プッシー・ライオットに学ぶ、隔離生活5つの秘訣

ロシアの収容所で孤独な2年間を過ごしたプッシー・ライオットのナージャ。孤独な時間との付き合い方を熟知した彼女に、そのコツを教えてもらった。

by Sogo Hiraiwa
|
27 May 2020, 11:00am

世界各国でロックダウンが起こり、この数ヶ月間、都市生活者は自宅での隔離生活を余儀なくされている。もしこの隔離生活に"先輩"がいるとしたら、ナジェージダ(ナージャ)・トロコンニコワはそのうちの一人に挙げられるだろう。

ロシア出身のアクティビストで、クィア・フェミニズム・パンク集団〈プッシー・ライオット〉の創設者でもあるナージャは、 2012年3月、カラフルな目出し帽をかぶった仲間たちと共にモスクワの大聖堂で敢行したゲリラのパフォーマンス「パンク・プレイヤー」によって逮捕、その後の2年間をモスクワやシベリアの収容所で過ごした。過酷な労働を強いられながら孤独と闘うなかで、彼女はしかし、多くの学びを得たという(ハンガーストライキと収容所の残忍な実態を暴いた公開状によって、ロシア全体の刑務システムを改善させもした)。

そんなナージャは近年、プッシー・ライオットの音楽的な側面を押し進めるべく、楽曲制作やツアー敢行に心血を注いでいる。つい先日も、新曲「KNIFE」「HER」を2曲同時をリリースしたばかりだ。いずれの楽曲もクソ野郎のパートナーに立ち向かう女性を歌っているが、そこにはナージャが過去にパートナーから受けた虐待経験が反映されているという。

今回i-Dは、ロックダウンで自宅に籠っているというナージャにメール・インタビューを敢行。新曲やその背景にある過去の体験、隔離生活をサバイブするための秘訣についてきいた。

──コロナ禍の隔離生活、どう過ごしてますか?

ナージャ:元気でやってます。家から出ずに制作に励むことって、私にとってはまさに快適な状態なので。でも、こうやって家で、みんなからのサポートを感じながら快適に過ごせてるのはすごくラッキーなことだとも自覚してます。私だって、常にこういう環境にいられたわけじゃないし。数年前は精神的虐待を受けていて、もしこの自己隔離期間に虐待者と家にこもることになってたらマジで地獄だったと思う。だからこそ私たちは新作EP「KNIFE」のリリースに合わせて、虐待関係やDVについていろいろ語っているんです。

──新曲「KNIFE」と「HER」について聞かせてください。歌詞を読むと「HER」は複雑なストーリーですね。

ナージャ:「HER」は自分自身で選択をする女の子の話。彼女はとある女性を愛し、パーティーでそのひとを待ち続けたり、Tinderでそのひとの恋愛対象を探ろうとする。だけどその女性は彼女の元には来ない……っていう失恋のストーリー。だけど、ただの失恋ソングじゃない。もっと複雑です。プッシー・ライオットの曲はいつもそう(笑)。男尊女卑的な思想の男が出てきて、主人公の女の子をナンパする。彼女は興味ない、ってきっぱり断るんだけど、そいつはしつこくて、彼女が酔っ払うまで待ってる。それでも彼女はノーと言い続けるんだけど、男はついにクロニジン(※鎮静作用のある薬)を使って彼女の家に入り込む。そして「愛は暴力だ」といって彼女をレイプしようとするんだけど、彼女は男を殺し、「RIP」と吐き捨てる、っていう話。

──「KNIFE」にも、クソ野郎とその被害者の女性が出てきますね。

ナージャ:どちらも痛みを抱えた女性が主人公です。彼女たちは苦しんでいますが、内なる避難所を見つけ、反撃するんです。

──外出制限が始まってから世界中でDVが増加していますが、新曲はそうした状況を踏まえて作ったのでしょうか。

ナージャ:この2曲は、ロシア人プロデューサー/作曲家で友人のヴィーチャ・イサエフ(Vitya Isaev)と1年前に作ったんです。ヴィーチャと私は、虐待についてたくさん話をしました。それぞれいろいろ調べたり。虐待サバイバーにとってためになるのは、自らの経験を話すこと。虐待の被害者は、話をできるひとがいないことが多いんです。なぜなら虐待者が「〇〇に行かないでくれ」「僕は嫉妬深いから」「そんな話をするな」「あの男を誘惑してるんじゃないのか」などと言って、被害者の自分以外との人間関係をすべて断とうとするから。それが虐待の最初の兆候です。だから、家庭内で起きている危険な行動、罵倒、暴力を被害者は独りで受け止めている。そうすると、被害者の中に罪悪感が芽生えます。そんな必要なんてないのに、です。虐待関係から抜け出したひとは、自分が経験してきたことを声を大にして発信すべき。そうすれば他の虐待被害者たちも、自分のパートナーや友人が有害だと気づき、逃げることができるから。自分を愛し、自分の人生を生きるべきなんです。私の場合は、元パートナーが私を外出させたがらず、私のパソコンや機材、書類、衣類、壁を壊しました。自分の身にも暴力が及ぶ場合もあります。

── 大変でしたね……。

ナージャ:今回、この2曲をリリースしようと決めたのは、外出禁止状態のファンたちをサポートしたいと思ったから。アートは救済ではないけれど、誰かの行動のきっかけになるのは確か。例えば虐待者から逃げるとか。

この2曲と合わせて、10分程度の啓発ビデオもリリースしました。どうやって精神的虐待だと判断するか、どうやって虐待関係から逃げ出すかを私が説明している動画です。実際、逃げ出すのはすごく困難で、私も1年かかったんですけど。

──プッシー・ライオットはここ数年、音楽活動を精力的に行なっていますよね。アクティビズムと音楽はどう関連しているのでしょうか。

ナージャ:私にとって音楽は、アクティビストとしてのすばらしい武器なんです。楽しく教育的にできるなら、それが理想的。学校では大したことを教えてくれないし、学校で学んだことなんて試験が終わったらみんな全部忘れちゃうでしょう。ゲームならもっと効果的に学べる。実際に没入できるし、生きた体験を得られるから。プッシー・ライオットのアクティビスト・ミュージックは、ゲームなんです。イケてる人間であると同時に進歩的でいるためにはどうしたらいいかを教えるゲーム。

──新型コロナで予定していたツアーが中止になったと聞きました。

ナージャ:そう、3月から4月に大規模な北米ツアーを予定していました。ソールドアウトの公演も結構あって。私たちにとってはかなりビッグイベントだったんです。このツアーのために何ヶ月もリハーサルして、たくさんの新作アートを作りました。私たちは、オーディエンスに何をみせるかをかなり意識してるので。でもそんなとき新型コロナのパンデミックが始まった。私たち全員にとって大打撃でした。今、ミュージシャンたちは経済的にかなり困ってます。私たちにとってはツアーが主な収入源なので。だから、ものすごく大変です。私たちのグッズをネットで買ってくれてる支援者のみなさんにはすごく感謝してます。私はこの数ヶ月、グッズ販売の収入で生きてますね。

でもポジティブな面もある。みんながお互いに助け合って、連帯意識が増しています。コロナ禍が終わってもこの意識を持ち続けていられればいいですよね。それに多くのひとが、おそらく人生で初めて、資本主義はダメなんだということにはっきり気づいた、という意味でも重要です。資本主義は誰も守ってくれないし、気にもかけない。もし〈使えない〉とされてしまったら、野垂れ死ぬしかない。コロナで失業した何百万人が、そう言われているも同然なんです。

──ロシアではコロナをきっかけに、どんな問題が浮上してきていますか?

ナージャ:政府は、生活費がない国民へ何の支援もしていません。ロシアは裕福な国のはずですが、その富は最上位の富裕層に集中しているんです。政府は国民を支援する代わりに、警察の出動を増やし、そして国民を取り締まり罰金を科しています。私たちにお金なんてないのに。

──最後に、収容所で2年間過ごしたあなたから読者に、自己隔離生活のコツを教えてください。

ナージャ:もちろん!

1.体を動かすこと。外出できなくても運動するのは大切。
2.本をたくさん読むこと。本はいつでも寄り添ってくれる。本がある限り孤独じゃない。
3.自己省察を大切に。瞑想でも、ロックダウンでも、投獄でも、あるいは修道院に入ろうとも、独りぼっちになることで、自分についてじっくり考えられるっていうメリットがある。
4.他人との交流の質に注意すること。
5.みんなもっと実存主義的な考えをしたほうがいいと思う。コロナ禍を機に、自分たちの将来について考えるようになったけど、それは今後も続けていくべき。あと、他者のこと、そして地球全体の問題への高い関心も保つべき。今は全世界がCOVID-19を解決しようとしてる。このパンデミックが解決したら、今度は地球温暖化や環境汚染など他の問題をどう解決するか、みんなで考えていきましょう。


ナージャが自主隔離中に収録してくれた宅録ミニライブ(日本オーディエンスへのメッセージ付き)はこちら

Tagged:
KNIFE
Her
Interview
PUSSY RIOT
Nadya Tolokonnikova
self-isolation