様々な国のポップスからの影響を感じさせるトラックや喜怒哀楽をストレートに表現したリリックが印象的です。この2作はどのように制作されたのでしょうか。

LEX:『NEXT』は自粛期間に入ってからすぐに作ったもので、短いスパンでの製作だったので内容もすごく攻撃的になりました。そこからしばらく自分の人生を見つめなおした時期があって。その期間に自分の身に幸せなことも、どん底に落ちることも両方降りかかってきたりしたんですね。そんな状況で作ったのがアルバムの最初のトラックである「Sexy!」で。これを作った後に、自分のどん底に起きた感情と一番幸せな時の感情を両方持ち合わせた作品を作りたいなって思ったので、アルバムタイトルを『LiFE』にしました。このタイトルにしたからには、いろんな要素が入った広大なイメージで作りたかったので、偉大な先輩たちや仲間をフィーチャリングアーティストとして呼んで曲を作っていきました。トラックのバリエーションが広いのも、コロナ期間の心境の変化が自然に反映されていった結果のことだと思います。

──幸せもどん底もさらけ出した作品であることは、後半の3曲の並びを見ても感じます。「What ya doing」で仲間たちとの享楽的な日常をラップしたあと、「PAST LiFE」と「あなたの幸せが一番」では自己嫌悪のような感情を歌っています。このようなリリックを書くうえで変化などはあったのでしょうか。

LEX:いままでの作品でも全力でさらけ出そうと思っていたんですけど、最近は歌詞の書き方が変わっていて。考えていることやフィーリングは変わらないんですけど、いまは日本語でラップをしようという意識が強くなっています。昔は英語や日本語と英語を合わせたリリックのほうがビートにもはめやすいし、ラップしやすかったんですけど、自分が普段使っているのは日本語だし、そのほうがさらけ出しやすいなと。だからいま作っている曲やまだ公開していない曲は、全部日本語でラップしていますし、『LiFE』でもそうしたトライをしています。

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──そうした「さらけ出す」リリックは、どのように書かれているのでしょうか。

LEX:トラックはいつも「Beats Star」っていうタイプビートを購入するアプリで探すんですけど、そのなかでいいなと思ったビートを聴きながら、頭の中の風景やイメージを膨らませていきます。その時は子供みたいなピュアな視点が大事になると思っていて。例えば青ライトを見て「青い」って思うんじゃなくて、「冷たいな」とか「エモーショナルだな」とか、見たものそのものよりも、そこから感じとった感情を分解しながらリリックを書いていきます。

──感情をリリックのなかでさらけ出すようになったのは、いつからなのでしょうか。

LEX:自然にですかね。音楽を始めた時にフロリダのヒップホップと出会って。ああいうアーティストたちも、いいことも悪いこともさらけだすんですね。その歌詞にすごく衝撃を受けて影響されました。ただ、思い返すとラップを始めた頃のほうが、感情を乗せられていた気がします。人間って子供であれば子供であるほどクリエイティブになるんですよ。いまは前よりもスキルやリリックは達者になったけど、感情を落とし込むという面では最初の頃のほうができていたなと。スキルが上がった分、いまはリスナーには伝わりやすくなりましたし、それはそれでいいことだと思っています。あと歌詞に書く題材に関しては、腹くくるようになりましたね。「ERiCA」とかは、自分がいまだにつながっている人のことについて書いていたりもするし。でもリリックに書くからには全力で書かないといけないなと思ってます。

──ストイックに感情を楽曲に昇華させようとするスタンスや、さらけ出すリリックが、SNSで生活の風景をシェアする世代であるいまのティーンエイジャーたちに支持される一因だと思います。そうした世代観を意識することはありますか。

LEX:世代によって価値観とか考えていることって全然違うと思っていて、だからこそ意識していましたね。曲に関しても、自分が思っているように伝わっているかはわからないんですけど、歳が近いからこそ、リスナーが自分なりに咀嚼していてくれている感じはしますね。

ただ、最近は世代についてあんまり考えないようになっていて。自分のやりたいことをやっていれば、広い世代に届くんじゃないかと思い始めたんです。歌詞を日本語で書くようになったのも同じ理由かもしれないです。

──さにアルバムを制作された今が心境の変化の真っ最中だということですが、これまでも、作品ごとにも心境やスタンスの変化が感じられますし、それがアーティストとしての持ち味だと思います。前作から今までの間で一番大きい価値観の変化はなんでしたか?

LEX:昔はもっとラップが上手くなりたいとか、いい曲を作りたいとか思っていたんですけど、いまはもっといい人間になりたいって思っていますね。やっぱり偉大な功績を残す人って人間として素晴らしい。例えばコミュニケーションにしてもそうで、僕らって人の庭に入らないというか、相手との距離をとって言葉を伝えますよね。でもそれは、本当の優しさではなくて。しっかり相手の庭にも入っていって、相手と向き合ってコミュニケーションできる人間になりたいです。優しさを持って相手を叱れる人間になりたいというか、人と真剣に向き合うことで厳しさも優しさも伝えられればいいなって思いますね。

──そう思ったきっかけは?

LEX:1年前くらいに、JP THE WAVYくんに私生活のことで叱られたことがあったんです。そもそもSNSのコメントがきっかけで、仲良くなって、よく遊ぶようになったんですけど、たしか会ってまだ3ヶ月くらいのときに叱られて。些細なことでも、自分のことのように厳しくしてくれる姿勢に優しさを感じたんですよね。思わず惚れちゃいました(笑)。

──JP THE WAVYさんが参加された楽曲「WORLD PEACE」で「差別も価値もいらないのにね」と言うリリックはかなり印象的でした。ここからもLEXさんの考える優しさを感じます。

LEX:価値に関していうと、お金とか立場に対する価値観は変わりましたね。昔は、お金をいっぱい手に入れて好き勝手やるのが自分のなかの目標だったんですけど、お金が手に入ってしまった時に「これが本当に欲しかったのかな」と思ってしまって。もちろんまだまだ自分は有名にもなっていないし、そこまで成功もしていないんですけど、自分が目標としていたものが想像していたものと違ったんですよね。いまの目標は必死に生きること。多くの人は目標や夢のために生きていて、今を楽しめていないように思うんですね。だから自分は、もっと瞬間的な喜びや楽しみに目を向けていたいというか。落ち着いて、今をしっかり見つめていたいです。

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