米国白人富裕層の隠された生活:写真家バック・エリソン interview

俳優や小道具を使って、アメリカに暮らす富裕層の生活を再現する写真家バック・エリソン。初の作品集『Living Trust』を刊行した彼が、自身の作品について、「富の不均衡を持続させているメカニズム」に目を向けることの重要性について語る。

by Ryan White; translated by Nozomi Otaki
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12 June 2020, 8:25am

サンフランシスコに生まれ、現在はLAを拠点に活動するフォトグラファーのバック・エリソン。彼は長年、「米国の白人富裕層の言語」を写真に収めてきた。遠くから見ると、彼の作品はティナ・バーニーの写真を彷彿とさせる。しかし間近で見れば、彼女の作品よりずっとよそよそしい、全く別の視点に気づくはずだ。

富裕層を見つめるとき、重要なのは「特権」を理解することではなく、その概念を捨て去り「不平等を持続させているメカニズム」について掘り下げることだとバックはいう。俳優や小道具を使って、現実離れしたコミュニティの聖域を再現する彼が、このたび初の作品集『Living Trust』を発表。本作は、富裕層の典型的なシンボルや作りこまれたわざとらしい表情を越えて、彼らの内面に肉薄する。

興味深いものは、いつも表層には現れないところに隠れているのだ。

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Untitled (Christmas Card), 2019 © Buck Ellison 2020 courtesy Loose Joints

──写真を通して、どんなストーリーやコミュニティを捉えたいと思っていますか?

僕の被写体は、自分が描写されることを頑なに拒んでいるように見えます。形式的には民主主義、平等主義を謳う社会において、不平等を持続させているメカニズムをあえて見せたがるひとはいません。僕が作品で表現したいと思う振る舞いや動作は、普段は隠されていることが多いので、ふとした瞬間に何かを捉えたり、あらわにするカメラの不思議な力は、僕にとっては特に便利で魅力的に感じられます。重要なのは、富裕層の人びとがお金の使い道や振る舞い、大切にしているものなど、あまり人目に触れない選択を通して、いかに自分たちの社会的地位の価値を強め、結果として身の回りの深刻な格差を無視しているのかを捉えること。少なくとも、彼ら自身は自分たちに責任があるとは思っていません。

──撮影には役者を起用していますが、撮影プロセスや、シナリオ作りにおけるディテールへのこだわりを教えていただけますか?

もちろんです。例えばこの〈Sunset〉という作品の出発点は自伝的なものです。高校時代、バンパーに貼るステッカーにはとても大きな意味がありました。似たような学生たちのなかで自分の個性を示すための手段だったんです。それを写真で表現したくて。高級車の塗装を安っぽいステッカーで台無しにするという冒涜的な行為に惹かれたのもありますが、初めてステッカーが貼られる瞬間、つまりアイデンティティを文字通り形成する瞬間が好きだったんです。

それからロケハンとモデルのキャスティングをして、お金を払ってモデルのひとりにカッピングを受けてもらい、かなり時間をかけてステッカー(Patagonia、The North Face、Save Tibet)と服(Ralph Laurenのシャツ、Red Stripeのタンクトップ、タイ製の指輪)を用意しました。撮影に入る前に念入りに準備をしたことを示したかったので、小道具やスタイリングの決定はとても重要なプロセスでした。取るに足らないことに思えるかもしれませんが、富と進歩主義が表裏一体で、若者がその意味も知らずに資本主義を嫌うこの小さな世界において、これらの繋がりにはとても大きな意味があります。富裕層の象徴的な地位は、車などの有形財に現れることもありますが、若者の多くは、自分の知識や価値観の獲得を示す文化的なサインを通して自分の階級を明らかにします。それがバンパーに貼るステッカーなんです。

撮影には2時間ほどかかりました。長丁場だったので、動きもだんだんルーティン化していきました。モデルたちはただステッカーを貼るふりをするのではなく、実際に車にステッカーを貼っていました。夕暮れ時に撮影しようと思ったのは、ステッカーの〈Save Tibet〉の旗に夕日が描かれていたから。ありふれた瞬間が荘厳な光に照らされているところも気に入っています。

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Every Good Boy Does Fine, 2009 © Buck Ellison 2020 courtesy Loose Joints

──『Living Trust』では「富、特権、白人であることは米国でどのように維持され、広められているのか」を掘り下げていますが、このテーマを選んだきっかけは?

特権というのは、他人の行動を取り締まるために使われる、なんの意味もない言葉です。今、これまでになく格差が拡大しているにもかかわらず、米国は〈格差のない社会〉を誇りに思っている。僕たちは、富裕層のお金の使い道の良し悪しや、彼らが勤勉なのか怠惰なのか、他人のためにお金を使っているのか溜め込んでいるのかを判断しているうちに、大切なことを見失ってしまっています。誰かの特権階級としての生きかたが間違っていると指摘することは、つまり〈特権階級としての正しい生き方〉が存在することになってしまいますが、そんなものはありませんよね。不平等を持続させている機関や社会過程そのものから注意を逸らしてしまうので、この言葉には苛立ちを覚えます。

──本作のテーマは、あなたの作品全体やよく取り上げるテーマにも通底していますか?

僕が興味があるのは、好奇心をそそられるけれど、実際に目の当たりにすると罪悪感を覚える、という作品。確かに豊かさはさまざまな美しいものを生み出しますが、富を築き、持続させているシステムの多くは、客観的に見て好ましくないものです。もちろん、この罪悪感こそが、作品を見る楽しみを高めてくれるんですけどね。写真を見た人たちには、気まずさを感じるといわれます。被写体に魅力を感じると同時に嫌悪感も覚える、と。

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Husbands, 2014 © Buck Ellison 2020 courtesy Loose Joints

──あなた自身と米国の「余裕のあるアッパーミドルクラスの白人家族」の関係について教えてください。

「彼は腸の健康のために大金をつぎ込んでる」とか「彼女は1年間休職してボンゴを習うらしい」というのは特定の文脈においてよく耳にするフレーズですが、僕の写真が映し出すのはそういう世界です。たとえ形式だけだとしても、僕はこの世界との関わりをはっきりと示すようにしています。だからこそ、ほとんどの写真はクローズアップで、被写体のすぐそばでそのひとの行動をカメラに収めます。もし僕がテーマとしているこの世界で育ち、通学していなかったら、自分自身を〈批評する〉ことなんてできなかったと思います。

──米国の白人富裕層から学べることとは?

今こそこの層に注目するべきだと思います。『Forbes』が発表する米国で最も裕福な400人の財産は2007年から45%アップしているいっぽうで、ほとんどの国民は2008年の経済危機からいまだに立ち直ることができていません。世界的にみれば、世界人口の1%が富の50%を独占しています。恐ろしい数字ですよね。富がこれほど限られた人口に集中しているなかで、富裕層の行動を道徳的に判断することは、目くらましや注意を逸らすためのものに過ぎません。コロンビア大学政治学助教のドリアン・ウォーレンの言葉を借りれば、「私たちはトップで何が起こっているのか理解しなければいけない」のです。

バック・エリソンの『Living Trust』はLoose Joints Publishingにて予約受付中。

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Strenuous Life, 2013 © Buck Ellison 2020 courtesy Loose Joints
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Dick, Dan, Doug, The Everglades Club, Palm Beach, Florida 1990, 2019 © Buck Ellison 2020 courtesy Loose Joints
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Sierra, Gymnastics Routine, 2015 © Buck Ellison 2020 courtesy Loose Joints
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Hotchkiss v. Taft #1, 2017 © Buck Ellison 2020 courtesy Loose Joints
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Dick and Betsy, The Ritz Carlton, Dallas, Texas, 1984, 2019 © Buck Ellison 2020 courtesy Loose Joints
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Upper School Greenhouse, Marin Country Day School, Tiburon, California, 2017 © Buck Ellison 2020 courtesy Loose Joints

Credits


All images courtesy Loose Joints

This article originally appeared on i-D UK.

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